「権利証をなくしたので再発行してください」。法務局にそう頼んでも、出てくる書類はありません。再発行という制度が、日本の不動産登記に無いからです。
それでも家は売れます。法律は、権利証を出せない人のために別の道を用意しています。話がややこしくなるのはそこから先で、費用がかからない道が1つあるのに、家を売る場面ではほぼ使えません。理由は金額ではなく、条文に書かれた「2週間」です。
そして「権利証 紛失 費用」で検索すると、同じ1ページに無料・3,500円・4,000円・2万7,000円・5万〜15万円が並びます(2026年9月2日の検索結果)。どれも嘘ではありません。誰に払うお金なのかが違うだけです。
先に結論
- 権利証(登記識別情報)に再発行はない。法律が用意しているのは「出し直す」ではなく「別の方法で本人だと確かめる」道が3つ
- 費用のかからない道(事前通知)は、通知を発送した日から2週間、登記官がその登記をできない(不動産登記規則70条8項・不動産登記法23条1項)。代金と登記を引き換える売買の決済では日程が合わない
- 公証役場に払う委任状の認証手数料は4,000円(日本公証人連合会)。司法書士の報酬は公定価格が無く、5万円台から15万円ほどまで開く
権利証は再発行されない。法律は「出し直す」と書いていない
検索窓には「権利証 再発行 期間」「権利証 再発行 時間」「権利証 再発行 法務局」と打ち込まれています(2026年9月2日・当サイトのサジェスト採取)。再発行できる前提で、何日で届くのかを調べている人がこれだけいるということです。
この問いには答えがありません。日数がゼロだからではなく、窓口の向こうに手続きが無いからです。
根拠は、条文の作りそのものにあります。不動産登記法23条は、登記識別情報(かつての紙の権利証にあたるもの)を提供できないときにどうするかを定めた条文です。そこに置かれているのは「もう一度通知する」という規定ではなく、登記官が本人に郵便を送って返事を待つ手続きと、司法書士や公証人に本人であることを確かめさせる手続きです。法律が用意しているのは、書類の作り直しではなく、本人確認のやり直しです。
だから、家じゅうを探して出てこなかった時点で、探す作業は終わりになります。ここから先は「どうやって本人だと証明するか」の話に変わり、費用が発生するとしたらその証明に対してです。

権利証をなくしたと分かったら、費用より先にやることがある
日本司法書士会連合会が、相談例としてサイトに載せている問いがあります。
> 「権利証(登記済証)をなくしてしまいました。どうすればいいですか?」
これは個人の投稿ではなく、職能団体が自分のサイトに書いた例です。そして回答の書き出しが、費用の話ではありません。
> 「法務局で、紛失した権利証(登記済証)に書いてある不動産の不動産登記事項証明書を取得し、内容を確認してください。そして、その内容に変更がないとしても安心せずに、権利証(登記済証)と実印、印鑑登録証を紛失したことを法務局に伝えてください。」
売れるかどうかの確認より前に、登記の中身が動いていないかを見る。連合会が権利証・実印・印鑑登録証を3点まとめて挙げているのは、なくした組み合わせによって心配の質が変わるからです。
登記事項証明書は、その不動産の名義や抵当権が今どうなっているかを誰でも取れる書類で、取り方は登記簿謄本の取り方にまとめています。売却の相談を始める前に1通取っておくと、この記事のあとの話が全部早くなります。
権利証がなくても家は売れる。道は3つある
不動産登記法23条が用意している3つを並べます。
| 道 | 根拠 | 誰が動くか | 払う先 |
|---|---|---|---|
| 事前通知(法務局からの郵便に返事をする) | 法23条1項 | 法務局が郵便を送り、売主が申出を返す | なし |
| 資格者代理人による本人確認情報 | 法23条4項1号・不動産登記規則72条 | 司法書士が売主と面談して書面を作る | 司法書士 |
