「点検のため断水します」。エレベーターの横にその貼り紙を見つけて、何時間止まるのか調べた人へ。調べても出てきません。1〜2時間程度と書いているページ、平均2〜4時間で8時間を超えることもあると書いているページ、1〜4時間だが6時間以上もあると書いているページが並びます。
どれも嘘ではありません。法律が決めているのは「1年に1回以上」という回数だけで、断水を何時間までにしなさいという条文がないからです。長さを決めているのは建物のほうで、それが書いてあるのは貼り紙にしかありません。
この記事では、法律が何を決めていて何を決めていないのかを条文で確認し、貼り紙のどこを見れば見当がつくのかを整理します。あわせて、自分の建物がそもそも年1回の対象なのかを、8つの自治体の公開資料で並べました。境目は自治体によって違いました。
この記事でわかること
- ✓ 法律が決めているのは清掃と検査の「回数」だけで、断水の長さを決めた条文はない
- ✓ 年1回が義務になる境目は受水槽10立方メートル超。ただし東京都は5立方メートル超、川崎市などは8立方メートル
- ✓ 建物1棟だけが止まっているのか、街ごと止まっているのかで、聞く相手が変わる
法律が決めているのは「1年に1回」という回数だけ
マンションの水は、いったん建物の受水槽に貯めてから各戸へ送っている場合があります。この受水槽から先の管理は、水道局ではなく建物の持ち主(分譲なら管理組合)の仕事です。その管理の中身が、水道法施行規則第55条に書かれています。東京都多摩立川保健所が掲げている4項目を引きます。
(1)水槽の清掃を毎年1回以上定期に行うこと
(2)水槽の点検等汚染を防止するために必要な措置を講ずること
(3)給水栓で色、濁り、臭い、味等に異常があれば必要な水質検査を行うこと
(4)汚染時は給水を停止する等の措置を講ずること
さらに、この管理がきちんとされているかを外部の検査機関に見てもらう義務が別にあります。「前述1の管理について、毎年1回以上定期に登録検査機関の検査を受けること(水道法第34条の2第2項、水道法施行規則第56条)」。同じ保健所のページには「検査を受けなかった場合は、罰則が適用される場合があります」とも書かれています。
ここまでが法律の中身です。「毎年1回以上」という回数と、やるべき項目。それだけです。何時間で終えなさい、何時間を超えてはいけない、という規定はありません。
読者
じゃあ、貼り紙に書いてある「9時から15時」は何を根拠にした数字なんですか。
その建物で作業する業者の見積もりです。水を抜いて、洗って、消毒して、また溜め直すまでにかかる時間。だから水槽が大きいほど、水槽の数が多いほど長くなります。法律の数字ではありません。
検索して出てくる時間が食い違うのは、そのため
「マンション 断水 点検 何時間」で出てくるページを上から順に見ると、数字がそろっていません。管理会社系のページは1〜2時間程度、清掃業者系のページは平均2〜4時間で8時間以上のケースもある、水道工事系のページは1〜4時間だが6時間以上も珍しくない、と書いています。知恵袋には「マンションで8時間、点検のため断水します」という質問が残っています。
書き手が適当なのではありません。全国共通の答えが存在しないものを、それぞれが自分の現場の感覚で答えているだけです。長さを左右するのは、だいたい次のところです。
- 受水槽の大きさ(水を抜く時間も、溜め直す時間も変わります)
- 屋上の高置水槽があるかどうか(あれば、そちらも別に洗います)
- 清掃だけなのか、ポンプやバルブの交換も同じ日にやるのか
- 建物のどこまでを止めるのか(全戸か、一部の系統だけか)
そしてもうひとつ、貼り紙の時間そのものが動くことがあります。兵庫県の播磨町は、水道工事のお知らせページにこう書いています。
工事の都合により、ビラでお知らせした断水の時間がずれる場合や、雨天等でやむを得ず工事を中止する場合がありますので、ご了承ください。
役場が自分の工事についてこう断っているくらいなので、掲示の時刻は予定であって約束ではないと考えておくほうが安全です。終わりの時刻ちょうどに洗濯機を回す予定を立てない、くらいの余裕は見ておきたいところです。

そもそも自分の建物は「年1回」の対象なのか
ここが意外と知られていません。年1回の清掃と検査が水道法の義務になるのは、受水槽の有効容量が10立方メートルを超える建物だけです。これを簡易専用水道と呼びます。10立方メートル以下は「小規模貯水槽水道」と呼ばれ、水道法の規制から外れます。
愛知県の碧南市は、この分類にあわせて珍しい注記も出しています。「消火用、または工業用など非飲用の受水槽は、有効容量が10立方メートルを超えていても、簡易専用水道には該当しません」。タンクがあれば対象、という単純な話ではありません。
問題は、10立方メートル以下をどう扱うかが自治体でまったく違うことです。8つの自治体の公開ページと条例を実際に開いて並べました。
