川崎市は、市内で床上・床下浸水が起きた記録を10年分まとめて公表しています。過去10年の合計は2,974棟。ただしこの数字を「川崎は10年で3,000棟沈む街」と読むと外します。2,974棟のうち2,706棟、9割は2019年(令和元年度)の1年に集中しています。
そして2019年を除いた9年の268棟のうち、156棟が令和7年度に出ています。2025年9月11日、中原区役所の1時間雨量は131.5ミリ。市の観測史上いちばん強い雨でした。中原区下新城で50年近く営業している不動産会社の社員は、地元紙にこう話しています。
50年近く営業しているが、これほど道が冠水したのは初めて
市の「浸水実績図」を開いても、出てくるのは地図の上の丸印だけです。どの町に何件だったかは書かれていません。この記事は、その丸印の元になっている市の資料を1行ずつ数えて、床上まで水が来た町の名前を並べます。
この記事でわかること
- ✓ 沈まない年のほうが多い。平成30年度は市全体で2棟、令和3年度と令和5年度は0棟
- ✓ 床上は中原区1,015棟に対して麻生区3棟。同じ市内で338倍
- ✓ 2025年9月11日に床上まで来たのは4区49町丁・130件。最多は高津区久末の16件
川崎市の浸水履歴は、区によって338倍ちがう
数えたのは川崎市危機管理本部の「川崎市の災害概要」の資料〔2〕、過去10年間の住家浸水被害発生状況です。平成28年度から令和7年度までの10年を、区ごと・床上/床下ごとに1枚の表にしたものが公表されています。合計するとこうなります。
| 区 | 床上 | 床下 | 計 |
|---|---|---|---|
| 中原区 | 1,015 | 174 | 1,189 |
| 高津区 | 1,009 | 191 | 1,200 |
| 多摩区 | 246 | 139 | 385 |
| 川崎区 | 99 | 64 | 163 |
| 幸区 | 9 | 8 | 17 |
| 宮前区 | 5 | 11 | 16 |
| 麻生区 | 3 | 1 | 4 |
| 合計 | 2,386 | 588 | 2,974 |

床上浸水だけを見ると、中原区1,015棟に対して麻生区3棟。同じ市の中で338倍です。中原区と高津区の2区で、市全体の床上の85%を占めます。
ただし年度別に並べ直すと、この街の水害の顔つきは変わります。10年の内訳は、平成28年度55棟・平成29年度49棟・平成30年度2棟・令和元年度2,706棟・令和2年度2棟・令和3年度0棟・令和4年度2棟・令和5年度0棟・令和6年度2棟・令和7年度156棟です。

読者
2019年って、武蔵小杉のタワーマンションが停電したときですよね。あれで9割なんですか。
令和元年東日本台風(台風19号)の年度です。市の表の注記に「令和元年度については、発行済の罹災証明書をもとに集計したため、罹災証明書の件数単位」と書いてあります。この年だけ数え方も違います。
毎年少しずつ沈む街ではなく、何もない年が続いたあとに1回で数千棟が沈む街、という並び方です。平成30年度・令和3年度・令和5年度の3年は、市全体で2棟・0棟・0棟でした。浸水履歴を「直近数年で被害が出ていないか」で見ると、いちばん大きい年をまたいで見落とします。
住まいのリスクに対する備え
土地の履歴やリスクを知ったら、次は「起きたときにどうするか」です。最低限そろえておくと動けるものを挙げます。
一から集めると抜けが出ます。まずセットで用意して、家族の人数分と常備薬だけ足すのが早いです。
断水で最初に困るのがトイレです。備蓄で見落とされやすい一方、代用が効きません。
停電時は懐中電灯より、部屋全体を照らせるランタンの方が使えます。電池でも充電でも点くものだと、どちらが尽きても止まりません。
鍵につけて持ち歩けるサイズ。停電や夜道、内見での床下確認にも使えます。備えは「持ち歩けるかどうか」で使用率が変わります。
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2025年9月11日、床上まで水が来た49の町丁
令和7年度に市が記録した住家の浸水は、7月10日の集中豪雨で床上12件・床下1件、9月4〜5日の大雨で床上1件、そして9月11日の集中豪雨で床上130件・床下57件です。市の「令和7年度 川崎市の災害概要」本編には、この9月11日に被害を受けた町丁が件数つきで載っています。区ごとの内訳はこうです。
