🗨️「豊中市がAIを入れたって、市民が相談できるサービスができるの?」
使うのは市民ではなく、放課後こどもクラブや図書館などで働く職員のほうです。約1,000人が私用のスマートフォンから匿名で生成AIと話し、その内容をAIが分析して管理職に届けます。
[AI] この記事の要点
2026年9月1日 発表 (2026年9月3日 更新)
- 豊中市教育委員会の放課後こどもクラブ・公共図書館・学校図書館などで働く職員 約1,000人
- 職員が複数の拠点に分かれていて、全員とは面談できていない自治体・企業の人事担当
- 豊中市に住んでいる人(市民が使う窓口ではないが、子どもの居場所と図書館の運営体制の話ではある)
対象は市民ではなく、放課後こどもクラブと図書館で働く職員
発表されたのは、市役所の窓口に置くAIでも、市民向けのチャット相談でもありません。豊中市教育委員会が、自分たちの職員に配るアプリの話です。まず、公表されている内容を並べます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 実施主体 | 豊中市教育委員会(大阪府豊中市) |
| 使うアプリ | AI対話モバイルアプリ「ココボイス」 |
| 提供元 | 株式会社アイティフォー(東京都千代田区・東証プライム上場) |
| 対象人数 | 約1,000人 |
| 対象の職場 | 放課後こどもクラブ、公共図書館、学校図書館など |
| 使う端末 | 職員の私用スマートフォン(アプリをインストールしてもらう) |
| 先行トライアル | 2026年2月から3月、一部の職場で実施 |
| 発表日 | 2026年9月1日 |
| ねらい | 職員の本音を把握し、組織課題の早期発見や職場環境の改善につなげる |

放課後こどもクラブは、放課後に小学生を預かる場所です。豊中市の場合、ここだけで常勤職員が約300人います。公共図書館と学校図書館を足して、合計で約1,000人規模になります。いずれも市役所の本庁舎ではなく、市内に点在する施設で働く人たちです。
職場の性格も似ています。日本図書館協会が2023年5月に出した意見表明によると、全国の公立図書館で働く職員の76%は、雇用期間などが限られた非正規職員です(『日本の図書館 統計と名簿 2022』2022年4月1日現在。専任9,327人に対し、非常勤14,223人、委託・派遣15,075人)。人の入れ替わりがあり、施設ごとに事情が違う職場だ、ということです。
「ココボイス」とは? 匿名投稿から職場改善までの5段階
名前だけ聞くと社内アンケートの一種に見えますが、間に生成AIが入るところが違います。生成AIとは、質問を打ち込むと文章で返してくる、ChatGPTのようなAIのことです。ココボイスでは、この対話が「聞き取り役」を務めます。
ステップ1 職員
匿名でログインする
組織で共通のコードとパスワードを使う。個人を特定できる情報は集めない仕組みだと提供元は説明している
↓
ステップ2 職員
生成AIと話しながら投稿する
日常業務の気づき・意見・要望・悩みごとを書く。AIが聞き返すことで、書きかけの不満が具体的な話になる
↓
ステップ3 AI
たまった投稿を分析する
1件ずつの投稿ではなく、集まったデータから組織の課題として見えるようにする
↓
ステップ4 管理職
分析レポートを受け取る
ココボイスの提供仕様では月1回。豊中市の発表には「定期的な分析・レポート化」とだけ書かれている
↓
ステップ5 組織
職場の改善につなげる
組織課題の早期発見、職員の心理的負担のケア、エンゲージメント(働く人の意欲)の向上に使う
図:豊中市とアイティフォーの発表、ココボイスのサービス紹介ページから作成
気になるのは3段目より前、つまり「匿名」がどこまで匿名なのかです。この点では、読者の疑いのほうが実態に近い場面があります。Yahoo!知恵袋には、こんな投稿が残っています。
職場で匿名のアンケートがあって馬鹿正直に書いたところ、その内容が問題になって誰が書いたか犯人探しをされ私が書いたということがバレました。これって匿名の意味あるのでしょうか?
結局これと同じことになるんじゃないの?
