「空き家になると火災保険が高くなる」——調べてここで止まると、値上がりより先に無くなるほうを見落とします。地震保険は法律で「居住の用に供する建物又は生活用動産のみ」と対象が決められていて、その保険料を所得から最大5万円引ける控除も「常時その居住の用に供する」家屋だけが相手です。
7,347回読まれた知恵袋の質問に、回答は4件つきました。4件とも火災保険の話しかしていません。
この記事でわかること
- ✓ 火災保険は「入れない」のではなく区分が外れる。上がる倍率を示した公表数字は存在しない
- ✓ 地震保険は値段ではなく定義の問題。地震保険に関する法律 第2条第2項第1号で対象から外れる
- ✓ 地震保険料控除も同じ言葉で外れる。火災保険料の控除は2007年分から存在しない
「住んでいる、と申告して契約変更すれば良いでしょうか?」
2017年7月、Yahoo!知恵袋にこんな質問が出ています。閲覧は7,347回。
親が死んで空き家になったら火災保険どうしますか?住んでないとダメと全労済からいわれました。住んでいる、と申告して契約変更すれば良いでしょうか?あるいは、死んだことを言わずにそのままにしているのでも良いでしょうか?
回答は4件。投票で選ばれたベストアンサーは、共済に相談し直すよう勧めたうえでこう書いています。
契約があるのであれば、『空家届』を提出する事で契約の継続は可能です。
残る3件は、続けられるか否かで割れました。
民間ならどこでも入れますよ、高くなりますが
なお、空き屋の場合一般物件 住宅物件より保険料は割高
騙して入っても、保険金は下りないと。
保険料をどぶに捨てるようなモノ。
方向はばらついていますが、4件には共通点があります。全部が火災保険の話です。この家にはもう2つ、同じ日にいなくなるものがあります。
読者
火災保険さえどうにかすれば、あとは同じですよね?
火災保険は値段が変わる話です。値段の話にすらならないものが、あと2つあります。
「高くなる」の正体は、保険の種類が入れ替わること
損害保険料率算出機構は、火災保険の料率を4つの区分に分けて算出しています。
当機構では、住宅物件、一般物件、工場物件、倉庫物件の4物件に区分して、火災保険の参考純率を算出しています。
このうち住宅物件の定義は「住居としてのみ使用する」建物です。誰も住まなくなった家はここから外れ、オフィスビルや学校と同じ一般物件のほうに移ります。回答者が書いた「一般物件 住宅物件より保険料は割高」は、値上げではなく区分の入れ替えを指しています。

では何倍になるのか。ここは書けません。同じ機構が、料率そのものを出さないと明記しているからです。
参考純率自体は、使用義務のない参考数値であり、また、実際に保険契約者に適用される保険料とは異なること等から、開示を行っていません。
公表統計から平均どうしを割り算する手もありますが、これはやってみて捨てました。2024年度の新契約で1件あたりの保険料を出すと住宅物件40,394円・一般物件143,791円で3.56倍になる一方、保険金額あたりでは住宅物件0.250%・一般物件0.149%と順番がひっくり返ります。一般物件のほうには耐火構造のビルが大量に入っているためで、この2つの平均は比べられません。倍率を語る数字は、少なくとも公表資料の中には無いというのが結論です。
保険料の額は各社が決めます。この記事では「いくらになる」を書きません。
誰も触れなかった2つめ——地震保険は、値段の問題ではない
地震保険は単独では買えません。火災保険に付ける形でしか成立しないことが、法律の定義に書いてあります。
特定の損害保険契約に附帯して締結されること。
そしてその同じ条文の1つ前の号が、対象をこう限っています。
居住の用に供する建物又は生活用動産のみを保険の目的とすること。
地震保険に関する法律 第2条第2項の第1号と第3号です。火災保険が住宅の保険でなくなった時点で、そこに地震保険を付ける先が無くなります。財務省の説明も同じで、対象外の筆頭に「工場、事務所専用の建物など住居として使用されない建物」を挙げています。日本損害保険協会の案内は「住居のみに使用される建物および併用住宅」が対象だと書いています。
統計の側も同じ線を引いています。ニュースで見る地震保険の付帯率は、分母が「当該年度に契約された火災保険(住宅物件)の件数のうち」です。住宅物件から外れた家は、そもそも数えられていません。2024年度の付帯率は兵庫県で71.6%、全国で70.4%。阪神・淡路を経験した県で、その年に火災保険を新しく結んだ人の7割が付けている保険です。それが、実家が空き家になった日に選択肢から消えます。
読者
売れるまでの1年か2年だけ、というのも無理ですか?
