🗨️「大家から「建物が古いので建て替える。退去してほしい」と言われました。立ち退き料はいくらもらえるのか、断ることはできるのか知りたいです」
断れる場合があります。大家が更新を拒んだり解約を申し入れたりできるのは、借地借家法28条の「正当事由」があるときだけで、立ち退き料はその足しとして扱われます。額に決まりはなく、判決では月5万円の古い平屋で363万円、月1万5000円の作業場で250万円でした。老朽化の建て替えは、近年の裁判例の約7割で認められています。
[不動産] この記事の要点
2026年10月12日 発表
- 大家から建て替えや売却を理由に退去を求められた借主
- 更新しないという通知を受け取った借主
- 立ち退き料の額を示されて、受けてよいか迷っている人
大家が出ていけと言える条件
定期借家ではない普通の賃貸借で、大家が「更新しない」「契約を終わりにしたい」と言うときの決まりは、借地借家法26条から28条にあります。
| 大家の言い方 | 条文 | 決まり |
|---|---|---|
| 期間が来たら更新しない | 26条1項 | 期間満了の1年前から6か月前までに通知する。通知がなければ、同じ条件で更新したものとみなされる |
| 契約を解約したい | 27条1項 | 申入れに正当事由があれば、申し入れた日から6か月で終了する |
| どちらも | 28条 | 「正当の事由」がなければ、通知も申入れもできない |
3つめの28条が、借主にとっての歯止めです。条文はこう書いています。
建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
借地借家法28条(法令検索で2026年10月12日に確認)
長い一文ですが、見られるのは4つです。大家と借主がそれぞれ建物を使う必要、これまでの経過、建物の使い方と傷み具合、そして大家が示す立ち退き料などの申出です。
通知が届いたら、そのまま出ていくことになりますか?
通知が来ただけでは決まりません。正当事由があるかどうかで、話し合いがつかなければ最後は裁判所が判断します。この記事で紹介する判決も、そうして争われた事例です。
期間が来たら終わる定期借家は、この仕組みとは別です。借主から途中で解約できるかは定期借家 途中解約/転勤なら1か月前でできる、更新できないときは定期借家 更新できない/中2の子を転校させたくないに書いています。
売る・継ぐ・片付ける、を決めるときに読むもの
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老朽化の建て替えは認められるか
「建物が古いので建て替える」は、大家が使う理由の筆頭です。法務省が公表した調査報告書(令和7年3月)は、令和元年5月から令和6年3月までの裁判例のうち、正当事由が判断された137件を分析しています。
| 区分 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 正当事由が判断された裁判例 | 137件 | ― |
| うち、明渡しが認められた | 73件 | 53.3% |
| うち、居住用(営業との併用を含む) | 26件 | 明渡しが認められた73件の35.6% |
| 建て替え・取壊しを理由に主張 | 87件 | 137件の63.5% |
| うち、老朽化を理由にした | 76件 | 建て替えの主張の87.4% |
| 老朽化で、明渡しが認められた | 54件 | 老朽化76件の71.1% |
老朽化を理由にした76件のうち54件、約7割で正当事由が認められています。平成16年の調査では、老朽化が理由の事案で認められたのは55.0%でした。報告書は、認められる事案が増える傾向にあると読んでいます。
それでも、7割は残りの3割を意味しません。報告書は、老朽化や耐震性の不足があっても、その事情だけで結論が決まるわけではないと書いています。認められなかった例を3つ挙げます。
- 東京地裁 令和5年2月22日(報告書が紹介):再開発や老朽化の事情があっても、建物の損傷は現に少なく、大家は借主がいると知って建物と敷地を買っていました。借主は86歳で、80年以上使っています。裁判所は、大家は借主の使用が終わるのを待つべきで、立ち退き料を出しても正当事由はそろわないとしました。