アイティフォーはサービス紹介ページで、ログインは組織で共通のコードとパスワードで行い、投稿時に個人を特定できる情報を一切収集しない、自社を含めて誰も個人を特定できない仕組みだと書いています。紙やメールで集める社内アンケートとは、そこが設計から違います。それでも、書く側がその説明を信じられるかどうかは別の話で、投稿が集まるかどうかはここで決まります。
AIは答えを出す役ではなく、話を聞き出す役として置かれています。同社の説明では、普段は言いにくい意見や気づきを自然に出せるように調整したAIで、対話を通じてより深い本音や潜在的な課題を引き出す、という位置づけです。
なぜ豊中市はAIを導入した? 定例の面談を受けている職員は「2割にも満たない」
ここが今回の話でいちばん具体的な数字です。豊中市の学び育ち支援課長は、アイティフォーの発表に寄せたコメントで、放課後こどもクラブの面談体制をこう説明しています。
定例的に対面で面談を実施しているのは任期付短時間勤務職員に限られており、その対象は全体の2割にも満たず、実施回数も年2回にとどまっています。また、職員は複数の拠点に分かれて勤務しているため、日々の小さな気づきや悩みをタイムリーに把握することが課題となっていました。
常勤職員 約300人のうち、定例面談の対象は2割未満。残る8割超の職員には、決まった時期に話を聞く場そのものがありませんでした。対象になっている人でも年2回です。半年に1回の面談で、その半年に起きたことを全部話せるかというと、なかなかそうはいきません。

もうひとつが拠点の数です。放課後こどもクラブも図書館も、本庁舎の中にはありません。市内に散らばった施設で、それぞれ別のシフトで働いています。本庁の担当者が一人ずつ回って聞き取るには数が多い、というのはBCN(ビーシーエヌ)の記事でも自治体に共通する事情として書かれていました。
背景として、地方公務員のこころの不調は増え続けています。一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会の調査(令和6年度)では、「精神及び行動の障害」による長期病休者数は10万人あたり2,372.9人で、15年前の約2.1倍。30日以上の長期病休者のうち67.4%を占めます。ただしこの調査は主に首長部局の一般職員が対象で、教員は含まれません。豊中市の今回の対象職員の数字ではない点は、分けて読む必要があります。
紙のアンケートを配るのでは駄目なの?
紙は「配ったとき」しか書けません。ココボイスが狙っているのは、勤務中に感じたことを、その日のうちに手元のスマートフォンから出せる状態です。豊中市の発表でも、期待する効果として「場所や時間を問わず意見や要望を伝えられる環境づくり」が挙げられています。
先行トライアルで寄せられたのは「現場の課題」「ストレス要因」「悩みごと」
2026年2月から3月にかけて、一部の職場で先に使っています。同じコメントの続きです。
2月から実施したトライアルでは、現場の課題や日々のストレス要因、職員の悩みごとなどが匿名で寄せられました。実際に利用した職員からは、AIによる応答や、やり取りの回数が適度に制限されている点を評価する声もあり、ココボイスの有効性を強く実感しています。
評価された点として挙がっているのが「やり取りの回数が適度に制限されている」ことでした。AIと際限なく話し込まされるのではなく、何往復かで終わる。仕事の合間に開くツールとしては、そこが効いたという読み方ができます。
BCNの記事では、従来の対面の1on1では引き出せない本音を収集できたとの手応えがあり、その成果を踏まえて豊中市教育委員会が実証検証の継続を判断した、と書かれています。
AIが職員の本音を集める職場は広がるか 残る3つの確認点
自治体に生成AIが入ること自体は、もう珍しくありません。総務省の「自治体における生成AI導入状況」(令和7年6月30日版)では、導入済みが都道府県87.2%、指定都市90.0%、その他の市区町村29.9%(いずれも令和6年12月31日現在)。ただし使い道の上位は「あいさつ文案の作成」「議事録の要約」「企画書案の作成」「メール文案の作成」で、書類を早く作るための道具として入っています。
今回は向きが逆です。書類ではなく人に向けて、しかも組織の外ではなく内側に向けて置かれています。
なお、アイティフォーは「自治体で初」としていますが、これはAI対話モバイルアプリという形式での初、という意味です。職員の声を組織改善に使う取り組み自体は、リンクアンドモチベーションの「モチベーションクラウド」を札幌市・宮城県・三条市(新潟県)・佐世保市(長崎県)・四條畷市(大阪府)・長野原町(群馬県)が導入するなど、先行する例があります。
