不動産会社が事業をたためなくなるのは、赤字が続いたからではありません。現金が先に尽きるからです。東京商工リサーチによると、2026年上半期の全国の企業倒産5,346件のうち、原因が「販売不振」だったのは4,278件。全体の80.2%が、売れなくなって現金が回らなくなった会社でした。
「うちは物件も持っているし、銀行も貸してくれる」。その状態のまま止まる会社があります。ここでは架空のモデルケースを1社置いて、どういう順番で詰まっていくのかを数字で追いかけます。危ない場所は6つあって、順番に効いてきます。
この記事でわかること
- ✓ 2026年上半期の不動産業の倒産は162件で4年連続の増加。2025年に休廃業・解散した企業のうち、直前期が黒字だった割合は調査により49〜53%程度
- ✓ モデルの会社は在庫8,440万円・現金3,200万円を持ちながら、自由に使える現金は1,400万円で、資金寿命は7.4か月
- ✓ 帳簿上の差引が▲300万円でも、リフォーム費用1,050万円を在庫に振り替えると+750万円になる。買取再販は損益計算書だけでは判定できない
モデルケース:売上5,200万円、現金は7.4か月分
宅建業の個人事業で、売買仲介と買取再販をやっている会社を置きます。代表が営業の中心で、ほかにパートが数名。買取再販の在庫が3件あります。数字はすべて架空の丸めた値で、実在の会社のものではありません。
| 項目 | モデルの数字 |
|---|---|
| 売上(年度途中・9か月時点) | 5,200万円 |
| 売上原価 | 3,600万円 |
| 経費(うちリフォーム関連1,050万円) | 1,900万円 |
| 帳簿上の差引 | ▲300万円 |
| 普通預金 | 720万円 |
| 棚卸資産(販売用不動産) | 4,900万円 |
| 借入金 | 5,800万円 |
| 在庫3件の売出価格の合計 | 8,440万円 |
この会社の社長に手元の現金を聞くと、別口座や融資枠を含めて「3,200万円ある」と答えます。嘘ではありません。ここから、危ない場所を6つ見ていきます。

危険信号① 損益計算書の差引を、そのまま赤字だと思っている
経費1,900万円のうち、1,050万円がリフォーム関連費用です。売るために買った物件にかけたもので、まだ売れていない物件のぶんも入っています。
販売用不動産は棚卸資産として扱われます。企業会計基準第9号では、棚卸資産は原則として購入代価に付随費用を加えたものを取得原価とし、販売用不動産の取得価額には販売の用に供するために直接要した費用も加算されます。つまり買取再販のリフォーム代は原則として物件の原価に積まれ、売れた月にはじめて売上原価になります。
仮に1,050万円すべてが在庫に積まれる性質のものだったとすると、こうなります。
| 見方 | 差引 |
|---|---|
| リフォーム代を全部その期の経費にした場合 | ▲300万円 |
| リフォーム代を在庫(棚卸資産)に積んだ場合 | +750万円 |
1,050万円ぶん、判断がまるごと逆になります。実際にはどこまで原価に積むかは個別の判断で、原状回復の範囲の修繕や販売のための広告費など、その期の費用として落とすものも混ざります。顧問税理士に確認すべき論点です。
ここで言いたいのは金額そのものではありません。買取再販をやっている会社は、損益計算書の差引だけを見ても儲かっているかどうかが判定できない、ということです。「赤字だから危ない」も「黒字だから大丈夫」も、どちらも成り立ちません。
危険信号② 借りた金を「うちの現金」に数えている
手元の3,200万円の中身を割ります。
| 内訳 | 金額 |
|---|---|
| 現金の総額 | 3,200万円 |
| うち借入で確保した運転資金・仕入れ資金 | 1,800万円 |
| 返済義務のない自己資金 | 1,400万円 |
借りた金は、口座に入っていても会社の貯金ではありません。返す約束のついた預かり物です。ここを「うちは3,200万円ある」と数えると、判断が二倍ぶれます。