| 公証人の認証 | 法23条4項2号 | 売主が公証役場で委任状などの認証を受ける | 公証役場(+書類を頼めば司法書士) |
上から順に安いので、素直に読めば1つ目を選びたくなります。実際、費用の話だけなら1つ目が正解です。
ところが、家を売る場面に限って1つ目が消えます。

費用のかからない道が、家を売る日に使えない理由は「2週間」
まず不動産登記法23条1項の後段。
> この場合において、登記官は、当該期間内にあっては、当該申出がない限り、当該申請に係る登記をすることができない。
次に、その「期間」が何日かを決めている不動産登記規則70条8項。
> 法第二十三条第一項の法務省令で定める期間は、通知を発送した日から二週間とする。ただし、法第二十二条に規定する登記義務者が外国に住所を有する場合には、四週間とする。
さらに同じ規則70条1項1号で、相手が個人の場合、この通知は本人限定受取郵便(またはこれに準ずる方法)で送られます。郵便受けに投函して終わりではなく、本人が身分証を見せて受け取る郵便です。
3つをつなぐと、こういう順番になります。登記を申請する → 法務局が売主あてに通知を発送する → 売主が受け取って「申請の内容は間違いない」と申出を返す → そこでようやく登記が入る。発送から2週間は、申出が返るまで登記官がその登記をできません。
一方、売買の決済は同じ日の中で終わります。買主が代金を払い、売主が鍵と書類を渡し、司法書士がその足で登記を申請する。買主も、住宅ローンを出す銀行も、その日のうちに登記が入る前提でお金を出します。数千万円を払ったのに名義が売主のまま2週間宙に浮く状態を、払った側は受け入れられません。
だから決済では、事前通知は選択肢から外れます。不動産会社や司法書士がわざと高い道を勧めているのではなく、条文の作りとして日程が合わない。ここが、無料と十数万円が同じページに並んでしまう理由です。
逆に、その日に代金が動かない登記なら2週間はただの待ち時間です。急いでいないなら、費用のかからない道はそのまま残ります。「権利証が無い=必ず十数万円」ではありません。

司法書士に頼む「本人確認情報」は、何をする書類か
決済に間に合わせる側の道が、これです。不動産登記規則72条が中身を決めていて、司法書士が申請人と面談し、面談した日時・場所・状況と、本人確認に使った書類を明らかにした書面を作ります。
本人確認に使える書類の組み合わせも、同じ条文に区分があります。
- 顔写真のあるもの1点(運転免許証、個人番号カード、旅券など)
- 顔写真のないもの2点(健康保険の資格確認書、介護保険被保険者証、母子健康手帳など)
- 上の2点のうち1点+官公庁が発行した書類など1点
読んで分かるとおり、この手続きの中心は書類の枚数ではなく面談です。司法書士が実際に会って、この人が名義人本人だと自分の資格で保証する。名義人が2人なら面談も2人分になります。
私は、この費用を「書類の作成代」と思って比べるから納得できないのだと考えています。払っている相手は紙ではなく、間違えれば責任を負う立場でその保証を引き受ける人のほうです。金額の幅が事務所ごとに大きいのも、紙代の差ではないと見ています。
検索結果に並ぶ金額が割れている理由
2026年9月2日に「権利証 紛失 費用」で出てきたページには、次の金額が載っていました。左が書かれていた数字、右がこちらで確認できた範囲です。
| 書かれていた金額 | 何に対する金額か | 一次情報で言えること |
|---|---|---|
| 無料 | 事前通知 | この手続きのために誰かへ報酬を払う場面がない。ただし2週間の待ち時間が付く |
| 一律3,500円 | 公証人 | 日本公証人連合会が現在出している説明とは合わない |
| 3,500円から1万円程度 | 公証人 | 同上 |
| 別途27,000円 | 司法書士(ある事務所の料金表) | その事務所の値段。公定価格ではない |
| 5万〜10万円 | 司法書士 | 同上 |
| 5〜15万円 | 司法書士 | 同上 |
このうち、数字を一次情報で確定できるのは公証人の側だけです。
