「川の様子を見に行ってはいけない」。これは正しい呼びかけです。ただし、1999年から2018年までの風水害で亡くなった1,259人を1件ずつ分類した調査では、田んぼや用水路の見回り中に亡くなった人は全体の5〜6%でした。
残りの大半は、見に行った人ではありません。いつも通りに車で帰ろうとした人、いつも通りに歩いていた人です。2019年の台風19号(令和元年東日本台風)では、犠牲者の58%が屋外で亡くなり、そのうち54%が自動車で移動中の遭難でした。
そして2026年5月29日、逃げる合図そのものの名前が変わりました。「大雨警報」は「レベル3大雨警報」に、「土砂災害警戒情報」は「レベル4土砂災害危険警報」になっています。名前が変わったことを知らないと、スマホに出た文字が5段階のどこなのか読めません。
この記事でわかること
- ✓ 大雨のときにやってはいけない6つの行動と、その根拠になっている実測値
- ✓ 水深20cm・30cm・60cm・70cmで、それぞれ何ができなくなるか
- ✓ 2026年5月29日から変わった防災気象情報の新しい名前と、5段階の対応表
- ✓ 避難所へ向かうこと自体が危険になったとき、どこへ逃げればよいか
大雨のときにやってはいけない6つの行動
まず一覧です。このあと1つずつ、公表されている数字で裏を取っていきます。
- 大雨や台風が通り過ぎる前に外へ出る
- 冠水したアンダーパスへ車で入る
- 地下にとどまる
- エレベーターを使う
- 川や用水路を見に行く
- 崖や急斜面に近づく
① 大雨や台風が通り過ぎる前に外へ出る
風水害で亡くなった人の場所を屋内と屋外に分けると、ほぼ半々です。ただし原因別に見ると差がはっきり出ます。土砂災害は屋内で亡くなった人が8割。洪水や川に関するものは屋外が7割。風や波では屋外が8割でした。
水と風に関しては、家の中にいた人より外にいた人のほうが多く亡くなっているということです。しかも屋外で亡くなった人のうち、避難中だった人は少数でした。多くは日常の移動中か、屋外のどこか一か所にとどまっていたケースです。
読者
買い物だけ、様子を見るだけの外出でも危ないんですか?
その「だけ」がいちばん多く出てきます。危ないのは行った先ではなく、行き帰りの道のほうです。
② 冠水したアンダーパスへ車で入る

アンダーパスは、線路や道路の下をくぐるために前後より低くなっている区間です。国土交通省によると全国に約3,700か所あります(2025年3月末時点)。排水ポンプが付いていますが、その能力を超える雨が降れば水はたまります。
JAF(日本自動車連盟)が、前後にスロープを設けた水平部30mの冠水路を作って実験しています。水深30cmなら、セダンもSUV(スポーツ用多目的車)も時速10kmと時速30kmで走り切りました。水深60cmでは、セダンは時速10kmでもフロントガラスの下端まで水をかぶり、31m地点でエンジンが止まっています。SUVは時速30kmだとわずか10mで止まりました。
問題は、止まったあとです。JAFの別の実験では、セダンは水深60cmから後輪が浮き始めます。後輪が浮いた状態では、外から強い水圧がかかってドアが開きません。セダンが走れなくなる水深と、ドアが開かなくなる水深がほぼ同じだということです。止まってから逃げる、という順番は成り立ちません。

JAFの数値はテスト条件下のものです。「60cmまでは走れる」という意味ではありません。
2026年8月の千葉県の豪雨では、死者13人のうち少なくとも9人が浸水想定区域の中で亡くなりました。千葉市中央区のアンダーパス2か所は、想定浸水深が5m以上10m未満とされていた場所です。詳しくは浸水想定区域の外のほうが危ないのではありませんにまとめています。
③ 地下にとどまる
国土交通省の「地下空間における浸水対策ガイドライン」は、避難できなくなる限界の水深を数字で決めています。
平らな場所は、水深70cmで歩行速度が0になるとされています。ここまでは想像がつくと思います。厳しいのは階段のほうです。地上へ上がる階段は、踏面の上を流れる水が30cmになると上がれなくなります。20cmの時点で、上がる速さは水がないときの33%。毎分27mが毎分9mほどに落ちる計算です。
高さ10m分の階段なら、22秒で上がれたはずのものが1分以上かかります。その1分の間も、水は増え続けます。
読者
水が入ってきてから上がればいいのでは?
