相続した実家に住み続けたいなら、きょうだいの取り分を現金で渡すのが基本の形です。神戸市の中古戸建ての成約中央値は3,600万円なので、2人で分けるなら1,800万円前後を用意する計算になります。
ただしこの金額は、実家がどの区にあるかで950万円から3,975万円まで変わります。この記事は、実際にYahoo!知恵袋へ投稿されている次の質問(要約)に、国土交通省の成約データと制度の両面から答えるものです。
先に結論
- 住み続けたい側が、相手の取り分を現金で渡して単独名義にするのが最短の道です
- 神戸市の中古戸建て成約中央値は3,600万円。きょうだい2人なら目安1,800万円
- ただし区で違います。長田区なら950万円、東灘区なら3,300万円で3.4倍の開き
- 中央値は動きます。長田区は3か月で375万円ずれました。だから「いつの数字か」を先に決めます
- まとまらないと裁判所の手続きに進み、競売になれば手取りは市場価格を下回ります
- 登記は待ってくれません。取得を知った日から3年以内、怠れば10万円以下の過料です
両親が亡くなり、2人きょうだいで実家の土地と建物を半分ずつ相続することになった。相談者は今その実家に住んでいるが、兄は売却したいと言っている。関係が良くないため、兄が自分の持分だけを勝手に売ってしまわないか、強引に売却へ持ち込まれて家を壊されないかが不安、という相談。
※Yahoo!知恵袋の公開質問を要約したものです。同じ形の相談は毎年繰り返し投稿されています。
住み続けたい側が現金を渡すのが、いちばん短い道
四十九日が済んで一週間後、兄から「家は売って半分ずつにしよう」とLINEが届く。実家に住んでいる側からすると、これは住まいを失うかどうかの話です。
家という一つの物を2人で半分ずつ持ったままにすると、売るにも貸すにも建て替えるにも、相手の同意がいる状態が続きます。これを終わらせる方法として実務でいちばん多いのが、住み続ける側が相手の取り分を現金で渡し、家と土地は自分ひとりの名義にする形です(代償分割と呼ばれます)。渡す現金の額は、実家の時価に相手の持分をかけた金額が出発点になります。
だから、話し合いの前に必要なのは弁の立つ言葉ではなく、実家が今いくらで売れる場所にあるのかという数字です。
神戸市9区で、用意する現金は950万円から3,975万円まで違う
国土交通省の不動産取引価格情報から、神戸市の中古戸建ての成約中央値(2025年10〜12月の成約分)を区ごとに集計すると、次のようになります。きょうだい2人で半分ずつなら、右から2列目が用意する現金の目安です。
| エリア | 中古戸建て 成約中央値 |
2人なら その半分 |
件数 |
|---|---|---|---|
| 神戸市中央区 | 7,950万円 | 3,975万円 | 10件 |
| 神戸市東灘区 | 6,600万円 | 3,300万円 | 27件 |
| 神戸市灘区 | 5,000万円 | 2,500万円 | 21件 |
| 神戸市須磨区 | 4,300万円 | 2,150万円 | 21件 |
| 神戸市兵庫区 | 3,300万円 | 1,650万円 | 15件 |
| 神戸市西区 | 3,300万円 | 1,650万円 | 29件 |
| 神戸市垂水区 | 3,000万円 | 1,500万円 | 35件 |
| 神戸市北区 | 1,950万円 | 975万円 | 32件 |
| 神戸市長田区 | 1,900万円 | 950万円 | 15件 |
| 神戸市全体 | 3,600万円 | 1,800万円 | 205件 |
出典:国土交通省の不動産取引価格情報(2025年10月〜12月に成約したもの)。集計方法と四半期ごとの推移は神戸市の定点観測にあります。中央区は成約10件と母数が小さく、中央値が振れやすい区です。
長田区の950万円と東灘区の3,300万円では、用意する現金が3.4倍違います。同じ神戸市内で、同じ「実家の半分」でも、必要な貯金が2,350万円変わるということです。「実家の半分だからだいたい1,000万円くらいだろう」という感覚で話を始めると、東灘区の家では3,000万円以上足りません。
同じ区でも3か月で375万円ずれる