- 東京地裁 令和2年8月31日(報告書が紹介):耐震性が足りないことは認められても、明渡し後の具体的な計画がなく、正当事由は認められませんでした。
- 神戸地裁 令和元年7月12日(判決文を確認):病院内の売店で居住用ではありませんが、判断に使われた事情が条文どおりに並んでいます。大家側の必要性が高いとはいい難い、借主は約20年営業している、改修が要るほどの老朽化とは認められない、大家が立ち退き料を示していない。これらから、更新拒絶は効力を生じないとして、大家の請求を退けました。
3件に共通するのは、「古い」という言い分だけでなく、建て替えの計画が本当にあるか、借主が出たらどれだけ困るかまで見られていることです。
立ち退き料の金額は判決で見る
立ち退き料の額は、法律に決まりがありません。28条が書いているのは、大家が申し出た財産上の給付を考慮する、というところまでです。
法務省の調査では、立ち退き料の申出がなかったとみられる裁判例は10件ほどでした。建て替えを理由にするときは、立ち退き料の申出がつきものになっています。額は最低が27万円(賃料6か月分)、最高が8億3000万円(事業用で、借家権価格・移転費用・営業補償の合計)と大きく開いています。
算定の方法も、賃料の何か月分とするもの、引越し費用などを足し合わせるもの、積算の根拠を示さないものとばらばらです。調査は、目安や計算式を示すことは立ち退き料の性格になじまないとまとめています。
そこで、判決文を開いて金額と事情を確かめた4件を並べます。
| 判決 | 立ち退き料 | 月額賃料 | 事情 |
|---|---|---|---|
| 東京高裁 平成15年1月16日 | 363万円 | 5万円(約73か月分) | 築130年以上で老朽化が著しい平屋。借主の一家が住み、一部を工場に使用。大家は建て替えて敷地を使いたい |
| 名古屋地裁 平成14年2月22日 | 250万円 | 1万5000円(約167か月分) | 大正時代築の長屋の一戸。表具師の作業場で、居住者が1人。大家は隣地と一体で敷地を活用したい |
| 最高裁 平成3年3月22日 | 300万円(申出は100万円から増額) | 判決文に記載なし | 家屋の明渡し。解約を申し入れたあとの増額も、正当事由の判断に入れてよいとした |
| 最高裁 昭和46年11月25日 | 500万円(大家の申出は300万円または裁判所が決める額) | 判決文に記載なし | 京都市の繁華街にある老朽化した店舗(事業用)。昭和の金額で、今の目安にはならない |
賃料と並べると、363万円は約73か月分、250万円は約167か月分です(月額賃料で割った筆者の計算)。月数がこれだけ離れるので、「賃料の何か月分」を相場として言い切ることはできません。

東京高裁の事件には、読むときに気をつけたい点があります。高裁は、建物の老朽化が著しいので正当事由はあり、立ち退き料の支払はそもそも必要ないと判断しました。それでも363万円が残ったのは、一審が命じた額について大家から不服の申立てがなく、是正できなかったためです。借主が立ち退いたあとの生活の補償を求めたことには、大家に借主の生活を保障する義務はないとも述べています。
名古屋地裁の事件は、金額の中身が書かれています。裁判所は、新しい店と住まいへの引越し料などの実費と、新しい賃貸借の保証金などを考えて250万円としました。大家が鑑定の結果をもとに申し出ていた229万9000円より高い額です。
最高裁の2件は、立ち退き料の位置づけを示しています。昭和46年の判決は、立ち退き料は借主が被る損失の全部を埋める額でなくてよいとしました。平成3年の判決は、解約を申し入れたあとに大家が立ち退き料を出した、または増やしたときも、正当事由の判断に入れてよいとしました。
店舗ビルでは、東京高裁が平成2年に2億8000万円と引換えの明渡しを認めた例もあります。事業の補償が入る事業用の額で、住まいの目安にはなりません。
高い立ち退き料を示されても、それだけで正当事由がそろうわけではありません。報告書が紹介する令和4年の東京地裁判決は、大家が自分で建物を使う必要が低いなら、高額の立ち退き料だけで正当事由は具備されないとしています。
立ち退き料は、いつ払ってもらえるのですか?
