地主から地代の値上げ通知が届いた人へ。借地借家法11条2項は、話がまとまらないあいだは「相当と認める額」を払えばよいと定めています。通知が来た翌月から言い値を払う義務はありません。
ただし放っておいていい話でもありません。あとで増額が正当だと確定した場合、不足分には年1割の利息がつきます。急いで応じる必要はないけれど、動かずにいると高くつく。この2つを同時に押さえてください。
この記事でわかること
- ✓ 値上げを言える理由が、法律で3つに限られていること
- ✓ 協議中にいくら払えばいいのか
- ✓ 応じなかった場合に、あとでいくら足すことになるのか
- ✓ 土地が下がっている地域では、逆に減額を請求できること
値上げを言える理由は、3つしかありません
まず条文を読みます。借地借家法11条1項です。
地代又は土地の借賃(略)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
理由として挙がっているのは3つだけです。固定資産税などの公課の増減、土地価格の変動その他の経済事情、近傍類似の土地の地代との比較。通知にこのどれも書かれていなければ、まず理由を尋ねるところから始まります。
読者
「近隣が上がっているから」とだけ書かれた通知が来ました。
3つ目にあたる主張ですね。ならば近傍類似の地代がいくらなのか、資料を出してもらってください。
そしてただし書きが効きます。契約書に一定期間は地代を増額しない特約があれば、その期間中は値上げできません。まず契約書を探すのが先です。
協議が調わないあいだは、いくら払えばいいか
ここが11条2項です。
地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
前半と後半で言っていることが逆向きなので、分けて読みます。

前半は借りている側を守っています。協議がまとまるまで、あるいは裁判が確定するまでは、自分が相当と認める額を払っていれば債務不履行になりません。言われた金額を払わないことが、そのまま契約違反にはならないということです。
後半は逆です。裁判で増額が正当と認められ、それまでに払った額が足りなければ、不足額に年1割の利息をつけて払うことになります。いまの預金金利と比べれば、かなり重い数字です。
読者
では、いくらを「相当と認める額」にすればいいんですか。
法律は金額の決め方を書いていません。従来の額を払い続ける人が多いですが、そのぶん不足が積み上がる可能性は残ります。
地主が受け取りを拒む場合は、支払った記録が残らないと不利になります。法務局への供託という方法があるので、受領を断られた時点で司法書士か弁護士に相談してください。
「固定資産税の3倍」は法律の数字ではありません
地代の相場としてよく見かける「固定資産税の3〜5倍」「路線価の6%」といった数え方があります。これらは慣行や税務上の基準であって、借地借家法の条文ではありません。
11条を最後まで読んでも、地代の計算式は出てきません。書かれているのは「不相当となったとき」に増減を請求できる、という枠組みだけです。だから交渉の場で「法律では固定資産税の3倍と決まっている」と言われたら、それは正確ではありません。
私は、計算式が法律にないこと自体が借りている側にとって不利ではないと考えています。式がないということは、地主の側も「この式だから正しい」と押し切れないということです。条文が挙げている3つの理由に沿って、資料で話す場になります。

土地の値段は、2年で11.7%上がっています
条文が挙げる2つ目の理由、土地価格の変動を実際に確かめます。国土交通省が公開している取引価格情報から、住宅地の更地の取引だけを抜き出して、1㎡あたりの中央値を年ごとに出しました。
| 年 | 件数 | 更地の㎡単価 中央値 |
|---|---|---|
| 2023年 | 49,984件 | 63,192円 |
| 2025年 | 47,673件 | 70,588円 |
全国の中央値で2年のあいだに11.7%上がっています。地主が値上げを言い出す根拠は、少なくとも全国平均では実際にできていることになります。
このエリアの相場はいくらですか?
住所を入れるだけ。全国175,666件の実際の成約(国土交通省)から、土地・戸建て・マンションの坪単価の目安が5秒で出ます。会員登録も電話番号も要りません。
ただし3分の1の市区町村では、土地は下がっています
ここからが大事なところです。全国の中央値は上がっていますが、市区町村ごとに見ると景色が違います。2023年と2025年のどちらにも60件以上の取引がある214市区町村で比べました。
- 上がったのは139市区町村(65.0%)
- 下がったのは75市区町村(35.0%)
上がった側では我孫子市が+55.2%(89,464円→138,889円)、栃木市が+35.5%、東広島市が+35.3%と大きく動いています。いっぽう下がった側では厚木市が-27.2%(125,000円→90,995円)、一宮市が-20.0%、甲府市が-19.1%でした。
読者
下がっている場合はどうなるんですか。
同じ11条の3項で、借りている側から減額を請求できます。地代は上げる方向にだけ動くものではありません。
11条3項は、減額について協議が調わないときは、請求を受けた者は減額を正当とする裁判が確定するまで相当と認める額の支払を請求できる、と定めています。条文は増額と減額を対等に扱っています。土地が2割下がった地域で、地代だけが据え置きのままなら、条文が挙げる「土地の価格の低下により不相当となったとき」に当てはまる可能性があります。
通知が届いたら、この順番で
読者
何から手をつければいいですか。
返事をする前に3つ確かめます。返事は急がなくて大丈夫です。
- 契約書に不増額特約があるか。あれば、その期間は値上げできません。ここで終わることがあります
- 通知に理由が書かれているか。公課の増減、土地価格の変動、近傍類似との比較。どれにあたるのか、根拠の資料をもらいます
- その土地は本当に上がったか。全国では2年で11.7%ですが、35%の市区町村では下がっています。自分の市区町村がどちらかを確かめます
そのうえで納得できなければ、協議中は相当と認める額を払い続けることになります。ただし年1割の利息が待っている以上、払わずに黙って放置するのではなく、いくらをなぜ払うのかを文書で示しておくほうが安全です。
この記事は2026年8月時点の法令で書いています。実際の交渉は契約内容と個別の事情で変わるので、金額の争いになる前に弁護士へ相談してください。
出典
- 借地借家法(平成三年法律第九十号) — 11条(地代等増減請求権)1項・2項・3項(e-Gov法令検索)
- 更地の㎡単価は、国土交通省 不動産情報ライブラリ 不動産取引価格情報のうち、住宅地の「宅地(土地)」で面積50〜400㎡・価格100万円〜5億円のものを、公表された年ごとに集計した中央値です。市区町村別の比較は、2023年・2025年のどちらにも60件以上の取引がある214市区町村に限っています。更地の取引価格であり、個々の借地の土地価格そのものではありません。地代の適否は公課や近傍類似の地代もあわせて判断されます


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