結論からいうと、「家賃は収入の3分の1までに抑えれば大丈夫です」とは言い切れません。母子世帯の母の平均年間就労収入236万円で計算すれば、たしかに目安は月6.5万円になります。ところが同じ6.5万円で借りられる広さは、神戸市北区で68.2㎡、東京都中央区で17.8㎡。3.8倍もちがいます。
つまり先に決めるべきは金額ではなく、どこで借りるかです。この記事では、公的統計から出した1,524市区町村の家賃データで、その差を数字にします。
この記事でわかること
- ✓ 「収入の3分の1」を母子世帯の平均に当てはめると家賃はいくらになるか
- ✓ 同じ家賃で借りられる広さが、市区町村でどれだけ違うか
- ✓ 児童扶養手当と自治体の家賃補助が、その差をどこまで埋めるか
「収入の3分の1」を母子世帯の平均に当てはめると6.5万円
こども家庭庁(当時は厚生労働省)の「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」によると、母子世帯は全国で119.5万世帯、母自身の平均年間就労収入は236万円でした。収入は令和2年の1年間のものです。
236万円を12で割ると月19.7万円。その3分の1が約6.5万円です。これが「収入の3分の1」で計算したときの家賃の目安になります。
ただし236万円は税金や社会保険料を引く前の額です。手取りで同じ計算をすれば、目安は5万円台に下がります。同じ調査では、母自身の平均年間収入(就労収入に手当などを加えたもの)が272万円、同居親族を含む世帯全員の平均年間収入が373万円でした。この373万円は、国民生活基礎調査による児童のいる世帯の平均所得を100とすると45.9にあたります。
同じ6.5万円で借りられる広さは、街によって3.8倍ちがう
総務省の住宅・土地統計調査(令和5年)には、共同住宅の「延べ面積1㎡あたり家賃」の分布が市区町村ごとに載っています。そこから中央値を計算して、家賃の予算で何㎡借りられるかを出したのが次の表です。
| 市区町村 | 1㎡あたり家賃の中央値 | 5.5万円で | 6.5万円で |
|---|---|---|---|
| 神戸市北区 | 953円 | 57.7㎡ | 68.2㎡ |
| 神戸市垂水区 | 1,063円 | 51.7㎡ | 61.1㎡ |
| 姫路市 | 1,207円 | 45.6㎡ | 53.9㎡ |
| 加古川市 | 1,214円 | 45.3㎡ | 53.5㎡ |
| 明石市 | 1,276円 | 43.1㎡ | 50.9㎡ |
| 神戸市長田区 | 1,468円 | 37.5㎡ | 44.3㎡ |
| 尼崎市 | 1,570円 | 35.0㎡ | 41.4㎡ |
| 西宮市 | 1,611円 | 34.1㎡ | 40.3㎡ |
| 神戸市灘区 | 1,952円 | 28.2㎡ | 33.3㎡ |
| 東京都足立区 | 1,999円 | 27.5㎡ | 32.5㎡ |
| 東京都世田谷区 | 2,973円 | 18.5㎡ | 21.9㎡ |
| 東京都中央区 | 3,658円 | 15.0㎡ | 17.8㎡ |
全国1,524市区町村の中央値をさらに並べると、真ん中は1,182円/㎡でした。6.5万円なら55.0㎡です。
読者
同じ県内なら、そんなに変わらないですよね?
