転校して教科書が変わっても、家が払う教科書代は0円です。公立小学校の教科書は国がまとめて買っていて、1人あたり年4,443円ぶんが配られます。
ただし、配られるのは条件を2つとも満たしたときだけです。学年の途中で転校した子について、法律は「給与しないものとする」と書いています。もらえるほうが例外です。
この記事でわかること
- ✓ 教科書は無償で配られる。ただし条件は「二月末日までに転校」と「前と違う教科書」の2つで、3月に動くと配られない
- ✓ 変わるかどうかは採択地区で決まる。全国581地区のうち267(46.0%)は1市区町村だけ。神戸市は市全体で1地区
- ✓ 転校で二重に払うのは教科書ではなく教材費。公立小の図書・学用品・実習材料費等は年26,860円で、教科書代の6.0倍
「教科書は買い直し」と書いた質問に、5人の誰も答えなかった
2023年10月、知恵袋にこんな相談が出ています。翌月に転校する小学生の親です。担任から電話が来て、後期分のテスト代と、図工で使う版画の材料費を払ってほしいと言われた。もう頼んでしまったので、と。
相談文の最後に、こう書いてあります。
教科書が違ったら転校先でも購入しないといけないのに、使わないかもしれないものを購入するのはと思ってしまいました。
回答は5件つきました。「まだ手を付けていない版画は返品できるはずです。」「注文している業者を教えてもらい、直接キャンセル出来るか問い合わせてみてはいかがでしょうか。」「発注は夏休み中にしてしまってるので、払ってください。」
返品できるか、払うべきか。5人とも版画とテスト代の話をしています。5人目はこう締めました。
転学する際に諸々の費用が二重に掛かるのはよくあることです
この人が心配している「教科書の買い直し」は、最初から起きません。それを訂正した回答が1件も無いまま、話が版画の返品交渉で終わっています。
読者
教科書って、転校先のぶんは自分で買うんじゃないんですか。
買いません。国が買って配ります。ただ「必ずもらえる」わけでもないので、そこだけ先に確かめておきます。
法律の原則は「配らない」。配るほうが例外だった
出発点は1962年の法律です。義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律は、第1条がこれだけです。
義務教育諸学校の教科用図書は、無償とする。
ところが、実際に配る手順を決めた翌年の法律(義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律)を読むと、転校生だけ別の扱いになっています。第5条第2項です。
学年の中途において転学した児童又は生徒については、その転学後において使用する教科用図書は、前項の規定にかかわらず、文部科学省令で定める場合を除き、給与しないものとする。
読み違えないでほしいのですが、これは「転校生は自腹で買え」という意味ではありません。配るか配らないかを、学年の途中では省令で絞る、という書き方です。そして絞り方を書いたのが施行規則の第1条です。

配られる条件は2つ。3月に転校すると配られない
施行規則第1条は、給与する場合をこう定めています。
二月末日までの間に転学した児童又は生徒について、種目(中略)ごとに転学後において使用する教科用図書が転学前に給与を受けた教科用図書と異なる場合とする。
条件は2つです。二月末日までに転校していることと、転校後の教科書が転校前と違うこと。片方でも欠けると配られません。
文部科学省の説明はもっと短く、条件を1つしか書いていません。「学年の中途で転学した児童生徒については、転学後において使用する教科書が転学前と異なる場合に新たに教科書が給与されます。」教科書が違えば配る、とだけ読めます。日付のほうは省令を開かないと出てきません。
3月に転校しても、4月からの新しい学年の教科書は新しい学校で普通に配られます。配られないのは、残り数週間しかない今の学年ぶんです。
読者
3月に引っ越すと損をするということですか。
金額でいえば数千円の話です。ただ、教科書が手元に無いまま最後の授業に出ることになるので、前の学校の教科書を捨てずに持っていく、という判断につながります。
教科書が変わるかは、住所ではなく「採択地区」で決まる
同じ質問は2006年にも出ていて、そこでは「同じ市内で引越しを考えているので、市内なら変わらないのでしょうか?」と聞かれています。回答の1つがこうでした。
同じ市内なら同じはずです。教育事務所管轄で統一されています。
結論は当たっていますが、理由が違います。決めているのは教育事務所ではなく、都道府県の教育委員会が設定する採択地区です。文部科学省の説明では「採択地区は、令和6年6月現在全国で581地区あり、1地区は平均して約3市町村で構成されています。」となっています。
この581地区の中身を、47都道府県ぶん全部ほどいてみました。構成市町村を数え直すと1,741になり、全国の市区町村数とぴたり合います。

581地区のうち、1つの市区町村だけでできている地区が267あります。46.0%です。ここに住んでいる家は、市境を1本またいだ時点で必ず別の地区に入ります。逆に北海道は179市町村を22地区で束ねているので、1地区あたり8.1市町村。隣町へ移っても同じ教科書に当たる確率がずっと高くなります。