| 区 | 町丁の数 | 床上浸水 |
|---|---|---|
| 中原区 | 29 | 80件 |
| 高津区 | 17 | 47件 |
| 宮前区 | 2 | 2件 |
| 川崎区 | 1 | 1件 |
| 合計 | 49 | 130件 |
件数の多い順に名前を出します。
- 高津区 久末 16件(この日いちばん多い町)
- 中原区 下小田中5丁目 13件
- 中原区 下新城3丁目 11件
- 中原区 中丸子 8件
- 高津区 明津 6件
- 中原区 今井上町 5件/今井南町 5件
- 中原区 井田杉山町 4件/下小田中6丁目 4件
- 高津区 新作6丁目 3件/東野川1丁目 3件、中原区 下新城2丁目 3件
ここから下は2件・1件が並びます。中原区は井田中ノ町・今井仲町・上小田中1丁目・上小田中2丁目・上新城1丁目・上新城2丁目・上丸子山王町2丁目・上丸子八幡町・上丸子天神町・北谷町・木月3丁目・木月伊勢町・小杉御殿町2丁目・小杉町1丁目・下新城1丁目・下沼部・新城4丁目・新城5丁目・新城中町・新丸子町・丸子通1丁目。高津区は梶ヶ谷2丁目・坂戸3丁目・子母口・新作2丁目・新作5丁目・末長1丁目・末長3丁目・末長4丁目・千年・千年新町・久本1丁目・二子3丁目・溝口4丁目。宮前区は野川本町2丁目と馬絹5丁目、川崎区は京町1丁目です。
ここで、2か月前の7月10日に戻ります。あの日に床上まで来たのは中原区の今井南町11件と丸子通1丁目1件でした。どちらも9月11日の一覧にまた名前が出ています(今井南町5件、丸子通1丁目2件)。同じ年度に2回、床上まで水が入った町です。
床下浸水57件・一部破損5件・非住家89件は、この130件とは別に数えられています。半壊は5件で、中原区下新城2丁目1件、高津区子母口1件、宮前区南野川3丁目3件でした。
読者
さっきの表では令和7年度の床上は99棟でした。130件と、どっちが正しいんですか。
どちらも市の数字で、単位が違うだけです。本編には「物的被害の件数については、『棟数』ではなく『件数』で計上」と注記があります。集合住宅なら建物は1棟でも、水が入った住戸ごとに件で数えます。
この町名は「浸水実績図」の地図からは読み取れません。市の説明では、実績図の丸印はこの災害概要の被害状況を基に置かれていて、位置も「おおむねの位置」です。町名と件数まで見たい人は、地図ではなく災害概要のPDFを開くことになります。
1時間131.5ミリは、川崎の下水道が想定している58ミリの2.3倍
川崎市上下水道局は、浸水の危険が高い地区の整備水準をこう書いています。
整備水準を既定計画の5年確率降雨(時間雨量52mm)から、10年確率降雨(時間雨量58mm)にグレードアップした施設整備を進めるとともに、国の「下水道浸水被害軽減総合事業」の要件を満たす地区では、既往最大降雨(時間雨量92mm)においても床上浸水とならない対策を進めています
2025年9月11日に中原区役所で観測されたのは、1時間で131.5ミリです。整備水準58ミリの2.3倍、いちばん強い地区の目標である92ミリの1.4倍。市が同じページで「想定し得る最大規模の降雨(時間雨量153mm)」として浸水想定区域図に置いている値の86%にあたります。
この日の市の記録を時刻で追うと、雨の来かたが分かります。13時39分に大雨注意報、13時53分に洪水警報と大雨警報(浸水害)。記録的短時間大雨情報は、14時30分の宮前区付近から15時20分の中原区付近まで、50分のあいだに3回出ています(あいだに15時00分の高津区付近)。雨の中心が西から東へずれながら、それぞれの区で100ミリを記録した形です。
さらに同じ令和7年度、川崎市は7月10日にも1時間105.0ミリを中原区役所で観測しています。100ミリ超えが1年度に2回。市の資料〔5〕で1時間20ミリ以上を観測した日数を見ると、令和7年度は10日で、この10年でいちばん少ない年でした。ところが1時間50ミリ以上の日数は4日で、平成28年度と並ぶ10年の最多です。
読者
それは市の対策が遅れているということですか。
私はそうは読みません。設計の外側の雨が同じ年度に2回来た、という話です。ただし「設計の外側なら仕方ない」で終わらせると、家を買う側は何も守れません。