私はこの実証を、AIが職場の問題を解決する話ではなく、声を集める入口をAIに置き換えた話だと見ています。集まった声を読んで何を直すかを決めるのは、これまでどおり人です。年2回の面談が月1回のレポートに変わっても、受け取った側が動かなければ職場は同じままです。
そのうえで、続報を待ちたい点が3つあります。
| 確認したい点 | なぜ気になるか |
|---|---|
| 匿名性を職員が信じられるか | 仕組みとして特定できないことと、書く側が安心して書けることは別。小さな拠点では、内容だけで誰の投稿か見当がついてしまう場面がある |
| 私用スマートフォンを使うこと | アプリを入れるのは職員個人の端末。参加が任意なのか、通信料の扱いはどうなるのかは発表に書かれていない |
| レポートの使い道 | 管理職が受け取るAIの分析結果を、職場改善だけに使うのか。人事評価や個人の特定に使わないという線引きが示されるか |
この3つは豊中市に限った話ではなく、同じ種類のツールを入れる組織すべてに出てくる問いです。先に決めておかないと、投稿が集まらないか、集まっても信頼のほうが先に減ります。
まとめ
- 豊中市教育委員会が、AI対話モバイルアプリ「ココボイス」(提供:株式会社アイティフォー)を試験導入。発表は2026年9月1日
- 対象は放課後こどもクラブ、公共図書館、学校図書館などの職員 約1,000人。市民向けのサービスではない
- 職員は私用スマートフォンから匿名でログインし、生成AIと対話しながら気づき・意見・悩みを投稿する。AIが分析してレポート化し、管理職に届く
- 背景は、定例の対面面談の対象が全体の2割未満・年2回にとどまり、職員が複数の拠点に分散していたこと
- 2026年2月から3月の先行トライアルでは、現場の課題やストレス要因、悩みごとが匿名で寄せられた
- 投稿件数・利用率・実証の終了時期・本格導入の判断時期・費用は未公表。発表があり次第、この記事に追記します
生活・仕事にどう効くか
- 対象になる職員:私用のスマートフォンにアプリを入れて、匿名で投稿する。組織で共通のコードとパスワードでログインする方式で、提供元のアイティフォーを含めて個人を特定できない仕組みだと同社は説明している。
- いま面談を受けていない職員:放課後こどもクラブで定例の対面面談を受けているのは任期付短時間勤務職員に限られ、全体の2割に満たない。回数も年2回。残りの8割超には、そもそも定例の面談が無かった。
- 管理職:投稿をAIが分析したレポートを受け取る。ココボイスの提供仕様では月1回。豊中市の発表には「定期的なAI分析・レポート化」とだけ書かれている。
- 市民:市民向けの相談窓口ではないため、窓口や図書館で受けられるサービスが直接変わるわけではない。
結局どうすればよいか
- 豊中市とアイティフォーの発表原文を読み、対象の職場と人数を自分で確かめる(この記事の公式出典から開ける)
- 自分の職場に同じ種類のツールが入るなら、「誰がレポートを見るのか」「人事評価に使わないのか」を配布前に確認する
- 入れる側なら、ログイン方式(個人を特定できるIDを配らない)と、何人分たまったら集計するのかを決めてから配る
あわせて読む・調べる
くわしく知る(保存版の記事)
公式出典
- 豊中市「職員の声をAIで可視化 約1,000人を対象に実証」(2026年9月1日発表)
- 株式会社アイティフォー「【自治体で初】豊中市で職員の本音を集めるモバイルアプリ「ココボイス」を試験導入」(2026年9月1日発表)
- 株式会社アイティフォー ココボイス サービス紹介ページ
- BCN「アイティフォー、豊中市がAI対話モバイルアプリ「ココボイス」を試験導入」(Yahoo!ニュース)(2026年9月1日発表)
- 総務省「自治体における生成AI導入状況(令和7年6月30日版)」
- 一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会「地方公務員健康状況等の現況の概要」(調査対象期間:令和6年4月1日〜令和7年3月31日)
- 日本図書館協会「図書館非正規職員の処遇についてのお願い」(2023年5月31日発表)
- Yahoo!知恵袋(本文で引用した投稿)
更新履歴
- 2026年9月3日 初版を公開
※本記事は2026年9月3日時点で公表されている情報にもとづきます。数値・制度・進路などは今後変わる可能性があるため、最新の内容は各公式発表をご確認ください。

