「擁壁を入れれば土砂災害警戒区域は消える」とは限りません。土砂災害防止法が「工事の実施等により…指定を解除するものとする」と書いているのは土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の側だけで、土砂災害警戒区域(イエローゾーン)には、その条文が置かれていないからです。
福岡県砂防課のよくある質問には「法面工事が施工されているのに、なぜ土砂災害警戒区域のままなのですか?」という項目が立っています。県が質問を用意しているということは、同じ行き違いが窓口で起き続けているということです。
この記事でわかること
- ✓ 工事で解除できるのは特別警戒区域(レッドゾーン)だけ。根拠は土砂災害防止法 第9条第8項
- ✓ 警戒区域(イエローゾーン)が解除されるのは、切土や盛土で地形そのものが変わったときだけ
- ✓ レッドが解除されても、イエローが残る限り、売るときも貸すときも重要事項説明の対象
解除の「条件」が書いてあるのは、特別警戒区域の側だけ
警戒区域を定める第7条は全6項ありますが、どうなったら解除するのかという条件が、どこにも書かれていません。解除に触れているのは第6項の一文だけで、中身は「前三項の規定は、指定の解除について準用する。」です。準用されるのは関係市町村長への意見聴取、公示、図書の送付で、すべて手続きの話です。
一方、特別警戒区域を定める第9条には、第8項があります。
都道府県知事は、土砂災害の防止に関する工事の実施等により、特別警戒区域の全部又は一部について指定の事由がなくなったと認めるときは、当該特別警戒区域の全部又は一部について指定を解除するものとする。(土砂災害防止法 第9条第8項)
「工事の実施等により」という言葉が入っているのは、この法律の中でここ1か所だけです。工事で解除できるのはレッドゾーンだけ、というのは現場の慣行ではなく、条文の書き分けです。
| 区域 | 解除に触れた条文 | そこに書いてあること |
|---|---|---|
| 土砂災害警戒区域(イエローゾーン) | 第7条第6項 | 意見聴取・公示・図書送付の準用だけ。解除の条件は書かれていない |
| 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン) | 第9条第8項 | 「土砂災害の防止に関する工事の実施等により…指定を解除するものとする」 |
土砂災害警戒区域が解除されるのは、地形が変わったときだけ
では警戒区域はどうすれば消えるのか。国土交通省が2017年9月28日付で都道府県に出した通知の【別紙2】に、条件がそのまま書いてあります。
盛土や切土等により地形的条件が改変され、指定の条件を満さなくなった場合には土砂災害警戒区域を解除する。(国土交通省【別紙2】土砂災害警戒区域の解除の要件)
3つの現象ごとの条件も同じ紙にあります。
- 急傾斜地の崩壊 —「切土により、勾配30度、または、がけ高5mの要件が満たされなくなった場合」
- 土石流 —「盛土や切土等により、谷地形がなくなった場合」
- 地すべり —「地滑り地形が、一部排土され、家屋への影響が無くなった場合」
3つとも、斜面や谷そのものを削るか埋めるかの話です。擁壁も砂防堰堤も法面工事も、この条件には1つも入っていません。
読者
うちは高さ6mの斜面の下です。擁壁を入れたら区域から外れますか。
外れません。外れるのは、切土で斜面の高さが5m未満になるか、勾配が30度を下回ったときです。擁壁は斜面を残したまま手前に構造物を足す工事なので、地形の条件は動きません。

砂防堰堤ができた集落で、イエローの26戸はどうなったか
同じ通知の参考資料に、国が解除の実例として図で示しているものが1件あります。福島県河沼郡会津坂下町大字船杉字杉。砂防堰堤を作る工事が平成22年度から平成26年度まで行われた場所です。
工事の前、ここには土砂災害警戒区域(Y)の中に人家が26戸、その内側の特別警戒区域(R)に8戸ありました。工事の後、特別警戒区域は解除され、資料には「解除により、建築物の構造規制や特定開発行為の制限が適用外になった。」と書かれています。一方、土砂災害警戒区域の人家は26戸のまま。1戸も減っていません。