もう一つ、話を止める原因になるのが時点のずれです。長田区の中古戸建て成約中央値は、2025年7〜9月が1,150万円、10〜12月が1,900万円でした。半分にすると575万円と950万円で、3か月違うだけで375万円ずれます。
同じ期間、神戸市全体の中央値は3,650万円から3,600万円へ50万円しか動いていません。市全体では安定しているのに区単位では大きく動くのは、区ごとの成約件数が10〜35件と少ないからです。件数が少ない区ほど、たまたま高い家が数件成約しただけで中央値が跳ねます。
不動産会社2社から査定書を取ると、上限と下限で数百万円の幅が出ます。兄は高い方の数字を、住み続ける側は低い方の数字を見る。この構図になると話は止まります。
まとまらないと、最後は裁判所と競売になる
話し合いが決まらない場合、共有している人はそれぞれ、裁判所に共有物の分割を求めることができます。2023年4月1日に施行された改正で、裁判所が命じられる方法として、現物で分ける・一方が取得して相手に代金を払う・競売にかけて代金を分ける、の3つが条文の上ではっきりしました。
また、自分の持分だけを第三者へ売ること自体は、もう一方の同意がなくてもできます。ただし持分だけを買った人は家を自由に使えないので、買い手は限られます。
登記も止まりません。相続で不動産を取得した人は、取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があります(2024年4月1日施行)。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象で、施行日より前の相続でも2027年3月31日までに登記する必要があります。遺産分割がまとまった場合は、その日から3年以内に内容に応じた登記が要ります(出典:法務省)。
住み続けたい人が、話し合いの前にやる3つのこと
順番を守ると、感情の話に戻りにくくなります。
1. 実家がある区の、直近の成約中央値を調べて半分の額を紙に書く。上の表か相場ツールで、区名まで絞った数字を出します。「実家の半分」という言葉ではなく、950万円なのか3,300万円なのかという1つの数字にしてから話し始めます。
2. その額を用意できるかを、話し合いの前に確かめる。現金で足りるのか、住宅ローンの借り換えで作るのか、支払いを分けてもらう必要があるのか。ここが決まらないまま「住み続けたい」とだけ伝えると、相手からは引き延ばしに見えます。
3. 登記の期限をカレンダーに入れる。3年という期限は、話し合いが長引いても止まりません。分割の話と登記の話は別に進みます。
そのうえで査定を取ります。順番を逆にして先に査定書を集めると、2社の数字の幅そのものが交渉材料になってしまい、どちらが正しいかの言い合いになります。先に基準の数字を決めておけば、査定書はその基準を検証する材料として使えます。
私はこう見ています
私は、この話し合いで最初に決めるべきは金額ではなく、「いつ時点の、どの区の、何件の数字で計算するか」という土俵の方だと考えています。理由は上のデータのとおりで、神戸市全体の中央値が3か月で50万円しか動かなかった同じ期間に、長田区は750万円動いたからです。土俵を決めずに金額から入ると、相手が持ってきた数字を疑うところから始まり、査定書が増えるほど話が遠のきます。
持分だけを売るという選択肢については、私は最後の手段だと見ています。買った人はその家に住むことも建て替えることもできず、結局は分割を求める手続きに進むしかないため、買い手が限られて価格も下がるからです。住み続けたい側にとっては、知らない相手が共有者になるという、いちばん解決から遠い形にもなります。
そしてもう一つ。実家に住んでいる側は「今も住んでいるのだから自分のものだ」と感じやすく、出ていく側は「半分は自分の財産だ」と感じます。どちらも正しいのですが、この2つは金額の話ではないので、いくら話しても近づきません。数字を先に固定するのは、相手を説得するためではなく、この平行線に入らないためだと考えています。
査定額は会社によって数百万円の幅が出ます。基準の数字を決めてから2社以上を見比べる順番が有効です。


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