報告書に残っている、請負者の言い分
県は工事を請け負った2社に書面でヒアリングをしています。その回答が報告書に載っています。原文のまま引きます。
(吹付けコンクリート厚について)設計厚以上確保されて当然と思い計測を怠っていた。
(覆工コンクリート厚不足について)S008 スパン以降、不足することを認識していたが、今更どうすることもできないと思いそのまま作業を決行させた。
(計測の未実施について)測量・計測管理システムが 1 台しかなく、鋼アーチ支保工設置時の照射に使用した後、一旦機器を取り外し計測 A を行う必要があったが、設置しなおす作業が手間であったため計測を怠った。
― 同報告書「3.3 請負者へのヒアリング結果」
報告書が挙げた原因の最後の項目は「技術者倫理の欠如」です。機械の故障でも設計ミスでもなく、そこに置かれています。
あわせて報告書には、現場の体制についてもこう書かれています。「現場所長は、部下に任せきりであり測量結果について日々把握していなかった」。共同企業体のもう1社についても「トンネル工事全体の工程管理や品質管理を共同企業体代表者の監理技術者に任せきりになっていた」。
直し方は「掘るところ以外を全部やり直す」
では、どう直したのか。報告書の再施工の手順はこうです。
- できあがっていた壁のコンクリートを撤去する
- トンネルのほぼ全延長で、鉄の支えを撤去して当初の設計位置に付け直す
- 床のコンクリートも、ほぼ全延長で位置を確認して打ち直す
- そのうえで、壁のコンクリートを打ち直す
報告書は撤去作業について「通常のトンネル工事の施工手順ではない」と書き、内空変位・天端沈下の計測を行うなど安全確保を最優先に進める、としています。いったん造ったものを崩して戻す作業そのものが危ない、ということです。
2026年3月に技術検討委員会が再施工に問題はないと判断し、県は8月5日に9月20日の供用開始を発表しました。
「道が1本しかない」ということの意味
ここからは住まいの話です。
紀伊半島の南部のように、まちとまちをつなぐ幹線が1本しかない場所は、日本中にあります。海沿いの1本、川沿いの1本、峠越えの1本。その1本が止まったときに、迂回路があるかどうかで、暮らしの止まり方がまるで変わります。
家を選ぶときに、そこまで見る人は多くありません。でも見るのは難しくなくて、地図でこの3つを確かめるだけです。
- 自分の家から、いちばん近い総合病院まで行く道は何本あるか
- その道は、海沿いか、川沿いか、崖の下か
- 止まったときの2本目は、何分よけいにかかるか
2本目が無い土地は、道路が1つ閉まっただけで孤立します。逆に言えば、今回のようにトンネルが1本開通することは、その地域にとって「2本目ができた」という話です。ニュースの見出しは「3年遅れ」でしたが、住んでいる人にとっての意味はそちらのほうが大きいはずです。
この記事で確認していないこと
数字と経緯は和歌山県の調査報告書(概要版)から取りました。そのうえで、次のことはこの記事では確認していません。
- やり直し工事にいくらかかったのか(総額は公表されていません)
- 県が求めた賠償が最終的にどうなったか
- 刑事事件や行政処分があったかどうか
- この道を通ることで何分短縮されるのか(県も報道も数字を出していません)
壁の厚さの設計値についても、報告書の概要版には「3センチ」という実測の最小値は載っていますが、設計が何センチだったかは書かれていません。ここも確定した数字としては扱っていません。
生活・仕事にどう効くか
- 毎日の移動:串本町と那智勝浦町のあいだを、海沿いの国道42号を回らずに山越えで抜けられるようになった。今回で約3.4キロが通行可能になった。
- 災害のとき:紀伊半島の南部は海沿いの国道42号が事実上1本しかない。そこが津波や土砂崩れで止まったときの内陸側の代替路になる。
- 工事の見方:このトンネルは完成検査に合格して引き渡されたあとで不良が見つかっている。検査に通ったことと、中身が設計どおりであることは別だった。
結局どうすればよいか
- 串本・那智勝浦を走るなら、国道42号のほかにこの県道234号があることを覚えておく
- 大雨や地震で国道42号が止まったときは、内陸側のルートも合わせて確認する
- 住んでいる地域の道が1本しかないかどうかを、地図で一度見ておく
公式出典
- 和歌山県 県道長井古座線 八郎山トンネル技術検討委員会 調査報告書【概要版】(令和6年6月発表)
- 和歌山県 八郎山トンネル技術検討委員会(資料・議事要旨)(2026-09-21取得発表)
- アイキャッチ写真 Pexels(2026-09-21取得発表)
更新履歴
- 2026年9月21日 初版を公開
※本記事は2026年9月21日時点で公表されている情報にもとづきます。数値・制度・進路などは今後変わる可能性があるため、最新の内容は各公式発表をご確認ください。
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