【別紙1】の図にも、その考え方が出ています。土石流の欄では、施設を整備したあとの扱いが特別警戒区域は「解除」、警戒区域は「範囲を変更し土砂災害警戒区域を再指定」。同じ紙には「警戒避難体制に遺漏がないよう、土砂災害警戒区域の解除と再指定は同時に行う。」とも書かれています。
この場所の指定告示は平成23年1月25日、解除告示は平成29年4月28日で、6年3か月です。
解除の申請はどこにするのか 窓口と手続きの5段階
検索の候補に「土砂災害警戒区域 解除申請」と出ますが、法律に、解除を申請する制度はありません。第9条第8項の主語は都道府県知事で、文末は「解除するものとする」。動くのは県です。
では所有者や事業者の側にできることは何か。神奈川県が1枚の資料に手続きを書いています。出発点は対策工事で、入口は「Ⓐ 土砂災害防止法に基づく特定開発行為の完了」と「Ⓑ 要望者による対策工事の完了」の2つです。
工事が終わってからは5段階です。
- 現地確認
- 基礎調査(測量、図面作成、建築物に作用する力の計算 等)
- 告示図書作成
- 関係市町村への意見照会
- 告示(神奈川県公報への登載)
この5段階に「概ね3か月」と図中に書き込まれています。窓口は県内10か所の土木事務所等(治水事務所・センターを含む)と、県土整備局砂防課です。
「概ね3か月」は工事が終わってからの県の手続きにかかる目安で、工事の計画・設計・施工の期間は含みません。
神奈川県の資料には「※ 土砂災害警戒区域(イエローゾ-ン)の指定解除も概ね同様の手続となります。」と書かれています。踏む手続きは同じでも、解除できる条件そのものは別物です。
同じ法律なのに、府県のページで結論が変わる
5つの府県のページを並べると、読者が持ち帰る結論が変わります。
| 府県 | 解除について書いてあること |
|---|---|
| 兵庫県 | 見出しで「防災工事が完了しても、原則として土砂災害警戒区域(Y区域)は解除されません。」 |
| 京都府 | 「地形に変化がない限り区域の変更・解除は行われません。」 |
| 福岡県 | よくある質問に「法面工事が施工されているのに、なぜ土砂災害警戒区域のままなのですか?」を掲載 |
| 神奈川県 | 手続きの5段階と「概ね3か月」。イエローも「概ね同様の手続」とだけあり、条件の違いには触れていない |
| 愛知県 | 解除された区域の一覧を公開。要件の説明は載っていない |
私は、これは説明の丁寧さの差ではなく、「手続きを書いたページ」と「要件を書いたページ」が別の紙になっているからだと考えています。自分の土地の話をするときは、流れを説明したページより先に解除の要件を書いたページを読むか、所管の土木事務所に区域の種類を伝えて聞くのが早いです。
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レッドゾーンが解除されたら、家は売りやすくなるのか

解除で外れるのは、特別警戒区域に付いていた規制です。1つは特定開発行為の許可(法第10条第1項)。2つ目は建築物の構造規制で、法第24条が構造耐力の基準を定め、法第25条によって居室を有する建築物が建築確認の対象になります(都市計画区域の外でも確認が要る、という状態がここで外れます)。3つ目は移転等の勧告(法第26条)。国が会津坂下町の事例に書いているのは、このうち構造規制と特定開発行為の制限の2つです。
外れないものもあります。宅地建物取引業法35条の重要事項説明です。施行規則 第十六条の四の三 第二号は、こう書いています。
当該宅地又は建物が土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成十二年法律第五十七号)第七条第一項により指定された土砂災害警戒区域内にあるときは、その旨(宅地建物取引業法施行規則 第十六条の四の三 第二号)
挙がっている条番号は第七条第一項、つまりイエローゾーンです。しかもこの第二号は、宅地と建物の売買・貸借の4類型すべてに掛かります。レッドが解除されても、イエローが残る限り、売るときも貸すときも説明の対象のままです。
課税の側では、鹿児島市が令和5年度から、特別警戒区域内の宅地などの評価に0.9から0.7までの補正率を掛けて、固定資産税評価額を下げています(急傾斜地補正などが既に入っている土地では下がらないことがあります)。これは鹿児島市の取り扱いで、全国一律の制度ではありません。
最後に全国の数です。国土交通省の集計では、2026年6月30日時点の土砂災害警戒区域は721,014区域、うち特別警戒区域が621,287区域。特別警戒区域は警戒区域の内数なので、レッドを全部解除しても721,014という数は1つも減りません。
よくある質問
解除の申請書はどこでもらえますか
法律に申請の制度がないため、様式もありません。神奈川県では、対策工事の計画段階で所管の土木事務所に相談するところから始まります。
擁壁を作れば土砂災害警戒区域から外れますか
外れません。急傾斜地の崩壊で指定されている場合に外れるのは、切土で勾配30度またはがけ高5mの要件を満たさなくなったときです。
解除されたら重要事項説明は不要になりますか
特別警戒区域が解除されても、土砂災害警戒区域が残っていれば、宅地建物取引業法35条の説明対象のままです。売買でも賃貸でも同じです。
福岡県が「なぜ土砂災害警戒区域のままなのですか?」という質問を用意しているのは、工事が足りないからではありません。同じ「解除」という言葉に、レッドとイエローでは別の条件がぶら下がっているからです。工事の見積もりを取る前に、自分の土地がどちらの区域なのかを先に確かめてください。
出典
- 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(e-Gov法令検索)
- 宅地建物取引業法施行規則(e-Gov法令検索)
- 国土交通省 報道発表「土砂災害警戒区域等の指定解除の要件等を全国に発出」(平成29年9月29日)
- 同 別紙1〜3(土砂災害警戒区域等の見直しの考え方/解除の要件)
- 同 参考資料(会津坂下町の解除事例)
- 国土交通省「全国における土砂災害警戒区域等の指定状況」(2026年6月30日時点)
- 兵庫県「開発事業等の許可を申請される皆様へ」
- 京都府 土砂災害防止法のよくある質問 問21
- 福岡県 砂防に関するよくある質問
- 神奈川県「土砂災害特別警戒区域の指定解除について」
- 愛知県 土砂災害警戒区域等の指定・解除の状況
- 鹿児島市「土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)に指定された土地」
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