東京高裁と名古屋地裁の判決は、どちらも「立ち退き料の支払を受けるのと引換えに明け渡す」という形でした。払ってもらうのと、出ていくのは引換えです。
言われたときにやること
- 通知の種類と日付を確かめる:更新しない通知なら、期間満了の1年前から6か月前までに届いているか。解約の申入れなら、申入れの日から6か月が数えられます
- 理由と明渡し後の計画を書面で聞く:建て替えなら、いつ着工して何を建てるのか。具体的な計画がなく認められなかった例があります
- 立ち退き料の内訳を聞く:法務省の調査は、考える要素に引越し費用、新しい建物の内装工事費、賃料の差額などを挙げています。何をいくら見込んだ額かを聞きます
- 合意するなら書面に残す:私は、金額・支払う日・退去日を口約束で終わらせないほうが安全だと考えます
- 早めに相談する:弁護士会や法テラス(日本司法支援センター)、自治体の住宅相談窓口が入口になります
東京都の「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」(第4版)は、退去時の敷金精算と入居中の修繕が対象で、立ち退きの話は載っていません。立ち退きは、借地借家法と裁判例を見る分野です。
受け取った立ち退き料の税金は、国税庁が内訳で区分を分けています。借家権の対価にあたる部分は譲渡所得、休業などの収入や経費の補填にあたる部分は事業所得など、それ以外は一時所得です。金額と内訳が決まったら、税務署か税理士に確認します。
大家の都合ではなく、道路の都市計画で立ち退きを求められる場合は、入口が別です。
生活・仕事にどう効くか
- 老朽化を理由に建て替えると言われた:法務省の調査では、老朽化が理由の76件のうち54件(約7割)で認められた。ただし損傷が少ない、明渡し後の計画がないなどで認められなかった例もある
- 立ち退き料を示された:額の決まりはなく、判決では事案ごとに決まる。363万円(月5万円の古い平屋)や250万円(月1万5000円の作業場)の例がある
- 断りたい:正当事由がなければ、更新拒絶も解約申入れもできない。あるかどうかは、話し合いがつかなければ裁判所が判断する
結局どうすればよいか
- 通知の種類(更新拒絶か解約申入れか)と届いた日付を確かめる
- 建て替えの理由と、明渡し後の具体的な計画を書面で聞く
- 立ち退き料を示されたら、引越し費用や新居の初期費用などの内訳を聞く
- 合意するなら、金額・支払う日・退去日を書面に残す。迷うときは弁護士や法テラスに相談する
あわせて読む・調べる
くわしく知る(保存版の記事)
公式出典
- 借地借家法 26〜28条(e-Gov法令検索)(2026-10-12確認発表)
- 法務省「借地借家法の更新拒絶等要件に関する調査研究報告書」(令和7年3月)(2026-10-12確認発表)
- 東京高裁 平成15年1月16日判決(平成14年(ネ)第2577号)(2026-10-12確認発表)
- 名古屋地裁 平成14年2月22日判決(平成12年(ワ)第520号)(2026-10-12確認発表)
- 最高裁 平成3年3月22日判決(平成2年(オ)第216号)(2026-10-12確認発表)
- 最高裁 昭和46年11月25日判決(昭和41年(オ)第1005号)(2026-10-12確認発表)
- 神戸地裁 令和元年7月12日判決(平成30年(ワ)第1654号)(2026-10-12確認発表)
- 東京都「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」(第4版・令和4年12月)(2026-10-12確認発表)
- 国税庁「No.3155 借家人が立退料をもらったとき」(2026-10-12確認発表)
更新履歴
- 2026年10月12日 初版を公開(条文は法令検索、判決は裁判所の判決文、調査は法務省の報告書PDFの原文で確認)
※本記事は2026年10月12日時点で公表されている情報にもとづきます。数値・制度・進路などは今後変わる可能性があるため、最新の内容は各公式発表をご確認ください。
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