「4件の私道のうち3件は近所の方なのですぐに捺印いただけましたが、1件がもらえません」——土地を売ろうとしている人が Yahoo!知恵袋に書いた、実在の投稿です(出典は記事末尾)。この1軒で止まるのは、家の前を通ることではありません。水道管やガス管を入れ替えるために、その道路を掘ること。止まるのはいつもこちらです。
承諾書が1軒ぶん足りないまま売りに出すと、値段が下がる前に、買える人の数が減ります。買主が住宅ローンを使う場合、通行・掘削承諾書の提出を融資の条件にしている金融機関があるためです。土地の広さも形も変わっていないのに、応募できる人数だけが減る。私道の売買がややこしいのはここです。
うちだけの特殊な事情だろうか、と思うかもしれません。国土交通省が公表している実際の成約データを全国ぶん集計したところ、住宅地の宅地の成約521,333件のうち、前面道路が私道だったのは70,747件でした。およそ7件に1件(13.6%)が、私道に面した家や土地の取引です。市道が65.0%でいちばん多く、私道はそれに次ぐ2番目に多い前面道路でした。
先に結論
- ✓ 私道の「持分なし」と「承諾書がもらえない」は別の問題。持分を持っていても、掘るときは他の共有者の承諾を求められます
- ✓ 2023年4月1日に施行された改正民法(213条の2)にも「承諾は要らない」とは書かれていません。義務として並んでいるのは、事前の通知・償金・費用負担の3つです
- ✓ 承諾書は当事者どうしの私文書。「承継」の一文が無ければ、買った人が同じ家を一軒ずつ回り直すことになります

私道で止まるのは、通ることではなく掘ること
冒頭の投稿に付いたベストアンサーは、こう書いています。
「粘り強く一人ずつ訪問して説得するしかありません。公衆用道路であれば多くの場合、通行権が認められるため、承諾がなくてもできますが、水道などの工事には掘削承諾書が必要となります。」
通ることと、掘ること。この2つをはっきり分けています。分け方は法律の側とも合っていて、民法210条は「他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる」と定めた、通行についての条文です。水道管やガス管を通すために他人の土地へ設備を置く話は、213条の2という別の条文に書かれています。同じ私道の上で起きることでも、条文からして別々です。
読者が実際に困るのは、ほぼ後者です。家を建て替える、給湯器やトイレを入れ替える、古い配管を交換する。どれも道路を掘って自分の敷地まで管を引き直す工事で、そのたびに道路の所有者の承諾を求められます。舗装を切って、埋めて、元に戻す。人が歩いて通り抜けるのとは、道路に対する扱いが違います。
前の道が私道かどうか、そもそもどこを見れば分かるのかは土地の境界・接道・高低差はどこを見る?に書きました。この記事は、見たら私道だった人の、その次の話です。
なお、前の道が私道でも、建築基準法42条の道路として指定されていれば建て替えはできます。43条が求めているのは、敷地が道路に2メートル以上接していることです。建て替えができるかどうかと、そのときいくらになるかは再建築不可の家は本当に二束三文?にまとめてあります。この記事が扱うのは、道路の形ではなく所有者のほうです。
承諾書が1軒ぶん足りないと、値段より先に買い手が減ります
工事ができないだけの話なら、困るのは工事をするときだけです。実際に先に効いてくるのは、売買のほうです。
不動産情報サイトのライフルホームズ ビズ(LIFULL HOME’S biz)は、改正民法後の取引実務としてこう書いています。
「多くの金融機関では、リスク管理の観点から現在も通行・掘削承諾書の提出を融資条件としています。」
「インフラを引き込めない土地は担保価値が大きく下がるため、貸し倒れリスクを低減するため、住宅ローン審査において承諾書の提出を要件とします。」
再建築不可物件の買取をしている株式会社リライトも、「買主様が利用する金融機関より融資条件として公道にでるまでの私道部分の通行・掘削承諾書の取得を付加される場合がある」と書いています。
承諾書が足りない土地は、権利が消えるのではなく、買える人が減ります。現金で買える人か、承諾なしのリスクを引き受けられる買主だけが残る。売り出す前と後で土地は1平方メートルも変わっていないのに、手を挙げられる人数だけが変わります。