私は、この数字は行政の評価ではなく、住む側の判断材料として使うべきだと考えています。市が浸水対策の重点化地区に挙げているのは三沢川・土橋・京町渡田・川崎駅東口周辺・大島・観音川の6地区で、2019年に浸水した中原区・高津区・多摩区の排水樋管周辺(山王・宮内・諏訪・二子・宇奈根)はまた別の枠組みで対策が進んでいます。そのどちらの枠にも入っていない町で床上まで水が来たのが、2025年9月11日でした。
通行止めになった道は、国が名前を出していた場所だった
同じ日、川崎市は道路冠水による通行規制を8か所で実施しています。区ごとの内訳は川崎区2か所・中原区3か所・高津区3か所。地元紙が名前を挙げたのは川崎区鋼管通、中原区小杉町、高津区末長のアンダーパスです。
この3か所は、国土交通省関東地方整備局が公表している「道路冠水注意箇所マップ」に、川崎市の12か所として最初から載っていました。鋼管通はNo.96とNo.97(鋼管通5丁目・JR貨物線高架下)、小杉町はNo.101(小杉町3丁目269番地・JR南武線ガード下)、末長はNo.103(末長1429番地・第3京浜およびJR南武線ガード下)です。
読者
じゃあ、国のリストを見てその道を避けていれば大丈夫だった、ということですか。
道はそうです。ただ、同じ日に床上浸水が130件記録されています。あのリストはくぐる道の名簿で、家が沈む場所は1件も書いていません。
読み違えの起きやすいところなので、隣の市と比べておきます。さいたま市では道路冠水が35件あったのに、国の冠水注意箇所は市内に1か所しかありませんでした。あちらはリストが実態から外れていた例です。川崎はその逆で、名前の分かった3か所はいずれもリストに載っていました。それでも家の浸水は防げていません。道路の名簿と、家の浸水履歴は、別々に見る必要があります。
川崎市域の12か所と、神奈川県内128か所の内訳は別の記事にまとめてあります。
- 横浜 冠水 どこ 国のリストは神奈川128か所で横浜30か所 ところが人口10万の伊勢原市が、156万の川崎市より多い13か所です
- さいたま市で道路冠水35件 国の冠水注意箇所は1か所しかないのに、いちばん沈んだのは見沼区の14件でした
- 冠水した道路に車で入るとどうなる? JAF(ジャフ)の実験で窓を割れたのは、脱出用ハンマーだけでした
自分の家と候補の家の浸水履歴を調べる手順
川崎市の浸水履歴には入口が3つあります。浅いほうから並べます。
1つ目は地図です。市の情報案内地図「ガイドマップかわさき」の浸水実績図で、過去10年の被害箇所が丸印で出ます。市のページに書かれている操作は、防災マップを開いて「表示切替」の「内水浸水想定区域」にチェック→「目標物」をクリック→「目標物検索」の「浸水実績図」にチェック→「検索」の順です。目標物のポイントは一度に50か所しか出ないので、確かめたい場所を地図の中心に置いてから検索します。
2つ目は紙です。上下水道局下水道部下水道計画課、かわさき情報プラザ、各区役所(危機管理担当、道路公園センター)、各図書館で印刷図面版を閲覧できます。
3つ目が、この記事で使った「川崎市の災害概要」です。町名と件数まで載っているのはここだけで、令和7年度分は本編PDFの中にあります。市の表(資料〔2〕)の被害町名の欄は、令和元年度と令和7年度が「注」で本編参照に飛ばされていて、代表の町名すら出ていません。私は、被害がいちばん大きかった2年ぶんの町名が、いちばん見つけにくい場所に置かれていると考えています。
内水ハザードマップについて、市自身が「水防法に基づかないハザードマップになります」と書いています。宅地建物取引業法で重要事項として説明が義務づけられているのは水防法施行規則にもとづく図面のほうで、内水のマップについて市は業者に「情報提供をお願いいたします」と呼びかける立場です。2019年に武蔵小杉を沈めたのも、2025年に中原区と高津区で床上まで来たのも、その義務の外側にある降り方でした。
浸水履歴を調べる目的が「この町を買っていいか」なら、値段も並べたほうが早く決まります。川崎市の7区は住宅地の標高の中央値が川崎区1.4メートルから麻生区68.0メートルまで一列に並ぶ市で、標高も相場も区ごとにはっきり差が出ます。区ごとの比較は川崎市 住むならどこ? 7区は標高1mから68mまで一列に並ぶにまとめてあります。
よくある質問
川崎市で浸水しやすいのはどの区ですか?