期間ではなく、住んでいるかどうかで切られています。売却中でも同じです。
これを正確に答えている回答は、知恵袋の中に存在します。ただし別の質問のほうです。2025年11月、父がマンションへ移って一軒家が空いたという人が、地震保険の更新を続けるべきかを尋ねました。「毎年10万引き落としされており年金暮らしには大きい出費です。」という相談です。ベストアンサーはこうでした。
「別荘のような用途(定期的に人が寝泊まりする)」とかの理由がないと、居住の用途でない建物・その建物内の家財に地震保険は契約できません。
別の回答者も「その状態では地震保険契約出来ません、代理店がおかしいです」と書いています。7,347回読まれた質問には無かった答えが、71回しか読まれていない質問に置いてあります。閲覧数の差は約100倍です。
3つめ——税務署も、同じ言葉で切っている
年末調整の書類に地震保険料控除の欄があります。国税庁は対象をこう定義しています。
自己や自己と生計を一にする配偶者その他の親族の所有する家屋で常時その居住の用に供するもの
「常時その居住の用に供する」。保険の入口で使われたのと同じ言葉が、税の出口にも置かれています。しかも逃げ道はありません。火災保険料のほうの控除は、平成18年の改正で廃止され、平成19年分からもう存在しないからです。
平成18年12月31日までに結んだ一定の長期損害保険契約には経過措置があります。契約日と保険期間で決まるので、証券を見てください。
Googleの検索候補に「空き家 地震保険料控除」「年末調整 地震保険 空き家」が並ぶのは、たぶんここで気づく人が多いからです。保険会社から届いた控除証明書を持ったまま、対象かどうかで手が止まる。
神戸で売られている実家は、いつ建った家か
地震保険には割引があります。昭和56年6月1日以降に新築された建物なら10%の建築年割引。地方公共団体等の耐震診断や耐震改修の結果、昭和56年6月1日施行の建築基準法の耐震基準を満たすと分かった場合は、耐震診断割引が10%です。実家がどちら側かは、建った年で決まります。
国土交通省の不動産取引価格情報から、神戸市9区で実際に売買された家つき住宅地のうち建築年が分かる1,580件を数えました。

1980年以前が496件で31.4%、1982年以降が1,064件で67.3%。取引データの建築年は年までしか分からないので、線をまたぐ1981年の20件(1.3%)はどちら側か決められません。全国では、2024年度に結ばれた地震保険の新契約のうち62.6%に建築年割引が付いています。母集団は違いますが、線の手前と奥の分かれ方はよく似ています。
ただし、この割引の話には前提があります。割引が効くのは、地震保険に入れる建物だけです。実家が空き家になった時点で、10%も50%も関係が無くなります。割引率を調べる前に、まだ住んでいる家かどうかで分かれています。
「嘘をつく」と「黙っている」は、別の条文にかかる
最初の質問者は2つの案を並べていました。住んでいると申告して契約を変更するか、親が亡くなったことを言わずにそのままにしておくか。保険法では、この2つはまったく別の場所で扱われます。
前者は契約を結ぶときの告知義務です。第4条が、保険会社が尋ねた事項について事実を告げるよう定めていて、故意または重大な過失で違う内容を告げたときは第28条第1項で契約を解除できます。回答者の「告知義務違反 火災事故の際保険金の支払いはありません。」は、ここを指しています。
後者は契約したあとの話で、第29条の危険増加です。こちらは解除の要件が2つあり、告知した内容に変更が生じたら遅滞なく通知すべき旨が契約に定められていて、かつ故意または重大な過失でその通知をしなかった場合に限られます。同じ「言わない」でも、入口で言わないのと途中で言わないのとでは、会社の側が使う条文が違います。
解除されたときの扱いも条文にあります。
損害保険契約の解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。
そのうえで、解除までに起きた事故の損害は払わないと定め、こうただし書きが付いています。
ただし、同項の事実に基づかずに発生した保険事故による損害については、この限りでない。
読み方に注意が要ります。嘘をついても一部は払われる、という保証ではありません。払われるのは、隠していた事実と関係なく起きた事故だけです。誰も住んでいないことは、火の不始末の発見が遅れることにも、侵入されることにも、漏水が広がることにも直結します。関係が無いと言える事故のほうが少ない、という形の例外です。