「私道 持分なし 住宅ローン」という検索が実在するのは、買う側も同じところを最初に心配しているからです。値段より前に、そもそも借りられるのかを調べている。
私は、承諾書を「もらったか、もらっていないか」の二択で扱う慣行そのものに無理があると考えています。次の章で見るとおり、承諾書は一枚ずつ中身が違う紙です。それなのに取引の場では有無だけが確認されて、中身は読まれないまま次へ進むことがあります。

その承諾書に「承継」と書いてありますか
今度は買う側からの投稿です。旗竿地の建売住宅を検討していた人が、担当者から受けた説明をそのまま書き残しています。
「担当者が言うには私道の所有者全員から通行掘削承諾書をもらっており、今後所有者が変わったとしても継承されるのでリスクはないと言われました。(そんなわけありませんが)」
同じ知恵袋に、まったく別の人が投稿した、これと正面からぶつかる質問があります。
「一戸建ての建て替えで私道の通行・掘削承諾書を取得すれば一戸建ての売却でも上記建て替え時に取得した私道の通行・掘削承諾書が使えますか?」
建て替えのときにもらった紙は、売るときにも使えるのか。この質問への答えが、そのまま先ほどの説明への答えになります。
承諾書は、法律で様式が決まった書類ではありません。私道の所有者と、掘りたい人とのあいだで交わされる私文書です。だから効く範囲は、その紙に何が書いてあるかで決まります。「本承諾は承諾を受けた者の承継人にも及ぶ」といった一文が入っていなければ、そこまでは書かれていないというだけのことです。
読者
承諾書をもらったあとに私道の持ち主が代替わりしたら、もう一度もらい直しですか?
紙に書いてある範囲によります。承継について何も書かれていない承諾書は、押した本人との約束までしか読み取れません。だから「あるかないか」ではなく「何が書いてあるか」を先に見ます。
もう一度、冒頭の場面に戻ります。3軒から判子をもらった売主が、残る1軒を追いかけている。その1軒がようやく押してくれたとして、渡された4枚に承継の一文が無ければ、買った人は入居して何年かして給湯器を替えるときに、同じ4軒をもう一度回ることになります。そのころには、相続で所有者の数が増えているかもしれません。
「所有者が変わっても継承されるのでリスクはない」という説明は、承継の文言が入った紙であれば正しく、入っていなければ言い過ぎです。紙を見ないと、どちらなのかは決まりません。
民法が変わって承諾は要らなくなった、とは条文に書かれていません
「私道 掘削承諾書 民法改正」という検索が実在します。2021年4月28日に公布され、2023年4月1日に施行された改正で、民法に213条の2という条文が新しく入りました。ライフラインを引くために他人の土地へ設備を置ける、と定めた条文です。
第1項の原文はこうです。
「土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(略)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。」
ここだけ読めば、承諾は要らないように見えます。ただし、この条文には続きがあります。
「あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない。」(第3項)
「その土地の損害(略)に対して償金を支払わなければならない。ただし、一年ごとにその償金を支払うことができる。」(第5項)
「その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。」(第7項)
義務として並んでいるのは、事前の通知・償金・費用負担の3つです。条文のどこにも「承諾は不要になった」とは書かれていません。「承諾がなくてもよくなった」は条文から導かれた解釈であって、条文の言葉ではない。ここを混ぜて読むと、話が食い違います。
| 213条の2に書かれていること | 書かれていないこと |
|---|---|
| 設備を設置・使用できること(1項) | 「承諾は不要」という言葉 |
| 損害が最も少ない場所と方法を選ぶこと(2項) | 承諾書の様式や書式 |
| あらかじめ通知すること(3項) | 承諾書が要らなくなるという結論 |
| 償金を支払うこと(5項) | 金融機関が融資審査で何を求めるか |
