歩いて10分の小学校が学区外で、指定されたのは徒歩25分のほう。神戸市の2,546町丁をひとつずつ測ると、これと同じこと(指定校より近い小学校が別にある)が起きている町丁が527ありました。
差が500m以上ある町丁も64あります。片道500mの遠回りは、登校日を年200日として6年間で2,400回、合わせて1,200kmになります。
この記事でわかること
- ✓ 学校教育法にも施行令にも施行規則にも「距離」の2文字が1度も出てこないこと
- ✓ 神戸市の町丁の20.7%は、指定校より近い市立小学校が別にあること
- ✓ 同じ「中道通」でも、丁目によって指定校が3つに分かれていること
- ✓ 神戸市が先回りして「変更を認める地区」を23か所決めていること
4人が答えたのは、学校の中身のことだけでした
Yahoo!知恵袋に、小学1年生の子を持つ人からこんな相談が出ています。引っ越しで転校が決まり、新しい家が校区の境目に建っていた、という話です。
引っ越しのため、転校させることになりました。現在小1です。
引っ越し先が学区の境界線ギリギリの所で、
①学区内だと家から徒歩25分(大人)。集団登校のため、朝は近くの公園に7:10集合。
線路も大通りもあります。
②学区外ですが、徒歩10分。信号のある大通りが1本で行ける学校もあります。
この人は自分で教育委員会にも学校にも問い合わせていて、②に通えること自体は確認済みでした。そのうえで最後にこう書いています。
実際学区外に通うデメリットや、中学進学の際のことを考えた時、①にした方が良い大きなメリットって、ありますか??
回答は4件つきました。ベストアンサーは「距離とか友達とかよりも、学校の調査をして決めた方がいいと思います。」。別の人も「単純に距離だけで判断せず、学校の情報収集をされたほうがいいかと思います。」と書き、3人目は「小学校、近い方がいいと思います。」の一行でした。
4件とも、学校の規模や先生や雰囲気の話をしています。なぜ近いほうが学区外なのか、線の引かれ方そのものを疑った回答は1件もありませんでした。
読者
線って、いちばん近い学校になるように引くものじゃないんですか?
そう思いますよね。でも法律を最初から最後まで読んでも、距離の話は1度も出てきません
法律には「近い学校にしなさい」と書かれていません
通う学校を決めているのは、学校教育法施行令の第5条第2項です。市町村に小学校が2校以上あるときの決まりで、条文はこうなっています。
前項の通知において当該就学予定者の就学すべき小学校、中学校又は義務教育学校を指定しなければならない。
指定しなければならない、とあるだけです。何を物差しにするかは1文字も書かれていません。
実際、学校教育法・同施行令・同施行規則の3つを条文の全文で検索しても、「通学区域」「通学距離」「距離」「校区」「学区」のどれも0回でした。校区という言葉自体が、法律に存在しないのです。

距離の数字が出てくる法令はあります。ただし、まったく別の場面のものです。
通学距離が、小学校にあつてはおおむね四キロメートル以内、中学校及び義務教育学校にあつてはおおむね六キロメートル以内であること。
これは義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律施行令の第4条で、見出しは「適正な学校規模の条件」。学校を統合したあとに国の負担金の対象になるかどうかを決める条件で、校区の線を引く基準ではありません。
「小学校は4km以内」と書いてある解説を見かけますが、これは統合の話です。校区がその範囲で引かれる決まりではありません
神戸市の2,546町丁を、地図の上で測ってみました
法律に基準が無いなら、実際にはどうなっているのか。神戸市が公表している小中学校区一覧を町丁ごとに開き、国土交通省が出している町丁の代表点と学校の位置を使って、直線距離を全部計算しました。

指定された小学校がいちばん近い小学校だったのは2,019町丁で79.3%。残りの527町丁(20.7%)は、指定校よりも近い市立小学校が別にありました。差が300m以上ある町丁が125、500m以上が64、1km以上も8あります。
もうひとつ、地図を見ないと気づけないものが出てきました。いちばん近い小学校が別の区にある町丁が68あります。区役所が違えば校区一覧も別のページなので、隣の区に近い学校があること自体、探しに行かないと分かりません。