過去10年の住家浸水は高津区1,200棟・中原区1,189棟の2区が突出しています。床上だけなら中原区1,015棟が最多で、麻生区は3棟です。ただしこの数字の9割は令和元年東日本台風の1年に出たもので、区の順位はその1回でほぼ決まっています。
武蔵小杉はまた浸水しますか?
将来のことは書けません。事実として並べられるのは、市の表で中原区の被害町名として名前が出ているのが平成29年度の上丸子山王町であること、2025年9月11日に床上浸水として記録されたのは上丸子山王町2丁目1件・小杉町1丁目1件・小杉御殿町2丁目2件で、この日の中原区80件のうち小杉周辺は少数だったことです。同じ日に多かったのは下小田中5丁目13件、下新城3丁目11件、中丸子8件でした。
川崎市の浸水履歴はどこで見られますか?
地図なら「ガイドマップかわさき」の浸水実績図、町名と件数まで見たいなら市危機管理本部の「川崎市の災害概要」です。実績図は過去10年ぶんで、令和7年度は災害概要への記載に先行して地図に表示されています。
浸水履歴は不動産の重要事項説明で教えてもらえますか?
説明が義務づけられているのは、水防法施行規則にもとづく図面における物件の所在地です。川崎市の内水ハザードマップはこれに当たらず、市は宅地建物取引業者に情報提供を「お願い」する立場にとどまります。浸水実績図も義務の対象ではないので、自分で見に行くほうが確実です。
出典
- 川崎市危機管理本部「川崎市の災害概要」資料〔2〕過去10年間の住家浸水被害発生状況/資料〔5〕過去10年間の1時間雨量20mm以上の発生日数(いずれも令和7年度版・2026年8月27日更新) https://www.city.kawasaki.jp/601/page/0000017723.html
- 川崎市危機管理本部「令和7年度 川崎市の災害概要」本編(〔1〕令和7年7月10日の集中豪雨、〔3〕令和7年9月4〜5日の大雨、〔4〕令和7年9月11日の集中豪雨)
- 川崎市「浸水実績図について」(2026年7月3日更新) https://www.city.kawasaki.jp/601/page/0000037242.html
- 川崎市上下水道局「浸水対策事業(重点化地区)」(2026年4月1日更新) https://www.city.kawasaki.jp/800/page/0000127232.html
- 川崎市上下水道局「内水ハザードマップで水害(内水氾濫)のリスクを知ろう」令和8年5月版(2026年5月29日更新) https://www.city.kawasaki.jp/800/page/0000125074.html
- 川崎市上下水道局「排水樋管の水位計、監視カメラ等の情報を公開します」(2020年12月25日) https://www.city.kawasaki.jp/800/page/0000123330.html
- 国土交通省 関東地方整備局「道路冠水注意箇所マップ【神奈川県・川崎市・横浜市・相模原市】」令和8年6月1日作成 https://www.ktr.mlit.go.jp/road/bousai/road_bousai00000001.html
- タウンニュース中原区版「川崎市 記録的大雨、各所で被害 中原区で過去最大131ミリ」2025年9月19日 https://www.townnews.co.jp/0204/2025/09/19/802763.html / 同 川崎区・幸区版 2025年9月19日 https://www.townnews.co.jp/0206/2025/09/19/802798.html
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