| 自治体 | 10立方メートル以下の受水槽の扱い |
|---|---|
| 広島市 | 義務なし(「簡易専用水道に準じた管理を推奨」) |
| 大阪市 | 指導要綱で「準じた管理をお願い」 |
| 碧南市 | 「準じた管理に努めてください」 |
| 東京都 | 5立方メートル超は条例で義務(清掃・検査とも年1回以上、書類は5年保存) |
| 横浜市 | 8立方メートル超と、地下式の受水槽はすべて検査が義務 |
| 川崎市 | 清掃は条例で義務。検査は8立方メートル以下を除いて義務(記録は3年保存) |
| 相模原市 | 8立方メートル超は年1回の検査が義務。8立方メートル以下は任意 |
| 横須賀市 | 条例で、1戸だけの住宅と8立方メートル以下は検査の対象外 |
同じ大きさの受水槽でも、広島市なら法律上の義務はなく、東京都なら条例の義務がある。この差が実際に生まれています。小さめのマンションやアパートで「うちは毎年断水しないけれど大丈夫なのか」と思ったことがある人は、まず自分の市区町村のページを見るのが早道です。
表の5立方メートル・8立方メートルという線は、主に「検査」のほうの線です。清掃については、川崎市や横須賀市の条例では容量に関係なく毎年1回以上と定められています。清掃と検査は別の義務で、川崎市のページには「受水槽の清掃とは別に実施してください」とはっきり書かれています。
貼り紙のどこを見れば見当がつくか
時間の根拠が建物側にある以上、読者にできるのは掲示から読み取ることです。見るのは4か所です。
- 作業の名前。「受水槽清掃」なら年1回の定期作業です。「給水管更新」「ポンプ交換」と書いてあれば、清掃だけより長引きます
- 誰が出した紙か。管理組合・管理会社の名前なら建物の工事、水道局や市の名前なら道路側の工事です
- 止まる範囲。全戸なのか、特定の階や系統だけなのか
- 連絡先。時間がずれたときに聞ける番号が書いてあるか
2番目の「誰が出した紙か」は、掲示を見つけられなかったときにも効きます。碧南市は、水が出なくなった住民向けのページで切り分けを示しています。
3階建て以上の集合住宅の場合/受水槽・高架水槽の清掃、点検等による断水の可能性があります。建物の入口付近にお知らせがあるかどうかご確認ください。お知らせがある場合、詳しくはお知らせに記載のある連絡先または管理会社等へお問い合わせください。
そして「近隣一帯で出ない場合は、工事で断水か突発事故の可能性があります」として、市役所の水道課の直通番号を案内しています。建物1棟だけが止まっているなら管理会社、街ごと止まっているなら水道局。自治体自身がこう線を引いています。
清掃に使う水にも、料金がかかっている
あまり知られていませんが、受水槽を洗うために使う水は、無料で出てくるわけではありません。東京都水道局は、貯水槽水道のよくある質問のページでこう案内しています。
なお、受水タンクの清掃用水については料金が発生しますので、23区は所管の営業所、多摩地区は水道局お客さまセンターまでご連絡ください。
広島市も「受水槽等清掃用臨時給水申込書」という書式を用意していて、清掃業者が申請する仕組みになっています。同じ東京都水道局のページには「水道局では清掃は行っておりません」ともあります。作業費も、洗うための水の代金も、建物側の負担です。分譲なら管理費や修繕積立金から、賃貸ならオーナーの負担から出ています。年1回の断水は、その支出が実際に行われている証拠でもあります。
\水が止まる原因は点検だけではありません/
停電で水が止まるのは、点検の断水とは別の話
受水槽から各戸へ水を送っているのはポンプです。ポンプは電気で動くので、停電すると水道管が無事でも水が止まります。予定された断水と違って、こちらは前触れがありません。
大阪市水道局は、この問題に制度で手を打っています。
大阪市では、平成30年の台風の際、一部マンション等の建物において停電に伴う断水が発生したことを踏まえ、市民・お客さまサービス向上の観点から、受水槽方式の建物において、停電時等に建物全体が断水とならないように、非常用給水栓を直圧部に設置することを認めることとしました。
「直圧部」とは、受水槽に入る前の、水道本管の圧力がそのまま届いている部分のことです。そこに蛇口を1つ付けておけば、停電でポンプが止まっても、建物のどこか1か所では水が出る。台風の被害を受けて、実際に運用が変わった例です。
2026年8月の千葉の豪雨でも、同じことが起きました。地下の電気設備が水に浸かってポンプが止まり、断水した建物があります。復旧の費用を誰が払うことになるのかは別の記事にまとめました。設備が止まると部屋そのものは無事でも暮らせなくなる、という話も同じ千葉の事例から書いています。
\部屋が無事でも住めなくなる仕組み/
私が「時間の書いていない貼り紙」を気にする理由
ここからは意見です。
法律が回数しか決めていないということは、断水の長さは掲示でしか住民に伝わらない、ということでもあります。裏を返せば、掲示に終了予定時刻と連絡先が書いてあるかどうかは、その建物の管理の姿勢がいちばん素直に出る場所だと考えています。