念のため書いておくと、資産と負債の差そのものは悪くありません。現金3,200万円と在庫4,900万円で資産は8,100万円、借入5,800万円を引いても2,300万円のプラスです。債務超過ではありません。それでも詰まる可能性がある理由が、次です。
危険信号③ 在庫8,440万円を、給料の担保だと思っている
在庫3件の売出価格は合わせて8,440万円。貸借対照表の上では立派な資産で、銀行に見せる資料でもこの数字が会社を支えています。
ただし来月の給与支払日に、この8,440万円は一円も使えません。不動産は売れて、決済して、着金してはじめて現金になります。その日をこちらの資金繰りの都合に合わせることはできません。
市場の在庫も積み上がっています。東日本レインズによると2026年2月時点の首都圏の在庫は、中古マンション45,112件・中古戸建23,685件。同じ月の成約はそれぞれ4,241件と1,910件でした。在庫のうちその月に売れるのは1割前後という水準です。価格は上がり続けていても、売れる件数まで一緒に伸びるとは限りません。実際、2026年3月には中古戸建の成約件数が17か月ぶりに前年同月比マイナスに転じています。
危険信号④ 資金寿命を計算していない
この会社があと何か月動けるのかを出します。借入5,800万円のうち、物件購入資金3,800万円は売却時に一括返済、証書貸付2,000万円は7年返済とすると、元金返済は月あたり約23.8万円。会社のランニングコストを月165万円とすると、毎月出ていく現金はこうなります。
| 計算 | 結果 |
|---|---|
| 固定費165万円 + 元金返済23.8万円 | 月188.8万円 |
| 自己資金1,400万円 ÷ 月188.8万円 | 7.4か月 |
| 現金全額3,200万円 ÷ 月188.8万円 | 16.9か月 |
売上がゼロになったと仮定した単純な資金寿命で、7.4か月です。在庫8,440万円を持ち、資産が負債を2,300万円上回っていて、銀行も貸してくれる会社の持ち時間がこれになります。

しかもこの7.4か月には、所得税・住民税・消費税・個人事業税・国民健康保険料・突発的な修繕・追加のリフォーム・次の仕入れが入っていません。入れれば、もっと短くなります。
読者
うちは在庫が売れれば一気に入ってくるので、資金寿命を出す意味はありますか。
売れる前提が外れたときに何か月もつかを知るための数字なので、売れる前提を入れると計算になりません。7.4か月と分かっていれば、5か月目に手を打てます。分かっていないと、7か月目に気づきます。
危険信号⑤ 波のある収入に、固定費を上乗せする
この会社の社長本人の仲介営業は、直近で4か月に約640万円の粗利を作りました。3か月ペースなら月213.3万円、4か月ペースなら月160.0万円です。
| 状態 | 仲介粗利 | 固定費165万円を引くと |
|---|---|---|
| 好調なとき(3か月ペース) | 月213.3万円 | +48.3万円 |
| ペースが落ちたとき(4か月ペース) | 月160.0万円 | ▲5.0万円 |
1か月あたり約53万円の差で、黒字と赤字が入れ替わります。これが仲介収入の波です。
ここに正社員を1人入れるとどうなるか。月給25万円でも、賞与・社会保険の事業主負担・交通費・営業車・通信・宅建手当・採用費まで積むと、年間で約521.9万円、月あたり43.5万円になります。給与総額325万円の1.61倍です。固定費は月208.5万円になり、4か月ペースの月160.0万円では毎月48.5万円足りません。
直近3か月の成績で人を増やすと、波の山を平常だと思って固定費を積むことになります。採用と外注のどちらが安いかは、時給だけでは決まりません。この論点はパート採用と入稿代行を賃金の実数で比べた記事で詳しく書いています。
危険信号⑥ 値下げを「損」とだけ考えている
在庫を1件持ち続けるコストを積みます。総原価2,250万円の中古マンションを1件、というモデルです。
| 項目 | 月額 |
|---|---|
| 借入金利(残1,250万円・年2.4%) | 2.5万円 |
| 管理費+修繕積立金 | 3.0万円 |