上がる速さが3分の1になるので、間に合いません。地下は入る前に決める場所です。
④ エレベーターを使う
1999年、東京都新宿区の低地の住宅地が冠水したとき、住宅の地下室にエレベーターで様子を見に行った男性が亡くなっています。水圧で扉が開かず、エレベーターも動かなくなり、水没した地下室に閉じ込められました。国土交通省のガイドラインが冒頭に載せている事例です。
この1件には、6つのNG行動のうち3つが同時に入っています。地下にとどまる、エレベーターを使う、様子を見に行く。やってはいけない行動は、単独ではなく重なって起きます。
エレベーターが危ないのは停電のときだけではありません。地下に巻き上げ機があるタイプは浸水で電気回路が遮断されて動かなくなります。屋上に機械室があるタイプでも、水深によってはかごに浮力が働いて地下階まで到達しないことがあります。そして、動くのを待っている間に避難が遅れます。
⑤ 川や用水路を見に行く
ここが、6つの中でいちばん誤解されている項目です。
「田んぼの様子を見に行って用水路に転落」は、風水害の犠牲者全体の5〜6%です。やってはいけないことに変わりはありませんが、これが主因ではありません。同じ「増水した川に近づいた」ケースの中でも多くを占めるのは、日常の中で車や徒歩で移動していて川に落ちたケースだと報告されています。
調査した研究者が挙げているのは、こういう形です。川沿いの道路の路肩が崩れ、気づかずに走った車が転落する。橋は流されていないのに、橋の取り付け部の盛土が流されてそこへ落ちる。小さな側溝で亡くなる。どれも「見に行った」わけではありません。
⑥ 崖や急斜面に近づく
土砂災害で亡くなった人の9割弱は、ハザードマップなどに示された土砂災害危険箇所か、そのすぐ近くで亡くなっています。地図に出ている場所で、地図の通りに起きているということです。
一方、洪水や川に関する犠牲者のうち、浸水想定区域の付近だった人は4割程度でした。中小河川では区域の指定が進んでいないことが背景にあるとされています。土砂は地図が当たり、水は地図から外れる。この差を知っておくと、自分の家がどちらのリスクを持っているかで身構え方が変わります。
いちばん多いのは「見に行った人」ではなく「いつも通りに帰ろうとした人」
6つの中で、報道でも家庭でもいちばん語られるのは「川を見に行くな」です。でも実数は5〜6%。一方、2019年の台風19号では屋外の犠牲者の54%が自動車で移動中でした。
ここに、呼びかけと実態のずれがあると考えています。「見に行くな」は、聞いた人が「自分は見に行かないから大丈夫」と思って終われる呼びかけです。ところが実際に必要なのは、今日は帰るのをやめる、迎えに行かないという、予定のほうを壊す判断です。こちらは誰にとっても面倒で、だから後回しになります。
牛山素行・静岡大学教授は「避難のために移動するとしても、その距離はなるべく短くした方がいいのかもしれません」と書いています。移動そのものが危険という前提で、逃げ方を組み立てるということです。
この節は筆者の意見です。数値は下の出典に基づいています。
この住所は浸水しやすい場所ですか?
住所を入れると、ハザードマップの指定(浸水・土砂・津波)と地盤の強さをまとめて表示します。無料です。
2026年5月29日から、防災気象情報の名前が変わりました
2026年5月29日、気象庁と国土交通省水管理・国土保全局が新しい防災気象情報の運用を始めました。情報の名前そのものに警戒レベルの数字が入り、レベル4相当の情報として「危険警報」が新設されています。
| 警戒レベル | 大雨 | 土砂災害 | 河川氾濫 | 高潮 | とるべき行動 |
|---|---|---|---|---|---|
| 5相当 | レベル5大雨特別警報 | レベル5土砂災害特別警報 | レベル5氾濫特別警報 | レベル5高潮特別警報 | 命の危険。直ちに安全確保 |
| 4相当 | レベル4大雨危険警報 | レベル4土砂災害危険警報 | レベル4氾濫危険警報 | レベル4高潮危険警報 | 危険な場所から全員避難 |
| 3相当 | レベル3大雨警報 | レベル3土砂災害警報 | レベル3氾濫警報 | レベル3高潮警報 | 避難に時間がかかる人は早めに避難 |
| 2 | レベル2大雨注意報 | レベル2土砂災害注意報 | レベル2氾濫注意報 | レベル2高潮注意報 | 避難行動を確認 |
| 1 | 早期注意情報 | 早期注意情報 | 早期注意情報 | 早期注意情報 | 心構えを高める |
読み替えの要点は3つです。
- これまでの「大雨警報」は「レベル3大雨警報」になった
- これまでの「土砂災害警戒情報」は「レベル4土砂災害危険警報」になった
- レベル5に「氾濫特別警報」が新しく加わった
読者
レベル4が出たら、市から避難指示も出るということですか?
