「マンションの管理費と修繕積立金が値上げされるみたいなのですが、決まってしまうと拒否はできないのでしょうか?もし、滞納した場合は差し押さえとかになるのでしょうか?」——Yahoo!知恵袋に実在する相談です(出典は記事末尾)。先に答えると、総会で可決された値上げは、反対票を入れた部屋にも同じ月から満額で請求されます。
では、どれだけの賛成が集まると「可決」なのか。ここからが混乱の始まりで、知恵袋では2つの相談のベストアンサーが「過半数」と「4分の3」に割れています。実は、どちらも間違いではありません。あなたのマンションの管理規約に金額が書いてあるかどうかで、正解が変わるからです。
先に結論
- 総会で可決された値上げは反対した人・欠席した人にも効きます。決まったあとに個人で拒否はできません
- 可決ライン:規約に金額の記載がなければ普通決議(過半数)、金額が書いてあれば規約変更=特別決議(4分の3以上)
- 滞納すると遅延損害金と督促が始まり、法律上は部屋の競売まで進みうる回収の仕組みがあります
- 値上げを否決しても修繕費は減りません。積立が計画より不足しているマンションは全国の36.6%
- 値上げ後の月額が払えない見通しなら、滞納で粘るより先に「今いくらで売れるか」の数字を見るほうが損の少ない順番です
ベストアンサーが「過半数」と「4分の3」で割れていた
冒頭の相談に付いたベストアンサーは、規則の変更には総会で4分の3以上の賛成が必要だ、と答えています。ところが2022年5月に投稿された別の相談——タイトルは『修繕積立金の値上げは普通決議の過半数と特別決議の3/4どちらに成るのか』——のベストアンサーは、総会の普通決議で決まり、出席議決権の過半数で足りる、と正反対を答えています。
同じサイトの同じテーマで、質問者に選ばれた答えが真っ二つです。どちらかの回答者が雑だったのではありません。2人は、別の型のマンションを前提に話していただけです。
拒否できるかは、規約に金額が書いてあるかどうかで変わる
分かれ目は1か所です。管理規約とその別表に、修繕積立金の金額そのものが書いてあるかどうか。
国土交通省がひな型として示す標準管理規約では、修繕積立金の額は規約本文に書き込まず、総会の決議で決める建て付けになっています。この型のマンションなら、値上げは総会の普通決議——出席した組合員の議決権の過半数——で可決される、というのがマンション管理の実務解説に共通する説明です。2022年の相談のベストアンサーは、こちらを前提にしています。
一方、規約の本文や別表に「月額◯円」と金額まで書き込んであるマンションでは、値上げは規約の変更そのものになります。規約の変更は区分所有法の特別決議にあたり、区分所有者の数と議決権のそれぞれ4分の3以上の賛成が要るとされています。冒頭の相談のベストアンサーは、こちらの前提です。
| あなたのマンションの規約 | 値上げに必要な決議 | 可決ライン |
|---|---|---|
| 金額の記載がない(額は総会で決める型) | 普通決議 | 出席組合員の議決権の過半数 |
| 本文・別表に金額が書いてある | 規約変更=特別決議 | 区分所有者数・議決権の各4分の3以上 |
そしてどちらのルートでも、可決された決議は反対した人を含む全員を拘束します。1人で反対しても10人で反対しても、ラインを越えた瞬間に「全員のルール」になる——ここが区分所有というしくみの核心です。なお、同じ「4分の3」のラインは、2026年4月施行の区分所有法改正で新設された取壊し決議にも使われています。老朽化がさらに進んだ先の制度はマンションの取り壊しに反対したらどうなるかで整理しています。
払えないまま滞納すると、部屋の競売まで進む仕組みがある
冒頭の相談の後半、「滞納した場合は差し押さえとかになるのでしょうか?」への答えです。順番としては、規約に定めがあれば遅延損害金が上乗せされ、管理組合からの督促が始まります。それでも払われない滞納に備えて、区分所有法には管理費や修繕積立金の債権に「先取特権」という担保権を認める規定があり、部屋そのものを担保にできる強い債権として、最終段階には競売まで進みうる——というのが実務解説に共通する説明です。
いきなり競売にはなりません。ただ、管理組合から見れば、滞納は残りの住民が肩代わりしている状態なので、放置する理由もありません。3か月以上の滞納住戸があるマンションは全国の30.1%です(出典:国土交通省 令和5年度マンション総合調査)。滞納は珍しい事件ではなく、だからこそ回収の手順が定型化されています。
新築時の積立金は「あとから上げる前提」で設定されている
そもそも、なぜ値上げの議案が来るのか。「うちの管理組合が下手だから」ではありません。修繕積立金の全国平均は月13,054円(戸あたり)で、この25年で約1.8倍になりました。値上げは全国で同時に起きている構造です。
構造の正体は積立方式にあります。同じ調査で、最初は安く始めて段階的に上げていく「段階増額積立方式」が47.1%と、最後まで定額の「均等積立方式」の40.5%より多数派でした。半数近くのマンションは、新築の時点から「あとで上げる」計画で走り始めています。
国のガイドラインは、その上げ幅まで式で認めています。計画初期の額は基準額(均等方式で必要になる額)の0.6倍以上あればよく、最終の額は1.1倍以内——つまり0.6倍で始めたマンションは、計画どおりに進んでも最終的に約1.8倍まで上がります。20階未満・延べ床5,000㎡未満のマンションの目安額(平均335円/㎡・月)を70㎡の部屋に当てはめると、初期は月約14,070円、最終は月約25,795円。月に11,725円、年に約14万円の値上げが、入居した日から計画に織り込まれている計算です。
私はこの初期設定を、良心的な価格だとは見ていません。毎月の負担を軽く見せて、分譲時に売りやすくするための設定だと見ています。国土交通省自身、積立方式としては均等積立方式が望ましいとガイドラインに書いています。逆に言えば、届いた議案書に長期修繕計画の表が付いているなら、それは突発の値上げではなく、最初からあった計画の実行です。