| 設置・改築・修繕・維持の費用を負担すること(7項) | 隣人との話がこじれたときの落としどころ |
通知と承諾は違います。通知は「これから、ここを、こう掘ります」と先に伝えること。承諾は「掘っていい」と相手に言ってもらうこと。条文が求めているのは前者で、売買の現場で求められているのは後者です。
前の章のとおり、承諾書を求めているのは民法ではなく、取引と融資の現場です。条文が変わっても、そちらは自動では変わりません。

私道の「持分なし」と「承諾がもらえない」は、別の問題です
「私道 持分なし」で検索している人が続けて打っている語は、住宅ローン・通行・購入・再建築・トラブル・売れない・デメリットです。持分が無いこと自体を知りたいのではなく、その先で何が止まるのかを探しています。
持分と承諾書は、こう並べると違いが見えます。
| 持分 | 承諾書 | |
|---|---|---|
| 中身 | 私道という土地の、所有権の一部 | 通っていい・掘っていい、という所有者の意思表示 |
| どこに残るか | 登記 | 当事者が持っている紙 |
| 持っていると | 自分も所有者の一人になる | その紙に書かれた範囲のことができる |
| 持っていても | 他の共有者の承諾を求められる | 書いていないことはできない |
持分を持っていても、掘るときには他の共有者の承諾を求められます。道路そのものに手を入れる話になるためです。逆に、持分が1ミリも無くても、所有者全員から承継の文言つきの承諾書をもらえていれば、買主の資金計画が組めることはあります。持分の有無だけで白黒が決まるわけではありません。
同じ「持分」でも、共有名義の実家から抜ける道で書いた兄弟間の持分は建物と敷地の共有で、この記事の持分は前の道路そのものの共有です。持っている対象が違います。

判子が1軒ぶん足りないとき、順番にやること
冒頭の売主のように、あと1軒で止まっている人がやることを順に並べます。
1. 誰の判子が要るのかを、登記で確定する
私道の地番は、法務局で公図を取ると分かります。その地番の登記事項証明書を取れば、所有者が何人いるかが出ます。冒頭の投稿では、その1軒が「近辺に居住しておらず、(私とは無関係の)高齢の親族10人で共有している私道」でした。隣近所の顔ぶれと、登記の名義は一致しません。ここを飛ばすと、押してもらう相手ごと間違えます。
2. 頼む内容を1枚にまとめてから訪ねる
通行、掘削、工事車両の通行、そして承継。この4つを書いた紙を持っていくと、相手も何に判子を押すのかが分かります。何を承諾させられるのか分からないまま「判子をください」と言われる側は、断るのが自然です。
3. 承継の一文を必ず入れる
前の章のとおりです。ここが抜けていると、次に売るときに同じ作業をもう一度やることになります。今回1軒ずつ回るのは、自分のためであると同時に、次にこの家に住む人にこの作業をさせないためでもあります。
4. 相続で共有者が増えている私道は、時間の見積もりを変える
冒頭の投稿がまさにこれでした。相続で大もめしたために誰も関わりたくない、面会すらできない。ベストアンサーの「粘り強く一人ずつ訪問して説得するしかありません」は、精神論ではなく手順の話です。同時並行では進まないので、売り出す時期から逆算して動き始めます。
5. 自分で回れないなら、頼み先を探す
「私道 掘削承諾 代行」という検索が実在します。自分では回れないと分かっていて、頼める相手を探している人がいるということです。司法書士・行政書士・弁護士が私道の承諾についての解説を出しているのは、そこに実際の仕事があるからです。
6. 揃わないまま売るなら、揃っていないことを先に出す
承諾書が全部は揃っていない状態でも、売り出すこと自体はできます。ただしその事実は、買主の資金計画に直接効きます。後から出てくるほど話がこじれるので、担当者には最初に伝えておきます。
承諾料をいくら包むべきか、という検索もあります。ただし通行料・承諾料には公的な統計がありません。ネット上に出ている金額は個々の事例の伝聞で、検算のしようがないので、この記事では金額を書きません。
住所を入れると、国の成約データから坪単価の目安が出ます
買う側が、契約の前に見る3か所
私道に面した家を買おうとしている人が、契約より前に確かめられるものは3つあります。
