🗨️「長屋の1戸だけが空き家のとき、空き家法の対象になりますか」
基本的には対象外です。空き家法は建物1棟ごとに「使われていないか」を見るため、ほかの戸に人が住んでいる長屋は、1戸だけ空いていても対象になりません。ただし、隣との壁が二重になっているなど各戸が別々の建物なら、その戸ごとに判断されます。対象外でも、建築基準法などで市が指導できる場合があり、空き住戸を条例の対象にしている市もあります。
[空き家] この記事の要点
2026年10月9日 発表
- 隣の戸が空き家になっている長屋に住んでいる人
- 長屋の1戸を相続して、空けたままにしている人
- 「長屋の空き家も空き家法で対応してもらえる」と思っている近所の人
空き家法が見るのは「棟」
空き家法(正式名称は「空家等対策の推進に関する特別措置法」)が対象にする「空家等」は、条文でこう決まっています。
ここでいう「建築物」は、建築基準法の建築物と同じ意味です。土地に定着する工作物のうち、屋根と、柱または壁を持つものを指します(建築基準法第2条第1号)。使われていないかどうかは、この建築物ごとに見ます。八尾市が弁護士に委託してまとめた報告書(2021年1月)は、長屋は全体で1棟の建物なので、一部の戸が使われていなくても、ほかの戸に人が住んでいれば空き家法は適用できない、と整理しています。
大阪市の空家等対策計画(第3期、2026年4月策定)も同じ見方です。空き家法の空家等は「建築物内の全ての住戸・店舗等が空室となっているもの」で、一部の戸にだけ人が住む長屋(市は「一部居住長屋」と呼びます)は含まれない、と書いています。
壁でつながっているだけで、1戸ずつ別の家に見えるのに、対象外になるの?
見た目は関係ありません。法律が見るのは、建物として1つか、別々か、です。そこが次の見出しの分かれ目になります。

「使われていない」の目安も決まっています。国の基本指針は、日常生活が営まれていない、営業が行われていないなど、その建物を現に意図をもって使っていない状態を指し、「概ね年間を通して建築物等の使用実績がないこと」を1つの基準としています。全部の戸がこの状態の長屋は、空き家法の「空家等」になります。
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対象になる長屋・ならない長屋
国のガイドライン(国土交通省・総務省、2026年9月3日最終改正)は、外見が長屋でも、「隣接する住戸との界壁が二重となっているなど、それぞれの住戸が別個の建築物である場合」は、その住戸が空き家法の建築物にあたるとしています。界壁(かいへき)は、長屋や共同住宅で各戸を仕切る壁のことです(建築基準法第30条)。
| 長屋の状態 | 空き家法 | 根拠 |
|---|---|---|
| 全部の戸が空いていて、長く使われていない | 対象(空家等) | 空家法第2条第1項、基本指針 |
| 1棟でつながった長屋で、1戸だけ空き、ほかの戸には人が住んでいる | 対象外が基本 | 八尾市の報告書、大阪市の計画 |
| 界壁が二重など、各戸が別個の建築物で、その戸が空いている | その戸ごとに判断(長く空いていれば対象) | ガイドライン第1章1 |
自分の長屋がどちらにあたるかは、見た目では決まりません。ガイドライン自身が「参考となる一般的な考え方」を示すもので、各市町村が地域の実情に合わせて固有の判断基準を決めてよい、としています。判断するのは、その長屋がある市区町村です。
空き家法の対象になった場合の流れ(助言・指導、勧告、命令、代執行)と、通報先は、隣の空き家が崩れそう/通報先は市の空き家窓口にまとめました。
対象外でも建築基準法で動ける
空き家法の対象外でも、市が何もできないわけではありません。ガイドラインは、ほかの法令による手段なら「いわゆる長屋等の一部の住戸が空室となっている建築物等に対しても対応できる可能性がある」と書き、例として建築基準法・消防法・道路法・災害対策基本法・災害救助法を挙げています。
建築基準法には第10条第3項があります。特定行政庁(建築主事を置く市町村ではその市町村長、置かない市町村では都道府県知事)が、建てたときは適法でも、その後の法改正で今の基準に合わなくなった建物(既存不適格建築物)を「著しく保安上危険」と認めたとき、所有者・管理者・占有者に除却や修繕、使用禁止などを命じられる、という条文です。どの法令のどの条文を使うかは、建物の傷み方と危険の切迫度を見て、市が選びます。
大阪市は、そのまま放置すれば倒れるおそれのある一部居住長屋について、計画調整局が建築基準法にもとづいて所有者を調べ、指導するとしています。危険度が高いものは、固定資産税の課税情報も所有者探しに使っています。実績の数字も公表されています。平成27年度から令和7年9月末までに、一部居住長屋について1,098件の通報があり、そのうち524件(約48%、当サイトで計算)が所有者による補修などで改善されました。市は、区分所有など権利関係が複雑なものが多いなかで「粘り強く指導等を行った結果」としています。
大阪市の計画には、今にも瓦や外壁が落ちて通行人に危害が及びそうな緊急の場合は、消防局が消防組織法にもとづいて危害を取り除き、市の管理する道路に瓦などが落ちていれば、建設局が道路法にもとづいて撤去や注意喚起をする、とも書かれています。
2026年10月4日に生野区で家屋の一部が倒れた件で、大阪市が第1報の問い合わせ先にしたのは、区役所の空き家窓口ではなく、計画調整局 建築指導部の監察課でした(生野区 空き家 倒壊/中川西1丁目で通行制限)。
空き家法の対象外なら、空き家の窓口では何もしてもらえないの?
