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認知症の親の家は売れる? 後見人をつけただけでは、まだ売れません

「認知症の親の家を売るには後見人が要る」——調べてここで止まると、売った代金を返す話になりかねません。後見人をつけたあとに家庭裁判所の許可がもう一段あり、神戸家庭裁判所は許可を取らずに売った場合について「その契約は無効です。」と書いています。

もうひとつ、その後見人は家族とは限りません。令和7年に選ばれた42,732件のうち、親族が選ばれたのは16.4%でした。

この記事でわかること

  •  後見人をつけても、自宅の売却には家庭裁判所の許可が別に要る。許可なしの契約は無効になる
  •  後見人に選ばれた42,732件のうち親族は16.4%。申立書に親族を候補者として書いた事件も19.7%しかない
  •  報酬は「管理している財産の額」で決まる。神戸で売れた家1,655件のうち73.6%が1,000万円を超えた
目次

「後見人不要」と書いてある買取に、親の家を売れるのか

2022年8月、Yahoo!知恵袋にこんな質問が出ています。

寝たきり認知症の親の不動産を売却したいです。
後見人が必要なのは知っていますが、ネット検索していると後見人不要の不動産買取サービス等を見ます。
後見人不要で不動産を売却することは可能なんでしょうか?

回答は3件つきました。方向は3件とも同じです。

まっとうな手続きではムリです。

その手の詐欺する不動産屋と司法書士はいるな

3人目も「無理。」から始めて、「普通は、司法書士が登記してくれない。」と書いています。結論はそのとおりです。

ただ、3人とも質問者が「知っています」と書いたほう——後見人をつければ売れる——は確かめていません。実はここが半分しか当たっていません。後見人は入口で、自宅を売るには出口にもう一枚扉があります。

読者

後見人さえつければ、あとは普通の売買と同じじゃないんですか?

おかあさん

自宅だけ別扱いです。家庭裁判所の許可がないまま売ると、その売買はなかったことになります。

民法の全文を数えると、「認知症」は0回

条文をe-Govの法令データで取って、機械で数えました。民法の全文に「認知症」は0回です。使われているのは「意思能力」が9回、「事理を弁識」が5回。

第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

後見の入口を決める条文も、病名では書かれていません。

第七条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

つまり法律が見ているのは診断名ではなく、その人の能力です。だから「認知症と診断されたから、もう売れない」も「まだ診断されていないから大丈夫」も、条文からは出てきません。売買契約を結んだその時点で意思能力があったかどうかだけが問われます。

最高裁判所の令和7年の集計では、後見の申立てで医師の鑑定まで行ったのは全体の3.4%でした。実際には診断書と本人面談で進むほうが多い、ということです。

!
この記事では、ある人に意思能力があるかどうかの判定はしません。個別の判断は医師と家庭裁判所の領域です。

「無効」と「取消し」は、あとから治せるかどうかが違う

ここが、この話でいちばん誤解されている一点だと思います。同じ「売れない」でも、法律上の壊れ方が2種類あります。

後見人がついている人が自分で結んだ契約は、こう書かれています。

第九条 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。

取り消すことができる、というのは裏を返せば取り消さなければ有効ということです。しかも、あとから追認すれば固まります。

第百二十二条 取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。

一方、後見人をつけないまま、意思能力を失った本人が売った場合は第三条の二の「無効」です。無効には、追認して固める仕組みがありません。何年経っても、あとから相続人が「あれは無効だ」と言える状態が残ります。

読者

買った側も困りますよね。

おかあさん

だから買い手がつきにくくなります。値段はそこで下がります。

私は、この2つの差が「後見は面倒だから避ける」という判断をひっくり返すところだと見ています。手続きの手間だけを比べると後見は重い。けれど取引の壊れやすさで比べると、後見をつけずに売った取引のほうが、あとから直せない形で残ります。売る側にとっての本当のコストは、手続きの時間ではなく、この直せなさのほうだと考えます。

後見人をつけても、自宅だけは家庭裁判所の許可が要る

民法は、後見人の権限から自宅を切り出しています。

第八百五十九条の三 成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。

この条文は、判断能力の落ち方が軽い場合にも効きます。第八百七十六条の五第2項が保佐に、第八百七十六条の十第1項が補助に、それぞれ第八百五十九条の三を準用しているからです。判断能力の落ち方が軽く、後見ではなく保佐や補助になった家でも、自宅を売るなら許可は同じように要ります