それが、神戸市の中だけで2倍ちがいます。北区の68.2㎡と灘区の33.3㎡は、市境をまたがずに起きている差です。
25㎡・40㎡・55㎡で、暮らし方が変わる
広さの数字は、そのままでは生活に結びつきません。目安になるのは、行政が線を引いている数字です。神戸市のひとり親世帯家賃補助は、対象になる住宅の条件として居住面積25㎡以上を挙げています。ここが「補助を出す価値のある住まい」の下限として扱われている、ということになります。
子ども1人と暮らして、寝る場所と勉強する場所を分けようとすると、間取りでいえば2DKから2LDK、面積では40㎡台後半から55㎡前後が現実的な線になります。上の表でいえば、6.5万円でそこに届くのは神戸市北区・垂水区・姫路市・加古川市・明石市までで、尼崎市や西宮市では40㎡前後、灘区や東京23区の多くでは30㎡前後になります。
同じ家賃を払っていても、子ども部屋を1つ取れるかどうかが、住む市で決まっているということです。
児童扶養手当は、家賃6.5万円の74%にあたる
児童扶養手当は令和8年4月分から改定されました。令和7年の全国消費者物価指数が前年比+3.2%だったことを受けた引き上げです。
| 区分 | 全部支給 | 一部支給 |
|---|---|---|
| 児童1人のとき(月額) | 48,050円 | 48,040円〜11,340円 |
| 第2子以降の加算(月額) | 11,350円 | 11,340円〜5,680円 |
児童1人で全部支給なら48,050円。家賃6.5万円に対して74%にあたります。子ども2人で全部支給なら59,400円で、6.5万円の91%です。
ここで「手当が出るなら、家賃はもう少し高くても平気です」と考えたくなりますが、それは危ない読み方です。支給額は所得で決まり、全員が全部支給になるわけではありません。一部支給は児童1人で11,340円まで下がります。自分がどの額になるかは、前年の所得と扶養人数で計算されるので、市区町村の窓口で確認するのが確実です。
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自治体の補助は「引っ越し先」で決まる — 神戸市の場合
家賃そのものを補助する制度は、国ではなく自治体が持っています。神戸市の「ひとり親世帯家賃補助制度」を例に、条件を並べます(市のページの最終更新は2026年7月15日)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助額 | 月1万5千円(最大) |
| 補助期間 | 最大6年間(一番下の子が18歳に達して以後、最初の3月31日まで) |
| 対象の引っ越し | 2026年1月1日〜2027年2月28日の引っ越し |
| 所得の条件 | 世帯全員の所得合算額が市営住宅の収入基準(政令月収158,000円以下) |
| 住宅の条件 | 居住面積25㎡以上、耐震基準に適合していること |
| 申請期間 | 2026年4月1日〜2027年2月28日 |
「補助が出る市に住んでいるから、今の部屋のままで大丈夫です」と思っていた人には、ここが落とし穴になります。この制度は「引っ越し」が条件です。今の部屋に住み続けている限り対象になりませんし、神戸市から出れば神戸市の制度は使えません。月1万5千円は年間18万円、6年で108万円です。どの市に引っ越すかが、そのまま手元に残るお金の差になります。
同じような制度は自治体ごとに名前も条件も違います。候補の市が決まったら、その市の名前と「ひとり親 家賃補助」で検索して、募集期間と所得基準を先に見ておくと、部屋の探し方が変わります。
預貯金50万円未満が4割、養育費を受け取れているのは3割弱
同じ令和3年度の調査には、家賃を考えるうえで外せない数字が2つあります。
- 母子世帯の母の預貯金額は「50万円未満」が39.8%で最も多い
- 離婚した父親からの養育費を「現在も受けている」のは28.1%。取り決めをしているのは46.7%
家賃6.5万円の部屋を借りるとき、敷金1か月・礼金1か月・前家賃1か月なら、それだけで19.5万円が最初に出ていきます。ここに保証会社の初回保証料や火災保険、引っ越し代が乗ります。預貯金50万円未満が4割という数字と、この初期費用は正面からぶつかります。
「養育費が入るから、その分は家賃に回せます」という前提も、数字で見ると危うくなります。毎月の収入に養育費を織り込めるのは、実際には3割弱の世帯だけです。受け取れている前提で上限まで借りると、途切れた月に家賃が払えなくなります。
金額から決めると遠回りになる
私は、家賃を先に決める順番そのものが遠回りだと考えています。家賃は交渉できませんが、どこに住むかは選べるからです。
先に必要な広さ(子ども部屋を取るなら40㎡台後半から)を決めて、その広さが予算で取れる市を探す。そのうえで、その市に家賃補助があるかを確認する。この順番なら、神戸市北区の68.2㎡と東京都中央区の17.8㎡のような差が、部屋探しを始める前に見えます。逆に「6.5万円で探す」から始めると、その6.5万円が何㎡になるかは不動産会社のサイトを何十件も見るまで分かりません。
出典と集計条件:収入・預貯金・養育費は こども家庭庁「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」(調査日 令和3年11月1日、収入は令和2年の1年間)。家賃は総務省「住宅・土地統計調査 令和5年」(e-Stat 統計表 0004021510)の共同住宅・延べ面積1㎡あたり家賃の分布から、市区町村ごとの中央値を線形補間で算出(1,524市区町村)。児童扶養手当は令和8年4月分からの額。神戸市の家賃補助は同市ページ(2026年7月15日更新)。
この㎡単価の中央値は、単身向けの狭い部屋を含む共同住宅全体の値です。同じ市の2DK・3DKの募集賃料と一致するものではないので、広さの比較として使ってください。


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