値上げが通らなかった分は、積立不足として残る
総会で否決されれば、値上げは止まります。それが区分所有のルールである以上、否決も正当な結論です。ただし、止まるのは値上げだけで、必要な修繕費は1円も減りません。
差額は積立不足として残ります。長期修繕計画に対して積立が不足しているマンションは全国の36.6%で、前回調査より1.8ポイント増えました。不足が20%を超えるマンションも11.7%あります。不足の出口は4つしかありません。次のもっと大きい値上げ、一時金の徴収、管理組合の借入、そして修繕の先送りです。
先送りを選んだマンションがいくらで売れるのかを、因果として証明する統計は手元にありません。売買のデータには、そのマンションの積立額や管理状態が記録されないからです。その前提で、並べておきたい数字があります。神戸市9区で実際に売れた中古マンション(専有50〜80㎡・1,322件)の中央値は、築47〜49年で995万円、築50〜52年で485万円、築53〜55年で300万円。3年の差で51%落ち、築50年以上の全体では中央値330万円でした。管理費と修繕積立金の全国平均(月24,557円)で割ると、11年持っているだけで売値ぶんを払い切る水準です。この計算の中身は実家のマンション、持ち続けたら負の遺産?に書きました。
もうひとつ。同じ調査の公表資料には「高経年マンションに居住する70歳以上の世帯主が半数以上に」という表題が付いています。年金暮らしの世帯ほど値上げの議案に賛成しづらく、否決が続くほど不足が積み上がる。積立不足36.6%と、築50年超の中央値330万円——別々の統計ですが、同じ坂の上と下にある数字だと私は見ています。
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値上げの議案が来たら、総会の前に確かめること
- 管理規約と別表を開き、修繕積立金の金額が書いてあるか確かめる。書いてあれば特別決議(4分の3)、なければ普通決議(過半数)——それがあなたのマンションの可決ラインです。
- 議案書に添付された長期修繕計画と、積立金の残高・不足額を見る。値上げ額が計画の数字とつながっているなら、それは計画の実行です。つながっていないなら、総会で根拠を質問する材料になります。
- 反対するなら対案とセットにする。工事内容の精査、借入や一時金との比較を挙げずに「下げてほしい」だけで否決しても、不足が次の議案書に回るだけです。
そのうえで、値上げ後の月額が家計に乗らない見通しなら、滞納で粘る前に「今いくらで売れるか」を数字にしておくのが損の少ない順番です。築50年の手前に価格の段差がある以上、この確認は早いほど選べる道が多く残ります。
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よくある質問
積立金を2倍にする議案が出ました。うちの管理組合は特別に下手なのですか?
いえ、全国の構造です。全国平均は25年で約1.8倍になり、国のガイドラインも初期0.6倍→最終1.1倍、つまり約1.8倍の増額を計画の範囲内としています。2倍前後の議案は、この式が想定する幅とほぼ重なります。下手というより、安すぎた初期設定の清算です。
修繕積立金の値上げは何年ごとに来ますか?
全国一律の決まりはありません。段階増額積立方式(47.1%)のマンションでは、長期修繕計画の表に増額の時期と幅が先に書かれています。計画は定期的に見直されるため、工事費が上がる局面では前倒しや上乗せもありえます。次の増額時期を知る最短ルートは、自分のマンションの計画表です。
総会で反対したのに可決されました。払わない選択肢はありますか?
ありません。可決された決議は、反対した人も欠席した人も拘束します。払わなければ滞納となり、遅延損害金と督促を経て、法律上は競売まで進みうる回収の流れに入ります。月額が払えない見通しなら、滞納が始まる前に、売却した場合の手取りと比べておくほうが選択肢を残せます。
この記事の数字の出どころ
出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査」(令和6年6月公表)——修繕積立金 月13,054円・管理費 月11,503円(戸あたり平均・駐車場使用料等からの充当額を除く)、段階増額積立方式47.1%・均等積立方式40.5%、計画に対する積立不足36.6%(うち不足20%超は11.7%)、3か月以上の滞納住戸あり30.1%。「高経年マンションに居住する70歳以上の世帯主が半数以上に」は公表時のプレスリリースの表題です。
出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)——目安額(20階未満・延べ床5,000㎡未満で平均335円/㎡・月)と、段階増額の計画初期0.6倍以上・最終1.1倍以内の式。70㎡への月額換算は当サイトの計算です。
出典:国土交通省「不動産取引価格情報」——神戸市9区・中古マンション等(2024年第4四半期〜2026年第1四半期)のうち専有50〜80㎡の1,322件を当サイトで集計。値はすべて中央値で、実際に売買が成立した部屋の記録です。各マンションの積立額・管理状態は含まれません。
出典:Yahoo!知恵袋(Yahoo!不動産「教えて!住まいの先生」転載)——冒頭の相談、2022年5月24日の相談。引用はいずれも原文の一部です。
決議と滞納処理の記述は、国土交通省の標準管理規約と区分所有法の仕組みに沿った説明です。実際の手続きや可決ラインはマンションごとの管理規約で異なります。議案への対応は、ご自身の規約と長期修繕計画を確かめたうえで判断してください。


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