神戸家庭裁判所が配っている「成年後見人 Q&A」(令和7年6月)には、読者の状況そのままの設問が載っています。

被後見人は、入院が長引いていて、自宅に戻ることは難しいようです。被後見人の自宅が空き家になっていて不用心なので、売却したいと思っています。問題はありますか。

答えはこうです。

被後見人が住んでいた家の売却、取り壊し、又は、借りていたアパートの契約の解除などには、家庭裁判所の許可が必要です。

なお、この処分とは、売却や取り壊しだけでなく、賃貸、抵当権の設定なども含まれます。

そして、守らなかったときのことも書いてあります。

許可を受けずに売却したり抵当権を設定したりすれば、その契約は無効です。

注目したいのは、この設問が「入院が長引いていて、自宅に戻ることは難しい」人の話だという点です。今そこに住んでいなくても、居住用として扱われます。空き家になっているから自由に売れる、ではありません。取り壊しも同じ扱いなので、更地にしてから売るつもりでも許可は先に要ります。

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後見人になるのは、家族ではない

成年後見人等と本人との関係別件数42,732件のうち、親族は7,014件で16.4%、親族以外が35,718件で83.6%。親族以外の内訳は司法書士33.5%、弁護士24.9%、社会福祉士20.4%。申立書に親族を候補者として書いた事件は19.7%
最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 ―令和7年1月~12月―」より作成

令和7年に成年後見人・保佐人・補助人が選ばれた件数は42,732件。このうち親族は7,014件=16.4%で、残る83.6%は親族以外です。内訳は司法書士が33.5%、弁護士が24.9%、社会福祉士が20.4%と続きます。

これを、家庭裁判所が家族を後見人に認めてくれないからだと読む説明をよく見ます。同じ資料に、その読み方をそのまま受け取れなくする数字が並んでいます。親族を候補者として申立書に書いた事件の割合は、約19.7%です。5件のうち4件は、はじめから候補者に親族の名前がありません。

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16.4%と19.7%は分母が違います(前者は関係別件数42,732件の内訳、後者は認容で終局した後見・保佐・補助開始事件の割合)。引き算して「何ポイントが落とされた」とは言えません。

神戸に絞ると、別の傾向も見えます。神戸家庭裁判所の管内で申し立てられたのは2,363件で、そのうち市区町村長が申し立てたものが281件=11.9%。全国の23.7%に対して半分以下です。神戸では、家族が動いて申し立てている割合が全国より高い、ということになります。

読者

候補者に自分の名前を書けば、通ることもあるんですか?

おかあさん

16.4%は選ばれています。ただ、書かなければ0%です。まず書くかどうかの話が先にあります。

報酬は「管理している財産の額」で決まる。家を売ると、その額が動く

親族以外が後見人になれば、報酬が発生します。いくらか。神戸家庭裁判所のQ&Aはこう書いています。

報酬の額は、管理している財産の額や後見事務の難易などを総合的に検討し、それぞれの事案ごとに家庭裁判所が決めます。

家庭裁判所が決めた報酬の額に不満がある場合、又は報酬が認められなかった場合でも、不服の申立てはできません。

このQ&Aは全20ページありますが、金額は1円も書かれていません。神戸家庭裁判所は報酬の目安額を公表していない、というのが2026年9月時点の状態です。だから「神戸ならいくら」は、この記事でも書けません。

書けるのは、決め方として名指しされている「管理している財産の額」のほうです。実家を売れば、その額は売却代金の分だけ増えます。神戸の実家を売ると、いくらになるのか。

神戸市9区で売買された家つき住宅地1,655件の取引総額の分布。1,000万円以下が26.4%(437件)、1,000万円超5,000万円以下が55.1%(912件)、5,000万円超が18.5%(306件)。中央値は2,500万円で、73.6%が1,000万円を超える。区別の中央値は東灘区5,450万円から長田区950万円まで
国土交通省・不動産取引価格情報から、神戸市9区の「宅地(土地と建物)」かつ「住宅地」1,655件を集計

中央値は2,500万円。1,000万円以下は26.4%しかなく、4件のうち3件(73.6%)が1,000万円を超えています。区で見ると東灘区は中央値5,450万円で92.2%が1,000万円超、いちばん低い長田区でも中央値950万円で46.1%が超えます。

ただしこの1,655件は「売れた家」であって、認知症の人が持っている家ではありません。手元に残るのも、仲介手数料と税を引いたあとの金額です。管理財産額には他の預貯金も乗ります。それでも、家を売った前と後で桁がひとつ動く家が多いことは、この分布から読めます。

