「3日で落ち着いて、3週間で環境に慣れて、3か月で心を開く」。保護犬の記事を何本か開くと、たいていこの並びに行き当たります。
ところが東京都動物愛護相談センターの譲渡ページを最後まで読んでも、日数を書いた行は1つも見つかりません。書いてあるのは「苦手なものは、少しずつ慣らしていく」まで。期間の目安を出しているのは、公的機関ではなく記事のほうです。
代わりに数えられるものは残っています。迎えた人が撮り続けた記録です。7日目に何が起きて、1か月目に何が変わり、40日目に何ができたか。この記事はその3本を並べます。
この記事でわかること
- ✓ 期間の目安を書いた公的機関のページは見つかりません。東京都動物愛護相談センターの譲渡ページに日数の記述はゼロです
- ✓ 米国のシェルターから引き取られた犬99頭を半年追いかけた研究では、人以外のものへの恐怖が出た犬が95.8%、留守番に関する行動が92.6%。ほぼ全頭に出ています
- ✓ 「ペット可」の部屋でも譲渡を受けられないことがあります。東京都が提出を求めるのは「居室内での犬又は猫の飼育を認める旨が明記された管理規約、契約書など」です
「3日・3週間・3か月」を最初に言ったのは誰なのか
この並びには「3-3-3ルール」という名前が付いています。2026年9月9日にGoogleのサジェストを取ると、3-3-3ルール と打った人の次の候補が 3-3-3ルール 犬 でした。名前で検索されるくらいには広まっています。
ただ、日本語で上位に並ぶページをひととおり見ても、この3つの数字の出どころにたどり着けませんでした。書いているのは個人ブログとペットメディアで、一次情報にあたる調査や論文の名前は出てきません。
英語圏には、この並びを正面から否定しているブログもあります。
Many dogs will not follow the timeline of this rule, because there is no evidence that this rule is based on any science or research.
(訳:この法則どおりに進まない犬は多い。この法則が科学や研究にもとづいているという証拠が、どこにも無いからだ)
(引用元は記事末尾に記載。ただし、このページには筆者の資格や肩書きが書かれていません。「そう主張する側もいる」という以上の重みは付けられない、というのが当サイトの扱いです)
読者
じゃあ3-3-3ルールは嘘なんですか?
嘘だとは書けません。当サイトが確認できたのは「裏づけが見つからない」ことと「東京都のページには日数が書かれていない」ことの2つだけです。嘘だと証明したわけではないので、そこは正直に分けて書きます。

7日目、1か月目、40日目 他人の家の記録を3本
日数の目安が公的な資料から出てこないなら、実際に数えた人の記録を見るのがいちばん早い。ここでは3本並べます。3本とも、投稿者が自分の家で撮ったものです。
再生回数は2026年9月9日時点のものです。数字は日々動きます。
7日目 ─ こゆきchannel(こゆきチャンネル)「保護犬が心を開いてくれるまでの1週間の記録」
題名は「心を開いてくれるまでの1週間」で、「1週間で心を開いた」とは書かれていません。7日は、途中経過として切り出された長さです。
この7日という区切りは、後で出てくる追跡研究が最初に飼い主へアンケートを送った日と同じでもあります。328万回再生。
1か月目 ─ ベーコン家のポテとひだり「元野犬が心を開いていく1ヶ月の記録」
元野犬は、人の家で暮らした経験がないまま保護された犬です。同じ日に取ったサジェストには 元野犬 懐かない 元野犬 慣れない 元野犬 脱走 が並んでいました。保護犬のなかでも、時間がかかる側だと思われている層です。
題名は「心を開いていく」と現在進行形で、1か月で完了したとは書いていません。150万回再生。
40日目 ─ 元保護犬の竜之助とアッチャンねる「保護犬「40日目」初めて抱っこされた日」
3本のなかで、いちばん具体的な題名です。日数(40日目)と、その日にできたこと(初めて抱っこされた日)が、そのまま出ています。
そして40日目は、3週間でも3か月でもない、40日目です。3-3-3ルールが置いた21日と90日のちょうど間に落ちています。570万回再生。
| 置かれている区切り | |
|---|---|
| 3-3-3ルール | 3日 / 21日 / 90日 |
| 追跡研究の測定点 | 7日 / 30日 / 90日 / 180日 |
| 今回の3本の記録 | 7日 / 約30日 / 40日 |
