🗨️「何キロ出したら危険運転になるのでしょうか」
2026年7月21日から、数字の線が1本引かれました。制限速度60キロ以下の道なら制限+50キロ以上、60キロを超える道なら制限+60キロ以上で、一律に危険運転致死傷罪の対象になります。ただしこれは新しく作られた号で、従来の「進行を制御することが困難な高速度」という条文はそのまま残っています。そちらには今も数字がなく、実際に時速194.1キロで該当しないとされた裁判と、時速約45キロで該当するとされた裁判が、どちらも公式に出ています。
[事件・事故] この記事の要点
2026年9月15日 発表
- 高速道路や自動車専用道路をよく走る人
- 家族に免許を取ったばかりの人がいる家庭
- 「速度超過」と「危険運転」の違いを知らないまま運転している人
7月21日に、条文が8つから11に増えました
危険運転致死傷罪を定めているのは自動車運転死傷処罰法の第2条です。ここが改正され、2026年7月21日に施行されました。何が変わったかを、施行日の前後で並べます。
| 項目 | 2026年7月20日まで | 2026年7月21日から |
|---|---|---|
| 第2条の類型 | 8号 | 11号 |
| 速度の線引き | 数字なし | 制限+50/+60キロ以上なら一律で該当 |
| 飲酒の線引き | 「正常な運転が困難な状態」を個別に認定 | 呼気1リットルあたり0.5ミリグラム以上なら一律で該当 |
| ドリフト・ウイリー | 直接あてはまる類型なし | 新6号で対象 |
改正法は令和8年法律第52号で、2026年6月25日に成立し、7月1日に公布されました。施行は公布から20日後の7月21日です。「検討されている」段階ではなく、すでに効いています。
数字が入ったのは、新しく作られた号のほうです
ここを取り違えると全部ずれます。従来からある「その進行を制御することが困難な高速度」という条文は、削られていません。新3号として、数字のないまま残りました。数字が入ったのは、その横に新しく作られた新4号です。
| その道の最高速度 | 新4号にあたる速度 | 法務省があげた例 |
|---|---|---|
| 時速60キロ以下 | 最高速度+50キロ以上 | 制限50キロの道 → 時速100キロ以上 |
| 時速60キロ超 | 最高速度+60キロ以上 | 制限80キロの道 → 時速140キロ以上 |
法務省は、追い越しのための加速や、高速道路で合流するための加速であっても対象になると明記しています。
では、それ未満なら危険運転にはならないんですか
そうはなりません。数字に届かなくても、残っている新3号のほうで問われることがあります。次の2つの裁判が、その幅をいちばんはっきり見せています
時速194キロで該当せず、時速45キロで該当する
どちらも裁判所が判決文を公開している実例です。
| 福岡高裁 2026年1月22日 | 福岡地裁 2025年9月22日 | |
|---|---|---|
| 道路 | 法定最高速度60キロの片側2車線 | 右へ湾曲する下り勾配 |
| 速度 | 時速約194.1キロ | 時速約45キロ |
| 判断 | 制御困難高速度に該当しない | 危険運転致死傷が成立 |
| 結論 | 一審の懲役8年を破棄し、過失運転致死で懲役4年6月 | 懲役3年6月(求刑6年) |
194キロのほうは、一審が危険運転致死を認めて懲役8年としたものを、高裁が破棄しました。理由は判決文にこう書かれています。
対処が困難な速度と認められることでは足りず、飽くまでも、自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度、あるいは、自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになるような速度と認められるかといった観点に基づいて判断がされる必要がある
福岡高等裁判所 令和8年1月22日判決より
つまり「速いから危ない」と「その道を曲がり切れない」は別だ、という切り分けです。判決はこの解釈を取らないと速度超過による過失運転致死傷罪との区別がつかなくなるとも書いています。
法務省も、改正の理由の一つとして「常識的に見て極めて危険性の高い高速度運転であっても、実際に進路を逸脱していない事案においては、危険運転致死傷罪の適用が否定される場合がある」という指摘を挙げています。新4号は、まさにこの穴を数字で埋めるために作られました。
今回のしまなみ海道の事故には、新しい基準は使われません
9月14日、愛媛県今治市のしまなみ海道で2026年4月に起きた正面衝突の事故について、危険運転致死傷の罪で起訴されたことが報じられました。ここで押さえておくべき点が1つあります。