公証人手数料令34条1項は、こう定めています。
> 私署証書の認証についての手数料の額は、一万千円とする。ただし、当該私署証書を公正証書として作成するとしたときの手数料の額の十分の五の額が一万千円を下回るときは、当該下回る額による。
そして日本公証人連合会が「認証の手数料」として現在示しているのが、次の説明です。
> 契約書等の私署証書の認証は1万1000円ですが、その内容を公正証書にした場合の手数料の半額が1万1000円を下回るときは、その下回る額になります
> 委任状の認証は、委任状公正証書の手数料の半額である4000円が手数料となります
つまり公証役場に払うのは、委任状の認証なら4,000円。書類の種類が変われば私署証書の認証として11,000円という額も出てきます。3,500円という数字がどこから来たものかは確認できませんでした。ここでは連合会が今出している表示を採ります。
司法書士の側は、そもそも一次情報が存在しません。報酬は自由化されていて公定価格が無いので、2万7,000円も15万円も、その事務所の中では正しい値段です。「相場」と呼べるものが無いこと自体が、この検索の答えです。
だから私は、誰かが書いた「相場◯万円」を持って交渉するより、2〜3の事務所に同じ条件で見積もりを聞くほうが早いと考えています。そろえる条件は3つで足ります。売買の決済に間に合わせたいこと、名義人が何人いること、面談をどこでしてもらうかです。
権利証の紛失で払う費用は、売値の何%になるか
金額そのものより、自分の家の売値に対して何%かで見たほうが判断しやすくなります。当サイトが国土交通省の不動産取引価格情報から集計している中古戸建て(新耐震基準・築3年以上)の坪単価の中央値で、2つの市を並べます。
| 坪単価の中央値 | 件数 | 延床30坪に換算 | |
|---|---|---|---|
| 西宮市 | 1,166,746円 | 193件 | 約3,500万円 |
| 豊岡市 | 157,871円 | 24件 | 約474万円 |
仮に司法書士へ10万円を払うとすると、西宮市では売値の0.3%、豊岡市では2.1%です。同じ10万円が、7.4倍の重さになります。
司法書士が場所によって値段を変えているという話ではありません。全国どこでも似た金額の手続きなのに、売値のほうが7倍ちがうので、負担の感じ方だけが動く。「相場は◯万円です」と1つの数字で書いた記事が、豊岡で実家を売る人の役に立たないのはここです。西宮なら見積もりの差額数万円は誤差の範囲でも、豊岡なら手取りに効きます。
出典と集計条件:国土交通省「不動産取引価格情報」。中古戸建て(新耐震基準・築3年以上)、2024年4Q〜2026年1Q、西宮市193件・豊岡市24件の坪単価の中央値です。豊岡市は件数が少ないので幅を持って読んでください。延床30坪は比べるための仮の広さで、実際の売値は土地の広さと立地で動きます。10万円も、幅の中に置いた仮の金額です。
住所を入れると、国の成約データから坪単価の目安が出ます
決済日から逆算して、いつ気づけばよいか
権利証が無いこと自体は、売買を止める事情になりません。止まるのは、気づくのが遅かったときだけです。順番はこうなります。
- 売り出す前に探し終える。仏壇、金庫、貸金庫、古い書類ケース、購入時に不動産会社からもらった紙袋。買主が付いてから探し始めると、司法書士に相談する日と決済日の間が詰まります
- 出てこなかった時点で不動産会社に言う。売り出す前に言うのと、決済の1週間前に言うのとでは、選べる道の数が違います。この記事の3つの道のうち、遅くなるほど「間に合う道」しか残りません
- 登記事項証明書を1通取る。名義と抵当権が今どうなっているかを、自分の目で見ておく
- 司法書士の見積もりを2〜3件、条件をそろえて聞く。伝えるのは決済日、名義人の人数、面談の場所。公定価格が無い以上、比べる作業は自分でやるしかありません
- 急いでいないなら、事前通知で足りるかを聞く。その日に代金が動かない登記なら、2週間は待てる日数です