- 私道の所有者が何人いるか。1人なのか、4軒で分けているのか、相続で10人に増えているのか。人数が増えるほど、次に掘るときの手間も増えます
- 承諾書の現物。「もらっています」という説明で止めず、紙そのものを見せてもらいます。誰が、いつ、何を承諾したのか。そして承継の一文があるか
- 水道管とガス管が、いま実際にどこを通っているか。すでに自分の敷地まで引き込まれているのか、これから引くのか。掘る必要が生じるのがいつなのかで、承諾書の重みが変わります
3つとも、契約してからでは順番が逆になります。冒頭の買主が「そんなわけありませんが」と書き添えたのは、説明の内容ではなく、確かめる前に進みそうになっていたことへの引っかかりだったはずです。
よくある質問
私道の掘削承諾書に有効期限はありますか
法律で一律に決まった期限はありません。承諾書は当事者どうしの私文書なので、効く範囲も期間も、その紙に何が書いてあるか次第です。期間を区切って書いてあるものもあれば、何も書かれていないものもあります。実物を見ないと判断できない、というのがこの書類の性質です。
私道の持分がなくても、家は売れますか
売れないと決まっているわけではありません。止まるのは所有権ではなく、買主の資金計画のほうです。通行・掘削承諾書の提出を融資条件にしている金融機関があるため、承諾書が揃っているかどうかで、手を挙げられる買主の範囲が変わります。持分の有無そのものより、承諾書の中身のほうが取引では効きます。
民法が変わったので、承諾なしで工事してよいですか
民法213条の2に書かれている義務は、事前の通知・償金・費用負担の3つで、「承諾は不要」という言葉は条文にありません。実際に着工まで進めてよいかは、私道の状況と相手方との関係によって変わります。判断の前に、工事業者と、必要に応じて弁護士・司法書士に相談してください。この記事は条文と実務の記述を並べたもので、個別の案件についての助言ではありません。
この記事の根拠
- 民法第210条(公道に至るための他の土地の通行権)、第213条の2(継続的給付を受けるための設備の設置権等):e-Gov法令検索・民法。本文の引用は条文の原文です(一部を「(略)」で省略)
- 213条の2の施行日:民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第二十四号)。公布2021年4月28日、施行2023年4月1日。e-Gov法令API の民法改正履歴(施行日2023年4月1日/改正法令番号「令和三年法律第二十四号」)で確認
- 建築基準法第42条・第43条:e-Gov法令検索・建築基準法
- 前面道路が私道だった成約の割合:国土交通省「不動産情報ライブラリ」の不動産取引価格情報を全国分集計。2023年第1四半期〜2026年第1四半期の887,381件のうち、種類が「宅地」かつ地区が「住宅地」の527,923件を対象とし、前面道路の種類が記録されている521,333件で数えました。私道70,747件(13.6%)、市道343,265件(65.0%)、町道29,788件(5.6%)、県道16,465件(3.1%)、区道16,429件(3.1%)
- 金融機関が承諾書を融資条件とする実務:ライフルホームズ ビズ(LIFULL HOME’S biz)「私道負担物件の『掘削承諾書』は必要? 改正民法後の取引実務を解説」/株式会社リライト「私道の通行承諾書がもらえないときの対処法」。引用は各ページの記載のままです
- 読者の声:Yahoo!知恵袋(4件のうち1件がもらえない・売主)/同(私道持分なしの建売・買主)/同(建て替え時の承諾書は売却でも使えるか)。引用は投稿された文章のままで、社名・金融機関名は伏せています
- 検索語の実在:Google サジェスト(2026年9月2日・当サイト採取)。「私道 持分なし」は候補9件、「私道 掘削承諾」は候補10件が返っています
この記事は条文と、公表されている実務の記述をまとめたものです。承諾書が要るかどうか、どこまでの範囲で効くかは個々の私道と書面によって変わります。実際の取引で判断に迷う場合は、取引の担当者に書面での回答を求めるか、弁護士・司法書士に確認してください。


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