私は、この2つを並べて悩むこと自体が損だと見ています。嘘の申告で守れるのは火災保険だけで、地震保険と控除は嘘をついても戻ってこないからです。地震保険は付帯先の火災保険が住宅の保険であることが条件で、控除は税務署が家屋の使われ方で判定します。リスクを取って手に入るものと、取っても手に入らないものが混ざっているのに、質問の2択はそこを分けていません。
読者
では、何から手を付ければいいですか。
いつまで空き家にするかを決めることです。保険の選び方は、そこが決まってから決まります。
契約者だった親が亡くなっている場合、火災保険の契約は宙に浮いたままにはなりません。建物と一緒に相続され、名義の変更手続きが要ります。検索候補に「相続 火災保険 名義変更」が2番目に出てくるのは、ここでつまずく人が多いからでしょう。実家をどうするかの判断は、名義や登記の状態でも変わります。空き家のまま置いたときに3年で消えるものについては実家を空き家にした日から、3,000万円の控除は3年で消えます、きょうだいで持っている場合は実家に住み続けたいのに、兄弟が売りたがっているを先に読んでおくと、動ける順番が見えます。
よくある質問
空き家になったら、火災保険には入れないのですか?
入れないと言い切れる話ではありません。損害保険料率算出機構の区分では、誰も住まない建物は「住居としてのみ使用する」建物にあたらないため住宅物件から外れますが、一般物件として引き受ける会社はあります。最初の質問の回答者も「保険会社によっては、空き屋の引き受け規制してるところもあるのでご注意だね。」と、会社によって違うことを書いています。
地震保険だけ続けることはできますか?
できません。地震保険に関する法律 第2条第2項第3号が「特定の損害保険契約に附帯して締結されること。」と定めていて、火災保険に付ける形でしか契約できません。同じ条の第1号で対象が居住の用に供する建物と生活用動産に限られているため、住居として使われていない建物では付ける先も対象も無くなります。
家財を置いたまま、ときどき見に行っています。それでも空き家ですか?
扱いは保険会社が判断します。最初の質問のベストアンサーは、共済で「空家届」を出せば継続できる場合があるとして、家財が置いてあることと定期的に見回れることを条件に挙げていました。ただしこれは回答者が書いている手続きで、共済の公式サイトに空き家の扱いを説明したページは見つかりませんでした。契約している会社に確認してください。
空き家の地震保険料は、年末調整で控除できますか?
対象になりません。国税庁は控除の対象となる資産を「常時その居住の用に供するもの」と定めています。火災保険料のほうは、平成18年の税制改正で損害保険料控除が廃止され、平成19年分から控除そのものがありません。ただし平成18年12月31日までに契約した一定の長期損害保険契約には経過措置があります。
最後に
最初の質問者は「住んでないとダメ」と言われて、住んでいることにする方法を探していました。探す方向は分かります。実家は昨日まで住宅だったのですから。
ただ、その家から抜けたのは人だけではありません。火災保険は種類が変わり、地震保険は法律の定義から外れ、控除は税務署の定義から外れる。誰も住まなくなったという1つの事実が、3か所で別々に効いています。1か所だけ元に戻す方法を探しても、残る2つはついてきません。
出典
- 地震保険に関する法律(昭和41年法律第73号・e-Gov法令検索 341AC0000000073)第2条第2項
- 保険法(平成20年法律第56号・e-Gov法令検索 420AC0000000056)第4条/第28条/第29条/第31条
- 財務省「地震保険制度の概要」
- 損害保険料率算出機構「火災保険参考純率」および「火災保険・地震保険の概況 2025年度版」(2026年4月発行)第1表・第12表・第13表
- 一般社団法人日本損害保険協会「地震保険特設サイト」
- 国税庁 タックスアンサー No.1145「地震保険料控除」/No.1146「地震保険料控除の対象となる保険や共済の契約」(令和7年4月1日現在法令等)
- 国土交通省「不動産取引価格情報」(神戸市9区・宅地(土地と建物)・住宅地のうち建築年の分かる1,580件を集計)
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