私は、ここが後見をためらう本当の理由になっていると見ています。手続きが面倒だからではなく、売って現金にした瞬間に、報酬を決める土台が上がる——しかもその額は始める前には分からず、決まったあとに不服も申し立てられない。読めない支出を、期間の見えないまま抱えることになるからです。

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動き出してから、家が動くまでの時間

後見の申立ては、そもそも何のために出されているのか。最高裁の集計にある「主な申立ての動機」を多い順に並べると、預貯金等の管理・解約が93.4%、身上保護が74.2%、介護保険契約が45.7%、そして不動産の処分が36.3%(15,502件)です。3件に1件以上が、不動産を動かすために出されています。

時間の目安も出ています。令和7年に終局した42,674件のうち、2か月以内に終わったものが71.1%、4か月以内が93.8%。認容で終わったものは95.1%です。

つまり、申立てから後見人が決まるまでが2〜4か月。そのあとに居住用不動産の処分許可の申立てがあり、それから売却活動が始まります。動き出してから最初の数か月、家は動きません。施設の入居費用を家の売却で用意するつもりなら、この期間の資金繰りを別に組む必要があります。

読者

親が元気なうちに、やっておけることはありますか。

おかあさん

売るか残すかを本人と決めておくことです。判断できるうちなら、本人が自分で売れます。

実家をどうするかの話は、名義や登記の状態でも変わります。建物が登記されていない実家の場合は相続した実家が未登記だった、きょうだいで持っている場合は共有名義の実家から抜ける道を先に読んでおくと、動ける順番が見えます。

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よくある質問

認知症と診断されていたら、もう家は売れませんか?

診断名だけでは決まりません。民法の全文に「認知症」という語は0回で、書かれているのは「意思能力」です。契約をしたその時点で意思能力があったかどうかが問われます。判断が難しい場合に後見の申立てをすることになりますが、その申立てで医師の鑑定まで行われたのは令和7年で全体の3.4%でした。

後見人をつければ、あとは普通に売れますか?

自宅は別扱いです。民法第八百五十九条の三で、居住用の建物と敷地を売るには家庭裁判所の許可が要ります。神戸家庭裁判所のQ&Aは「許可を受けずに売却したり抵当権を設定したりすれば、その契約は無効です。」と書いています。保佐・補助でも同じ許可が必要です。

親が施設に入っていて空き家です。それでも許可は要りますか?

要ります。神戸家庭裁判所のQ&Aは、入院が長引いて自宅に戻ることが難しい人の自宅について、売却にも取り壊しにも許可が必要だと書いています。今住んでいないことは、許可が不要になる理由になりません。

子どもが後見人になれますか?

なれる場合があります。令和7年に選ばれた42,732件のうち、親族が選ばれたのは16.4%でした。ただし申立書に親族を候補者として書いた事件は約19.7%で、5件のうち4件ははじめから親族の候補者がいません。候補者として名前を書くかどうかは、申立てをする側が決めることです。

最後に

最初の質問者は「後見人が必要なのは知っていますが」と書いていました。知っていたことは正しく、足りなかったのは、そのあとにもう一枚扉があることのほうです。

売れないのではありません。売る手順が、家族が思っているより一段多い。その一段を知らずに「後見人不要」の看板に寄っていくと、無効という、あとから直せない壊れ方に当たります。

出典

  • 民法(e-Gov法令検索・法令ID 129AC0000000089)第三条の二/第七条/第九条/第百二十二条/第八百五十九条の三/第八百七十六条の五/第八百七十六条の十
  • 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 ―令和7年1月~12月―」(令和8年3月)
  • 神戸家庭裁判所「成年後見人 Q & A」(令和7年6月)
  • 国土交通省「不動産取引価格情報」(神戸市9区・宅地(土地と建物)・住宅地 1,655件を集計)
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この記事を書いた人

ハウスメーカー2社で営業職を経験し、不動産・建築の基礎を習得。
その後、地域密着型の不動産会社にて営業事務として勤務し、
契約書作成、ポータルサイト管理、物件情報の入力・更新など、
実務全般に携わってきました。

特に、ポータルサイトを「より魅力的に見せる工夫」や、
反響につながる「分かりやすい間取り図作成」を得意としています。
自分が関わった物件に反響があった時の喜びが、今の原動力です。

現在は子育てのため一線を退いていますが、
これまでの実務経験を活かし、
フリーランスとして不動産会社様向けの
バックオフィスサポート業務を開始しました。

現場目線を大切にしながら、
「早く・正確に・伝わる」業務サポートを心がけています。

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