区で見ても、いちばん高い灘区が24.9%、いちばん低い西区が15.2%。特定の地域の事情ではなく、神戸市のどこでも2割前後で起きていました。
読者
2割って、けっこう多くないですか?
多いです。ただし差の中央値は151mなので、大半は「言われてみれば」くらいの差です。効いてくるのは300m以上ある125町丁のほうですね
同じ「中道通」でも、指定校は3つに分かれます
分かりやすい例が兵庫区にありました。中道通という町名は一丁目から九丁目まであるのですが、指定校が3つに割れています。

目を引くのは八丁目です。水木小学校までは178m。それでも指定されているのは930m先の会下山小学校で、隣の九丁目に住んでいれば、その水木小学校が指定校になります。
差がもっと大きい町丁もあります。須磨区の弥栄台四丁目は、指定校の菅の台小学校まで2,359m。いちばん近いのは西区の東町小学校で779mなので、差は1,580mです。垂水区の星陵台四丁目も、指定校の東舞子小学校が1,301mで、千代が丘小学校が563mでした。

ここで出した数字は、町丁の代表点から学校までを地図上でまっすぐ結んだ距離です。実際の通学路は坂や線路や大通りで遠回りになるので、近いほうが必ず通いやすいという意味ではありません。同じ町丁でも端と端では数百m変わります
神戸市は、先回りして「変更を認める地区」を決めています
ここまで読んで、市は気づいていないのだろうかと思うかもしれません。気づいています。
神戸市の「指定学校の変更・区域外就学」のページに、「当分の間、指定学校の変更を認める指定地区」という2ページのPDFが置いてあります。就学に関する規則にひもづいた要綱の抜粋で、地区名と指定学校と希望学校が表になっています。申し立てを待つのではなく、あらかじめ「ここは認める」と決めてあるリストです。
別表第1には14地区。灘区の国玉通は美野丘小学校が指定校ですが摩耶小学校を、垂水区の千鳥が丘は福田小学校が指定校ですが千鳥が丘小学校を選べます。別表第2は「学校の過密化または小規模化の緩和のため特に指定する地区」で9地区。長田区の戸崎通三丁目と西代通四丁目はだいち小学校から板宿小学校へ、須磨区の妙法寺小学校の校区全域は横尾小学校へ、北区の長尾小学校の校区全域は大沢小学校へ変えられます。
この表に載っている地区を、さきほどの直線距離で引き直してみました。国玉通二丁目のいちばん近い小学校は摩耶小学校、千鳥が丘一丁目は千鳥が丘小学校、戸崎通三丁目は板宿小学校。市が希望学校として名指ししている学校と、計算上いちばん近い学校が、7つの地区で一致しました。
読者
じゃあリストに載っていない町は、あきらめるしかないんですか?
いいえ。リストは「手続きが通りやすい地区」であって、載っていない地区の申し立てを禁じるものではありません
学校教育法施行規則の第32条第2項は、教育委員会に対してこう定めています。
市町村の教育委員会は、学校教育法施行令第五条第二項の規定による就学校の指定に係る通知において、その指定の変更についての同令第八条に規定する保護者の申立ができる旨を示すものとする。
入学の通知そのものに、変更を申し立てられると書いておきなさい、という決まりです。同じ規則の第33条は、変更できる場合の要件と手続きを定めて公表しなさいとも書いています。申し立ては例外の裏技ではなく、通知に書いてあるはずの手順のほうです。
ただし、神戸市のPDFには注意事項が3つ付いていて、2つ目が効きます。
上記のうち、小学校のみ指定学校の変更が認められている地区については、中学校進学時には指定学校へ入学していただきます。
近い小学校に移っても、中学校では元の指定校に戻る地区がある。冒頭の質問者が心配していた「校友とは違う中学」の、ちょうど裏返しのことが起きます。
なお神戸市は、変更の基準は学校経営支援課、校区そのものの調整は学校環境整備課、手続きは区役所の市民課と、窓口を3つに分けています。「校区の線を動かしてほしい」と「うちの子だけ近い学校に行きたい」は、担当が別です。
手続きの流れそのものは別の記事にまとめています。→ 学区外の小学校に通わせたい|指定校変更と区域外就学の違いと申請の順番
私はこう見ています