年1回の清掃は、やらなければ罰則がありうる作業です。それをやっている建物は、少なくともその1点はきちんとしている。逆に、何年も断水の掲示を見た記憶がなく、受水槽が10立方メートルを超える規模の建物であれば、一度は管理会社に清掃と検査の記録を聞いてみる価値があります。記録は保存が求められているものなので、「無い」という答えが返ってくること自体が答えになります。
よくある質問
マンションの点検による断水は何時間かかりますか
法令に定めがないため、全国共通の目安はありません。受水槽の大きさ、高置水槽の有無、同じ日に設備の交換もするかどうかで変わります。掲示に書かれた時間帯がその建物の答えで、それも予定であって確定ではありません。
断水中にトイレは流せますか
排水管は断水と関係なく使えるので、汲み置きの水があれば流せます。播磨町も「断水の場合は、あらかじめ水の汲み置きをお願いします」と案内しています。ただし同じ日に排水管の清掃が入っている建物もあるので、掲示に流さないよう指示がある場合はそちらに従ってください。
断水中、蛇口は開けたままにしておくべきですか
閉めておきます。播磨町は「断水時間中は、蛇口を必ず閉めた状態にしておいてください」とし、その理由を「断水終了後、水が突然でないようにするため」と書いています。開けたまま外出すると、復旧した瞬間に出しっぱなしになります。
断水が終わったあと、水が濁っていたらどうすればいいですか
まずしばらく流して、澄むかどうかを見ます。それでも色や濁り、臭いに異常が残るときは管理会社へ連絡してください。東京都水道局は、清掃後の不具合について「検査や清掃をおこなったことに起因する場合があるので、まずは、実施業者へ御相談下さい」と案内しています。水道法施行規則第55条でも、給水栓で異常があれば水質検査を行うことが管理者の義務とされています。
受水槽が10立方メートル以下なら、清掃しなくてもいいのですか
水道法の義務ではありませんが、自治体の条例で義務になっている場合があります。東京都は5立方メートルを超えるもの、川崎市は容量に関係なく清掃を条例で義務づけています。広島市のように「推奨」にとどめている自治体もあるので、市区町村のページで確認してください。
出典
- 東京都多摩立川保健所「簡易専用水道法定検査よくある質問と回答集」(水道法施行規則第55条の管理基準4項目、第34条の2第2項・施行規則第56条の定期検査、罰則、特定建築物の報告書による代替。2026年9月4日確認)
- 東京都水道局「貯水槽水道に関するQ&A」(10立方メートル超が簡易専用水道である旨、清掃用水の料金、水道局は清掃を行わない旨、清掃後の不具合は実施業者へ相談する旨。2026年9月4日確認)
- 東京都「小規模貯水槽水道等」パンフレット(PDF。有効容量5立方メートル超を特定小規模貯水槽水道等として条例で義務づけ、清掃・検査とも1年に1回以上、書類は5年保存。2026年9月4日取得)
- 横浜市「受水槽の衛生管理に関する情報」(8立方メートル超と地下式受水槽等すべてに管理状況検査の受検義務。2026年9月4日確認)
- 川崎市「小規模受水槽水道」(条例による3つの義務、清掃は毎年1回以上、定期検査は8立方メートル以下を除く、検査記録は3年保存、清掃とは別に実施。2026年9月4日確認)
- 相模原市「簡易専用水道、小規模受水槽水道」(8立方メートル超は年1回の検査義務、8立方メートル以下は任意。2026年9月4日確認)
- 横須賀市「小規模水道及び小規模貯水槽水道における安全で衛生的な飲料水の確保に関する条例」(1戸の住宅と8立方メートル以下は定期検査の対象外。2026年9月4日確認)
- 広島市水道局「貯水槽水道の管理について」(小規模貯水槽水道に義務付けはなく推奨である旨、受水槽等清掃用臨時給水申込書。2026年9月4日確認)
- 大阪市水道局「適正な貯水槽水道(受水槽・高置水槽)の管理をお願いします」(10立方メートル以下への指導要綱、平成30年の台風を踏まえた非常用給水栓の直圧部設置。2026年9月4日確認)
- 碧南市「急に水の出が悪くなった(全く水が出なくなった)」および「受水槽の維持管理」(建物の入口付近の掲示を確認する旨、近隣一帯なら水道課へ、非飲用の受水槽は該当しない旨。2026年9月4日確認)
- 播磨町「水道工事のお知らせ」(水の汲み置き、断水中は蛇口を閉める、断水時間がずれる場合がある旨、受水槽のある建物での止水栓の扱い。2026年9月4日確認)
条文と各自治体の記載は2026年9月4日時点で公開ページを直接開いて確認したものです。基準は改正されることがあり、自治体ごとの上乗せも変わるため、実際の判断はお住まいの市区町村の案内でご確認ください。


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