3つの記録が置いた区切りは、7日・約1か月・40日。3-3-3ルールの21日と90日には、どれも重なっていません。
来たばかりの犬に、先に用意しておくもの
最初の数日にいちばん効くのは、なでる時間ではなく「人から離れていられる場所」です。距離を詰める道具より先に、離れられる場所を作ります。
来たばかりの犬がいちばん要るのは、人から見えない場所です。扉を外して置いておけば普段は寝床になり、通院や避難のときはそのまま運べます。上半分が外れるので、こわがる犬を無理に押し込まずに済みます。
中にフードを詰めて渡すと、犬が自分で時間を使えます。触られるのがまだこわい時期に「人が近くにいるといいことがある」を作る道具として、しつけの本でもよく出てきます。
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99頭を半年追いかけたら、増えた行動が5つあった
日数の話を、いちどデータのほうへ寄せます。2023年に PLOS ONE(プロス・ワン) に載った研究が、この記事でいちばん重い一次情報です。
米国オハイオ州の5つのシェルターから2020年10月1日〜2021年6月1日に引き取られた犬99頭について、飼い主に7日・30日・90日・180日の4回、犬の行動を評価する標準的な質問票へ答えてもらったものです。
まず、どれくらいの犬に出たか。
| 行動 | 出た犬の割合 |
|---|---|
| 人以外のものへの恐怖 | 95.8% |
| 留守番に関する行動 | 92.6% |
| 見知らぬ人への攻撃性 | 81.7% |
| ほかの犬への恐怖 | 80.0% |
| ほかの犬への攻撃性 | 75% |
| 見知らぬ人への恐怖 | 58.2% |
| よく知っている犬への攻撃性 | 37.8% |
| 飼い主への攻撃性 | 32.3% |
「うちの子だけ懐かないのでは」という問いへの答えは、この表の上2行にあります。ほぼ全頭に出ています。
そして、この研究でいちばん効いてくるのは180日のあいだの変化のほうです。
| 半年で減った | 半年で増えた |
|---|---|
| 留守番に関する行動 | 見知らぬ人への攻撃性 |
| 飼い主への執着 | 興奮しやすさ |
| かまってほしがる行動 | 触られることへの過敏さ |
| しつけの難しさ | |
| 追いかける行動 |
増えた行動が5つあります。時間が経てば全部が落ち着いていく、という形にはなっていません。
半年のあいだに、減った行動と増えた行動の両方がありました。
読者
増えた行動があるなら、時間が経つほど悪くなるということですか?
その読み方はしていません。同じ研究の抄録は、迎えた直後の犬は良い面も悪い面も全部を見せていない、という広く言われている見方に触れたうえで測っています。飼い主の評価そのものは高い満足度だったとも書かれています。私は、増えた5つは犬が悪くなったのではなく、隠れていたものが出てくる時期がずれているだけだと考えています。
この研究は米国オハイオ州の99頭を追いかけたものです。日本の保護犬に同じ割合が出るとは限りません。また「180日で飼い主の100%が順応したと答えた」という記述が日本語のまとめに出回っていますが、当サイトは論文の抄録でその数字を確認できなかったため、この記事では使っていません。

「懐かない」の次に多く打たれている言葉
同じ日に 保護犬 懐 まで打ってサジェストを取ると、最初に返ってくるのは 保護犬 懐かない です。保護犬 懐くまで はその次でした。
そして 保護犬 後悔 と打つと、次の候補が 保護犬 後悔 知恵袋 になります。迎えた人が、後悔という言葉で検索しています。
創作していない人の言葉として、もうひとつ。note(ノート) に、元野犬を迎えた最初の1週間を書いた記事があります(2026年6月26日公開)。初日の記述です。
初日は全く食べてくれませんでした。
ハアハアと常に息が荒かったのです。
寂しそうにクンクンと鼻を鳴らしたりしていて
そしてその夜、書き手が思ったことが、そのまま残っています。
「本当に我が家で大丈夫だったのかな」
検索窓に 保護犬 懐かない と打つ人が知りたいのは、平均日数ではなく、この夜のことだと私は考えています。

「ペット可」と書いてあっても、譲渡を受けられないことがある
ここから住まいの話です。東京都動物愛護相談センターから犬猫の譲渡を受けるには、講習会に持っていく書類が決まっています。集合住宅・賃貸住宅に住んでいる人が求められるのは、これです。
集合住宅又は賃貸住宅にお住まいの方は、居室内での犬又は猫の飼育を認める旨が明記された管理規約、契約書など