相続した実家を売る場合は、権利証の前に相続登記が要ります。何を集めるかは相続した実家を売るときの必要書類一覧にまとめました。探しても権利証が無いどころか、そもそも登記されていない建物だったという場合は話が変わるので、相続した実家が未登記だったのほうを見てください。
冒頭の「再発行してください」に戻ります。その言葉を法務局や不動産会社に言う必要は、最初からありませんでした。代わりに聞くことは、もう決まっています。「うちの決済日に間に合う道はどれで、いくらですか」。この2つを最初の相談で聞けば、割れた金額の中で迷う時間はいりません。
よくある質問
権利証をなくしたら、勝手に名義を変えられてしまいますか
日本司法書士会連合会は、相談例への回答として、まず登記事項証明書を取って内容を確認すること、そのうえで権利証と実印・印鑑登録証を紛失したことを法務局に伝えることを挙げています。個別の危険度をここで判断することはできないので、この2つを先に済ませてください。とくに権利証だけでなく実印や印鑑登録証も一緒に見当たらない場合は、売却の話より先に動く話になります。
事前通知は本当に無料ですか
この手続きのために誰かへ報酬を払う場面はありません。ただし、通知を発送した日から2週間は、申出が返るまで登記官がその登記をできません(不動産登記法23条1項・不動産登記規則70条8項)。代金と登記を同じ日に引き換える売買では、この2週間が入る余地がありません。費用ではなく日程が壁になる、というのが正確なところです。
公証人に頼めば4,000円で済みますか
公証役場に払う委任状の認証手数料が4,000円です(日本公証人連合会)。ただし、書類の作成を司法書士に頼めばその報酬は別にかかりますし、この道が使えるのは登記官が認証の内容を相当と認めるときです(不動産登記法23条4項2号)。本人が公証役場へ出向ける状態であることも前提になります。「4,000円だけで終わる」とは限らないので、司法書士へ依頼する形と両方で見積もりを聞いてください。
名義人が2人います。費用は2倍になりますか
本人確認情報は、司法書士が申請人と面談して作る書面です(不動産登記規則72条)。面談は名義人ごとに必要になるので、人数が増えれば手間も増えます。それがそのまま2倍の金額になるかどうかは事務所ごとの決め方なので、見積もりを頼む時点で名義人の人数を伝えてください。
この記事の根拠
- 条文:不動産登記法23条1項・4項1号・4項2号、不動産登記規則70条1項1号・70条8項・72条。「申出がない限り登記をすることができない」「通知を発送した日から二週間」「本人限定受取郵便」「面談」「本人確認書類の区分」は、いずれもこれらの条文の記載によります(2026年9月2日にe-Gov法令検索で原文を確認)
- 手数料:公証人手数料令34条1項(私署証書の認証は1万1000円)、および日本公証人連合会「認証の手数料」(委任状の認証は4000円)。本文の引用は同ページの表示のままです
- 相談例:日本司法書士会連合会「権利証(登記済証)をなくしてしまいました。どうすればいいですか?」。引用は原文のままで、これは個人から寄せられた投稿ではなく、連合会がサイトに掲載している相談例です
- 取引価格:国土交通省「不動産取引価格情報」を当サイトで集計したもの。中古戸建て(新耐震基準・築3年以上)、2024年4Q〜2026年1Q、西宮市193件・豊岡市24件の坪単価の中央値
- 検索結果に並んでいた金額(無料/一律3,500円/3,500円から1万円程度/別途27,000円/5万〜10万円/5〜15万円)は、2026年9月2日に「権利証 紛失 費用」を検索したときに表示されたページの記載です。事務所名は挙げていません
司法書士の報酬に公定価格はなく、この記事にも「いくらが正しい」と書ける数字はありません。実際の手続きは、管轄の法務局と、依頼する司法書士に確認してください。


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