私は、この20.7%を「市の線の引き方が間違っている」とは考えていません。校区は距離だけでなく、通学路の安全、地域のまとまり、学校ごとの児童数の釣り合いで引かれます。冒頭の質問への回答にも「小規模ということは子どもの人間関係も固まりがち」という指摘があって、これは規模の側の合理性です。近い順に並べ替えたら、そのぶん別のところにしわ寄せが出ます。
そのうえで私が言いたいのは、「近いほうがいい」は感情ではなく、手続きに乗る理由になるということです。神戸市が23の地区について先回りでリストを作り、その希望学校が計算上の最寄り校と一致していたことが、その証拠だと考えます。
引っ越し先を決めるときに、指定校の名前だけ見て終わりにしてしまうと、この材料を持たないまま6年間を始めることになります。地図を1枚開くかどうかの差です。
引っ越し先を決める前に、順番にやること
家を決めてからでも申し立てはできますが、契約前に見ておいたほうが選べる幅が広がります。
- 候補の住所で指定校を調べる。町名と番地まで入れます。同じ町名でも丁目や番地で分かれることがあります
- 地図で、その住所からいちばん近い小学校を見る。指定校と違う名前が出たら、そこが検討の入り口です
- 自治体が「変更を認める地区」を公表していないか探す。神戸市なら「指定学校の変更・区域外就学」のページにPDFがあります
- 中学校でどこと合流するかも見ておく。小学校で変えても中学は指定校に戻る地区があります
4番目については、神戸市で進学先が2校以上に割れる小学校区を数えた記事があります。→ 同じ小学校なのに、中学で友達と別々になる?
学校の規模が気になる場合は、こちらもどうぞ。→ 1学年1クラスの小学校は将来なくなる?
引っ越し先の学区の調べ方そのものは、引っ越し先の学区の調べ方3つにまとめてあります。仮住まいで一時的に校区が外れる場合は、建て替えの仮住まいで学区が外れたらのほうが近い話です。
よくある質問
学区はいちばん近い小学校で決まるのですか?
決まりません。学校教育法・同施行令・同施行規則のどこにも距離の基準はなく、指定するのは市町村の教育委員会です。神戸市の2,546町丁を直線距離で調べると、20.7%にあたる527町丁で、指定校より近い市立小学校が別にありました。
近い小学校に変えてもらうことはできますか?
学校教育法施行令第8条にもとづく申し立てができます。神戸市は「当分の間、指定学校の変更を認める指定地区」として、あらかじめ認める地区を別表第1に14、別表第2に9つ公表しています。リストに載っていない地区でも申し立てそのものは可能ですが、認められるかどうかは自治体の基準によります。
指定校を変えたら、中学校もそちらの校区になりますか?
なるとは限りません。神戸市のPDFには、小学校だけ変更が認められている地区は中学校進学時に指定学校へ入学する、と明記されています。小学校で一緒だった友達と中学校で別々になることがあります。
自分の住所の指定校と、近くの小学校はどこで調べられますか?
住所から学区を調べるページで、町名を入れれば全国の小中学校区が出ます。指定校の名前が分かったら、地図でその学校と、周りにある別の小学校までの距離を見比べてください。
出典とデータの前提
- 校区=神戸市「神戸市内一括校区一覧」(最終更新2025年12月18日)を町丁ごとに取得して集計
- 町丁の位置=国土交通省「大字・町丁目レベル位置参照情報」2025年版
- 学校の位置=国土数値情報「学校」(令和5年度・兵庫県)の小学校と義務教育学校
- 指定学校の変更=神戸市「指定学校の変更・区域外就学」(最終更新2026年4月1日)と、同ページ掲載の「当分の間、指定学校の変更を認める指定地区」
- 条文=e-Gov法令検索の学校教育法、同施行令、同施行規則、義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律施行令
3つのデータは基準日がそろっていません(校区2025年12月、位置参照情報2025年版、学校 令和5年度)。距離はすべて地図上の直線距離で、通学路の長さではありません。番地で校区が分かれる町丁と、指定校が2つ以上ある町丁は集計から外しています。


コメント