| 固定資産税(年10万円) | 0.8万円 |
| ポータル掲載など広告費 | 2.0万円 |
| 合計 | 月8.4万円 |
管理費と修繕積立金は、国土交通省「令和5年度マンション総合調査」の平均(管理費17,103円+修繕積立金13,378円=30,481円)を使いました。6か月売れなければ50.3万円、12か月で100.6万円です。
この金額だけを見ると「200万円下げるくらいなら持っていたほうがまし」に見えます。抜けているのは、その2,250万円が動けないことです。次の1件に回せない期間が長いほど、値下げしなかったことの損は大きくなります。保有コストと機会損失を並べてはじめて、下げるか待つかが決められます。
結局、見るのは3つだけ
細かい経営指標を並べる前に、この3つを紙1枚に書き出すところからです。
| 見るもの | 書き出す中身 |
|---|---|
| ① 自由に使える現金 | 口座ごとの残高と、そのうち借入で確保した分。差し引きが本当の手元 |
| ② 毎月出ていく現金 | 固定費+借入の元金返済。①÷②が資金寿命 |
| ③ 在庫の1件ごとの数字 | 総原価・紐づく借入・月の保有コスト・売出価格・保有月数・最低売却価格 |
③の「最低売却価格」は、総原価に売却時の仲介費用と残りの保有コスト、そしてその期間の会社の固定費の一部を足した水準です。物件単体でトントンでも、その物件が拘束していた期間の固定費を誰も負担していなければ、会社としては赤字になります。
この3つを出せば、売上を増やすべきなのか、支出を止めるべきなのか、在庫を早く現金に戻すべきなのかが、感覚ではなく順番で決まります。
よくある質問
Q. 借入が5,800万円あるのは危険な水準ですか。
金額だけでは判断できません。買取再販は仕入れに借入を使う商売なので、在庫が多い時期は借入も増えます。見るのは残高ではなく、その借入で買ったものが何か月で現金に戻るかです。
Q. 取引しようとしている不動産会社が危ないかどうか、外から分かりますか。
決算が公開されていない会社が多いので、数字からの判定は難しいのが実情です。分かるのは行政処分歴(国土交通省の建設業者・宅建業者等企業情報検索システム)と、免許の更新回数(免許番号のカッコ内の数字)くらいです。手付金の保全措置がきちんと説明されるかどうかも、確認できる材料になります。
Q. 黒字なのに廃業する会社が多いというのは本当ですか。
2025年の休廃業・解散について、東京商工リサーチは赤字企業率47.2%(=黒字が半数超)、帝国データバンクは直前期が黒字だった割合49.1%と発表しています。調査主体で数字が違うので、およそ半数と押さえるのが正確です。
出典
- 東京商工リサーチ「2026年上半期(1-6月)の全国企業倒産5,346件」。全国企業倒産状況(東京商工リサーチ)
- 東京商工リサーチ「2025年の休廃業・解散は過去最多の6.72万件、赤字企業率は47.2%」
- 帝国データバンク「全国企業『休廃業・解散』動向調査(2025年)」。休廃業・解散動向調査(帝国データバンク)
- 東日本不動産流通機構「月例マーケットウォッチ」2026年3月度。サマリーレポート(東日本レインズ・PDF)
- 企業会計基準委員会「企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準」。棚卸資産の評価に関する会計基準(ASBJ)
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」。管理費17,103円・修繕積立金13,378円(月/戸当たり平均)。マンション総合調査 結果概要(国土交通省・PDF)
- 全国健康保険協会「令和8年度保険料率」、厚生労働省「令和8年度の雇用保険料率・労災保険率」、日本年金機構「適用事業所と被保険者」
- 本文のモデルケースの数字は、記事のために作成した架空の値です。特定の企業の決算ではありません。


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