読むべき場所は2つあります。「居室内での犬又は猫の飼育を認める旨が明記された」という条件と、提出するものが「管理規約、契約書など」だという点です。
募集ページやチラシの「ペット可」は、物件の売り文句です。窓口に出すのは広告ではなく、規約か契約書のほう。その書面に、その一行が入っているかどうかが問われます。
広告の「ペット可」は、譲渡の窓口に出す書類にはなりません。
読者
募集ページに「ペット可」と出ていたので、大丈夫だと思っていました。
確かめる場所は、賃貸なら賃貸借契約書、分譲マンションなら管理規約と使用細則です。手元にその書面が無ければ、管理会社か管理組合に写しを頼むところから始めてください。譲渡の講習会には、その写しを持っていくことになります。
管理規約の一行が結論をひっくり返すのは、犬の話にかぎりません。分譲マンションでは、修繕積立金の値上げに必要な賛成数まで規約の書き方で変わります(「決まってしまうと拒否はできないのでしょうか」——修繕積立金の値上げ、答えは規約の1行で変わります)。
いまの部屋の書面に飼育を認める記載が無いなら、迎える前に引っ越しを考えることになります。
日数より先に、年齢で決まってしまう自治体がある
譲渡の条件は日数の話より手前にあります。東京都が挙げている8つの条件のうち、1つ目がこれです。
- 都内にお住まいの20歳以上60歳以下の方
- 現在、犬や猫を飼育していない
- 家族の中に動物に対するアレルギーを持つ者がいない
- 家族全員が動物を飼うことに同意している
- 最期まで責任を持って飼い続けることができる
- 経済的、時間的に余裕がある
- 動物に不妊去勢手術による繁殖制限措置を確実に実施できる
- 集合住宅・賃貸住宅の場合は、規約等で動物の飼育が許されている
2つ目にも目を止めてください。すでに犬か猫を飼っている家庭は、東京都では対象から外れます。
隣の神奈川県は、年齢の線が別のところに引かれています。県の動物愛護センターは、原則65歳以下を譲渡の対象とし、60歳以上にはシニアの犬猫を譲渡すると書いています。65歳を超える人でも、おおむね10才以上の小型犬やおおむね10歳以上の猫なら譲渡できる場合がある、という但し書きも付いています。
| 年齢の条件 | |
|---|---|
| 東京都動物愛護相談センター | 20歳以上60歳以下 |
| 神奈川県動物愛護センター | 原則65歳以下(60歳以上はシニアの犬猫。65歳超でも条件により可の場合あり) |
東京都は60歳、神奈川県は65歳。隣り合う都県で5歳ちがいます。多摩川をはさんで住む場所が変わるだけで、62歳の人の可否が入れ替わる、ということです。
当サイトが原文を開いて確認したのは、東京都と神奈川県の2つだけです。ほかの自治体にも年齢や世帯の条件がありますが、内容は自治体ごとに違います。必ずご自分の自治体のページで確かめてください。
1年で17,399頭。新しい家に行けた犬と、行けなかった犬
環境省が集計している令和6年度(2024年4月1日〜2025年3月31日)の数字です。
| 頭数 | |
|---|---|
| 自治体が引き取った犬 | 17,399 |
| 飼い主に返還された犬 | 6,630 |
| 新しい家庭へ譲渡された犬 | 8,797 |
| 殺処分された犬 | 1,964 |
引き取られた犬のうち、返還と譲渡で家に行けたのは15,427頭で、全体の88.7%になります。譲渡だけを見ると50.6%。半分ちょうどのあたりです。
残る1,964頭を365日で割ると、1日あたり5頭を超えます。
同じ表で猫と並べると、犬の性格が数字に出ます。飼い主のもとへ返還された犬が6,630頭なのに対し、猫は225頭。犬は探されて戻る動物で、猫は戻らない、という差がそのまま出ています。
冒頭の「3日で落ち着いて、3週間で環境に慣れて、3か月で心を開く」に戻ります。この並びが間違いだと証明できたわけではありません。当サイトが言えるのは、出どころが確認できないこと、公的機関は日数を書いていないこと、そして今回の3本の記録がその並びのどこにも入りませんでした、ということだけです。
7日でまだ途中の犬がいて、1か月で「開いていく」途中の犬がいて、40日目に初めて抱っこされた犬がいた。日数を数えたのは、記事でも自治体でもなく、その家の人でした。
数えたところで、次の日に何が起きるかは分からないままです。それでも、40日目に何が起きたかを知っている人がこの世に一人はいる、というのが記録が残っている意味だと思います。

よくある質問
保護犬が懐くまで、どれくらいかかりますか?