窓口で話が止まったら、建築の指導を担当する部署にもつないでもらえるか聞いてください。法律ごとに、措置をとる部署が分かれているからです。国の基本指針も、市の中で部署どうしが情報を共有して連携するよう求めています。
私は、長屋の隣が空き家になったとき、空き家法の対象かどうかを先に確かめるより、「長屋で、ほかの戸には人が住んでいる」と市に伝えて、建築の担当にもつないでもらうほうが近道だと考えています。大阪市のように、空き家法の階段が使えない長屋にも、建築基準法で動く市があるからです。空いている戸の持ち主の側から見れば、対象外であることは、指導を受けないという意味ではありません。
条例で空き住戸を対象にした市
もう1つの手が、市区町村の条例です。国土交通省が自治体向けにまとめた資料は、法令が規制対象にしていない事項を条例で定めることは、空き家法に抵触しない限度で有効で、空き家法の対象外の長屋や共同住宅を措置の対象にする条例を定めることは可能、と説明しています。
同じ資料によると、2017年3月31日時点で、一部に人が住んでいる長屋・共同住宅を空き家条例の対象にしていた市区町村は47ありました。条例にもとづく措置の実績があったのは5市で、勧告は合計21件(うち京都市が18件)、命令は1件でした。9年前の数字ですが、条例で長屋の空き住戸を対象にする道が、実際に使われてきたことが分かります。
| 市 | 条例の対象にしている長屋の空き住戸 | 市ができること |
|---|---|---|
| 吹田市(2023年4月1日施行) | 居住その他の使用がなされていない長屋の一部空き住戸。「法定外空家等」と位置づけ | 所有者の調査、立入調査、管理の依頼。状態が悪いと認定したものは助言・指導、勧告、命令、公表。重大な被害のおそれがあれば、市が看板や防護ネットで応急の措置をして費用を所有者に請求 |
| 八尾市(2021年1月の報告書の時点) | 区分所有法が適用される長屋の空き住戸。長屋全体を1人が所有している場合は対象外 | 著しく管理不良なものに助言・指導など |
| 京都市(2017年の国の資料) | 条例に「長屋の住戸及び共同住宅の住戸が対象」と明記 | 空き家法を準用し、助言・指導、勧告、命令 |
条例は市ごとに対象の線引きが違います。吹田市は長屋の一部空き住戸、八尾市は区分所有の長屋に限る、というように、同じ長屋でも当てはまらない市があります。自分の市に条例があるかは、市のホームページか空き家の窓口で確かめられます。条例の名前は市ごとに違うので、市名と「空家 条例 長屋」で検索してみてください。
解体の話が出たら先に確かめること
空いている戸を壊すことになると、残る側の壁と屋根が問題になります。八尾市の報告書は、区分所有法が適用される長屋で1室だけを切り離して壊すことを、共用部分の一部を除くことにあたると考え、区分所有者全員の賛成が必要になる、と整理しています。残る建物については、雨水が入らないようにする処置が必要で、強度が下がるなら補強工事が欠かせないこともある、とも書いています。
これは弁護士による整理で、条文そのものではありません。自分の長屋が区分所有法の対象かどうかは、登記と建物の造りで変わります。工事の話が出たら、残る側の壁と屋根をどう直すか、費用を誰が持つかを、着工の前に書面で確かめておくのが安全です。
崩れて自分の家や車が壊れたときに、持ち主へ修理代を求められるかは、民法717条の話です。「隣は空き家だから、修理代は払ってもらえるでしょ」台風で屋根が飛んできても、そうとは限りませんにまとめています。
生活・仕事にどう効くか
- 市の窓口で話すとき:長屋で、ほかの戸には人が住んでいると最初に伝える。空き家法の対象外でも、建築基準法の指導や市の条例で動ける場合がある。
- 市の手続きを待つとき:空き家法の助言・指導から代執行までの階段は、対象外の長屋には使えない。大阪市では、一部居住長屋の通報1,098件のうち524件が、建築基準法にもとづく指導などで改善された。
- 空いている戸の持ち主のとき:空き家法の対象外でも、指導や条例の勧告は受ける。売る前に土地の目安を見ておくと、壊す・売るの判断がしやすい。
結局どうすればよいか
- 窓口には最初に「長屋で、ほかの戸には人が住んでいる」と伝える
- 空き家担当で話が止まったら、建築の指導を担当する部署にもつないでもらえるか聞く
- 市の条例に長屋の空き住戸が入っているか、市のホームページか窓口で確かめる
あわせて読む・調べる
くわしく知る(保存版の記事)
公式出典
- e-Gov法令検索 空家等対策の推進に関する特別措置法(第2条)(2026年9月3日発表)
- e-Gov法令検索 建築基準法(第2条・第10条・第30条)(2026年5月27日発表)
- 国土交通省・総務省「管理不全空家等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」(2026年9月3日発表)
- 国土交通省・総務省「空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針」(2026年9月3日発表)
- 国土交通省「平成28年 地方分権改革に関する情報提供2」(一部が空き家となっている長屋等・2017年3月31日時点の調査)
- 大阪市「大阪市空家等対策計画(第3期)」(令和8年4月策定)
- 吹田市「『吹田市空家等の適切な管理に関する条例』を制定しました」(令和5年4月1日施行)
- 八尾市「長屋にまつわる諸問題の解説 報告書」(令和3年1月)
更新履歴
- 2026年10月9日 初版を公開
※本記事は2026年10月9日時点で公表されている情報にもとづきます。数値・制度・進路などは今後変わる可能性があるため、最新の内容は各公式発表をご確認ください。
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