別のものです。レベル3〜5は「警戒レベル相当情報」で、避難指示を出すのは市町村です。避難指示が出ていなくても、レベル4相当が出たら自分で判断してくださいと気象庁は書いています。
「危険警報」そのものの中身——発表される回数、旧名との対応表、学校が休みになる線引きは「危険警報」って何?に分けて書きました。避難指示と避難勧告の関係は避難勧告っていつ出るの?に、警報が出たとき仕事や学校がどうなるかは大雨警報が出たら仕事は休みになる?にまとめています。
避難所へ向かうこと自体が危険になったら
ここがこの記事でいちばん伝えたいところです。気象庁は特設ページで、こう書いています。
避難にあたっては、あらかじめ指定された避難場所へ向かうことにこだわらず、川や崖から少しでも離れた、近くの頑丈な建物の上層階に避難するなど、自らの判断でその時点で最善の安全確保行動をとることが重要です。
指定避難所は、行けるうちに行く場所です。道路が冠水してから向かうと、②で見た通り、車は水深60cmで止まってドアが開かなくなります。徒歩でも70cmで歩けません。
そのときに選ぶのは、次のような場所です。
- 川と崖から少しでも離れた建物
- 鉄筋コンクリートなど、流されにくい頑丈な建物
- その建物の、できるだけ上の階
ただし「2階へ上がれば安心」ではありません。想定浸水深が3mを超える場所では2階の天井まで水が来ます。自宅の想定浸水深と階数の見方は夜7時30分、千葉に大雨特別警報に書きました。
今日のうちにやっておく3つのこと
雨が降り始めてからでは、どれも調べられません。晴れている日にやります。
- ハザードマップポータルの「重ねるハザードマップ」で、道路防災情報から「道路冠水想定箇所」を表示する。通勤路にアンダーパスがあるかを見る
- 自宅の想定浸水深を調べて、自分の寝ている部屋の高さと見比べる
- 「川と崖から離れた、近くの頑丈な建物の上層階」を1か所決めて、家族に伝える
3つめが、この記事でいちばん実行してほしいことです。指定避難所の名前ならたいていの人が言えます。ですが、「そこへ行けないときの2番目」を決めている家はほとんどありません。気象庁が「こだわらず」と書いたのは、そこを決めておいてほしいという意味です。
出典
- 気象庁「新たな防災気象情報について(令和8年~)」(2026年5月29日運用開始)。引用した避難行動の記述も同ページより
- 国土交通省水管理・国土保全局/気象庁「新たな防災気象情報の運用について」(2025年12月16日報道発表)、説明資料「防災気象情報の改善について」(2026年4月更新)
- 国土交通省「道路の冠水対策」(アンダーパス約3,700か所・2025年3月末時点)
- 国土交通省「地下空間における浸水対策ガイドライン 同解説」本編・技術資料(歩行限界水深70cm、階段の限界水深30cm、踏面20cmで歩行速度33%、1999年の新宿区・福岡の事例、参考5-4「浸水時のエレベーター使用は危険です」)
- JAFユーザーテスト「冠水路走行テスト」(2010年4月8日実施)、「水深何cmまでドアは開くのか?」(2014年6月3日実施)
- 牛山素行「洪水・土砂災害で犠牲者はどのように生じているのか」Yahoo!ニュース エキスパート(2020年7月7日)。1999〜2018年の風水害による死者・行方不明者1,259人の調査
- 自然災害科学 40巻1号「2019年台風19号による人的被害の特徴」(2021年)。犠牲者88人のうち58%が屋外、その54%が自動車で移動中
- 千葉県の死者13人・浸水想定区域内9人は当サイトの既報(読売新聞オンライン2026年8月21日配信および内閣府資料による)
この記事は2026年8月27日時点の公表資料で書いています。防災気象情報の名称と発表基準は今後変わることがあります。


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