1つの日数では答えられません。当サイトが探した範囲では、期間の目安を書いている公的機関のページが見つかりませんでした。実際の記録では、7日で「まだ途中」、1か月で「開いていく途中」、40日目で「初めて抱っこ」でした。米国の追跡研究は7日・30日・90日・180日の4点で測っています。
3-3-3ルールは本当ですか?
3日・3週間・3か月という並びの出どころは確認できませんでした。東京都動物愛護相談センターの譲渡ページには、日数の記述が1つもありません。英語圏には「科学や研究に基づく証拠がない」と書いているブログもありますが、そのページに筆者の資格は明記されていません。当サイトとしては、否定も肯定もできない、という扱いです。
保護犬が懐かないのは、飼い方が悪いからですか?
米国のシェルターから引き取られた犬99頭の追跡では、人以外のものへの恐怖が95.8%、留守番に関する行動が92.6%の犬に出ています。ほぼ全頭です。うちの子だけに起きていることではありません。ただし、これはオハイオ州の99頭の数字で、日本で同じ割合になるかは分かりません。
ペット可の賃貸なら保護犬を迎えられますか?
物件の広告に「ペット可」とあるだけでは足りない場合があります。東京都動物愛護相談センターが提出を求めているのは「居室内での犬又は猫の飼育を認める旨が明記された管理規約、契約書など」です。確かめる場所は募集ページではなく、賃貸借契約書か管理規約になります。
元野犬は、ほかの保護犬より懐きにくいですか?
比べたデータを当サイトは持っていません。分かっているのは、検索されている言葉のほうです。元野犬 と打つと 元野犬 懐かない 元野犬 慣れない 元野犬 脱走 が候補に並びます(2026年9月9日実測)。この記事で1か月の記録として挙げた動画も、元野犬のものです。
出典 この記事の数字の出どころ
- 犬の引取り・返還・譲渡・殺処分の頭数:環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容状況」令和6年度(統計ページ)。対象期間の原文表記は「令和6年4月1日~令和7年3月31日(2024年4月1日~2025年3月31日)」。88.7%・50.6%・1日あたりの頭数は、この表の値から当サイトが計算したものです
- 譲渡の条件と必要書類:東京都動物愛護相談センター。条件8項目と「居室内での犬又は猫の飼育を認める旨が明記された管理規約、契約書など」は同ページの原文です。「苦手なものは、少しずつ慣らしていく」は同センターの保護犬を迎える方へのページの記述で、同ページに期間の記述はありません(2026年9月9日に確認)
- 年齢の条件:神奈川県動物愛護センター よくある質問 Q34「犬や猫の譲り受けの際に年齢制限はありますか」の原文
- 引き取られた犬99頭の追跡:Bohland KR, Lilly ML, Herron ME, Arruda AG, O’Quin JM (2023). “Shelter dog behavior after adoption: Using the C-BARQ to track dog behavior changes through the first six months after adoption.” PLOS One. DOI: 10.1371/journal.pone.0289356。割合と、180日で増えた・減った行動は抄録の記述です。日本語のまとめに見られる「180日時点で飼い主の100%が順応したと回答」は抄録で確認できなかったため、この記事では扱っていません
- 初日の記述:note「元野犬の保護犬を家族に。お迎え準備とご飯を食べなかった初日からの1週間」(保護犬を広めたい愛知県民/2026年6月26日公開)記事ページ。引用はいずれも原文の一部で、2026年9月9日に本文を再確認しています
- 3-3-3ルールへの批判:Debunking the 3-3-3 Rule。引用は原文です。ページ内に筆者の資格・肩書きの記載はありません
- 動画3本:こゆきchannel「保護犬が心を開いてくれるまでの1週間の記録」、ベーコン家のポテとひだり「元野犬が心を開いていく1ヶ月の記録」、元保護犬の竜之助とアッチャンねる「保護犬「40日目」初めて抱っこされた日」。再生回数は2026年9月9日時点
- 検索サジェスト:2026年9月9日にGoogleのサジェストを当サイトで取得したもの
- この記事は統計と公表資料の説明であり、個別の犬の診断や治療の助言ではありません。噛みつき・自傷・食べない状態が続くときは、かかりつけの獣医師か、行動診療を扱う動物病院にご相談ください
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