改正法の附則は、施行前にした行為の処罰については従前の例によると定めています。事故が起きたのは2026年4月で、施行日は7月21日。4月の行為に、7月にできた数値基準はさかのぼって使えません。適用されるのは改正前の条文、つまり数字のない「制御困難な高速度」のほうです。
参考までに、JB本四高速が公表している西瀬戸自動車道の有料区間の制限速度は、全区間70キロです。仮に新4号をあてはめるなら「60キロ超の道」にあたるので、70+60で時速130キロ以上が線になります。あくまで仮の計算で、この事故に使われる数字ではありません。
起訴されたという事実と罪名のほかは、当局から発表されていません。動機や原因については、判決まで確定した話はありません
速度を理由に危険運転で起訴されるのは、年に22人
実際にどれくらい使われている罪なのかも見ておきます。法務省の犯罪白書に載っている2024年の数字です。
| 区分 | 人数 |
|---|---|
| 危険運転致死傷での検挙 | 844人 |
| 過失運転致死傷等での検挙 | 283,737人 |
| 危険運転致死傷での公判請求(総数) | 413人 |
| うち飲酒等影響 | 163人 |
| うち赤信号無視 | 82人 |
| うち高速度等 | 22人 |
車で人を死傷させて検挙された人のうち、危険運転に問われるのは約0.3%、およそ330人に1人です。そのうえ速度を理由にした起訴は、全国で年に22人しかありません。2023年も20人で、ここはずっと横ばいです。
一方で、罪名が変わったときの差はきわめて大きくなります。2024年の実刑率は、危険運転致死が94.4%、過失運転致死が4.7%。およそ20倍の開きです。「どちらの罪名になるか」が争われる理由はここにあります。
酒酔いと酒気帯びの境目も、同じ日に数字になりました
最後に、同じ改正でほとんど報じられていない部分を1つ。令和8年法律第52号は道路交通法も同時に改正していて、酒酔い運転と酒気帯び運転の境目そのものが数値で引かれました。
酒酔い運転(道交法117条の2第1項第1号)の「酒に酔つた状態」の定義に、血液1ミリリットルあたり1.0ミリグラム以上または呼気1リットルあたり0.5ミリグラム以上という数字が入り、酒気帯び運転(同117条の2の2第1項第3号)はその未満の範囲と書かれる形になりました。
法務省は参考値として、体重60キロの人が飲酒後30分の時点で、ビール大瓶2本(1,266ml)なら呼気1リットルあたり0.39〜0.68ミリグラム程度、日本酒2合なら0.33〜0.57ミリグラム程度としています。ただし「あくまで参考値」「アルコールの分解能力には個人差がある」とも明記しています。
生活・仕事にどう効くか
- 速度の線:制限60キロ以下の道は制限+50キロ以上、60キロ超の道は制限+60キロ以上。制限50キロなら時速100キロ、制限80キロなら時速140キロから。
- 残った条文:「進行を制御することが困難な高速度」は数字なしのまま存続。道路の形状とその車で曲がり切れるかで判断される。
- 結果の重さ:2024年の実刑率は危険運転致死94.4%、過失運転致死4.7%。罪名がひとつ変わるだけで桁が変わる。
結局どうすればよいか
- 自分がよく走る道の制限速度に+50、または+60した数字を一度出しておく
- 高速道路の合流や追い越しのための加速も対象になることを知っておく
- 同乗者を乗せるときは、その同乗者が死傷したときも同じ罪が成立することを頭に入れておく
公式出典
- 法務省「自動車運転死傷処罰法の一部改正に関するQ&A」(2026-07発表)
- e-Gov法令検索「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(2026年7月21日発表)
- 裁判所 判例集(福岡高等裁判所 令和8年1月22日判決)(2026年1月22日発表)
- 裁判所 判例集(福岡地方裁判所 令和7年9月22日判決)(2025年9月22日発表)
- 法務省『令和7年版 犯罪白書』危険運転致死傷による公判請求人員(態様別)(2025-11発表)
- JB本四高速「E76 西瀬戸自動車道(瀬戸内しまなみ海道)道路の概要」(2026-09発表)
更新履歴
- 2026年9月15日 初版を公開。
※本記事は2026年9月15日時点で公表されている情報にもとづきます。数値・制度・進路などは今後変わる可能性があるため、最新の内容は各公式発表をご確認ください。
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