そして「同じ市内なら同じ」には例外が1つだけあります。政令指定都市について、法律は「指定都市の区若しくは総合区の区域又はこれらの区域を併せた地域に、採択地区を設定しなければならない。」と書いていて、区の単位で分けることを認めています。実際に分けているのは、全国で大阪市だけでした。4地区・24区に分かれています。
神戸市の中なら変わらない。市を出れば、行き先がどこでも変わりうる
兵庫県は20地区・41市町。そのうち13は1市町だけでできた地区です。神戸市・尼崎市・西宮市・芦屋市・伊丹市・宝塚市・三田市・明石市・加古川市・高砂市・稲美町・播磨町・姫路市。
神戸市は市全体で「神戸」という1つの地区なので、神戸市内でどこへ引っ越しても教科書は変わりません。東灘区から西区へ移っても同じです。学区は変わっても、教科書はそのまま使えます。
裏を返すと、神戸市を出た時点で、行き先がどこであっても別の地区になります。西宮でも明石でも三田でも、地区としては別です。
地区が別でも、両方が同じ会社の教科書を選んでいることはあります。「地区が変わる=必ず教科書が変わる」ではありません。ここは地区ごとの採択結果を見ないと確定しません。
教科によって、変わりやすさが違う
「必ず変わる」とは言えない理由は、選べる教科書の数にあります。令和8年度用の小学校の教科書は、全部で54種類しかありません。教科ごとに見ると差が大きい。
地図・音楽・図画工作・家庭は2種類です。全国どこの地区も、2つのうちどちらかを選んでいます。引っ越し先で同じものに当たる確率はかなり高い。いっぽう生活は7種類、算数・理科・保健・英語・道徳は6種類あります。
中学校になるともっと開きます。社会の歴史的分野は9種類で、全教科の中でいちばん多い。2010年の相談に、こんな経験談が寄せられていました。
中学校では、歴史と地理の勉強の順序が違っていたため、2度やった地理は得意になり、抜けてしまった歴史は苦手科目になってしまいましたが・・・。
種類が多い教科ほど、こういうことが起きやすくなります。国語(3種類)で漢字を習う順番がずれるのと、歴史(9種類)で単元ごと抜けるのとでは、家で埋める手間が違います。
読者
引っ越し先を決めるときに、教科書まで調べたほうがいいですか。
物件を選ぶ材料にはしなくていいと思います。決まったあとに、いま使っている教科書の会社名だけ控えておく。それだけで新しい担任に渡す情報がそろいます。
このエリアの相場はいくらですか?
住所を入れるだけ。全国175,666件の実際の成約(国土交通省)から、土地・戸建て・マンションの坪単価の目安が5秒で出ます。会員登録も電話番号も要りません。
二重に払うことになるのは、教科書ではないほう
ここで最初の相談に戻ります。この人が請求されたのは、テスト代と版画の材料費でした。どちらも教科書ではありません。
文部科学省の令和5年度子供の学習費調査によると、公立小学校の学校教育費は年74,336円。その内訳でいちばん大きいのが図書・学用品・実習材料費等の26,860円で、全体の36.1%を占めます。調査の注記では「授業のために購入した図書,文房具類,体育用品及び実験・実習のための材料等の購入費」と説明されています。ドリル、テスト、版画の板、絵の具、リコーダー。ここです。
国が配る教科書は年4,443円ぶん。教材費はその6.0倍あって、しかもこちらに無償の決まりは1行もありません。学年の途中で転校すれば、前の学校で発注済みの分と、新しい学校で新たに買う分が重なります。教科書は重ならないのに、教材は重なる。
読者
発注済みだから払え、というのは通るんですか。
法令に決まりがないので、学校と教材業者の運用次第になります。回答の中には「まだ手を付けていない版画は返品できるはずです。」という現場の話もありました。断られる前提で聞いてみる価値はあります。
私はこう見ています
私は、この制度の説明が「教科書は無償です」で止まっていることに問題があると見ています。
無償なのは教科書だけで、学校から来る請求の大半は無償の対象外です。それなのに家庭に届く言葉は「義務教育は無償」なので、テスト代の請求書を見た親は、自分が何かを間違えたのかと考えます。今回の相談者が「使わないかもしれないものを購入するのは」と書いたのは、その戸惑いだと思います。
もうひとつ、日付の条件が省令にしか書かれていないのも読み手に不親切です。文部科学省の一般向けページには教科書が違えば配られるとしか書いておらず、二月末日という線は施行規則を開いた人しか知りません。転校の日取りは家の都合で決まるものですが、線があること自体は先に知らせてよいはずです。
ここは制度の書き方についての私の意見です。法令の解釈や個別の請求の可否は、学校と教育委員会に確認してください。
転校が決まったらやること
順番があります。まず学校と役所の手続きを済ませないと、新しい学校は教科書を取り寄せられません。2024年の相談に、元小学校教員がこう書いていました。
教科書代は国庫負担です。従って、配布には厳重な手続きが必要です。
学校は、口頭の約束だけで、転入学児童の教科書を申請することはできません。
手続きの順番そのものは別の記事にまとめてあります。ここでは、教科書と教材のためにやることだけ並べます。
- 今の学校で教科用図書給与証明書を受け取る。転校先はこの紙を見て、足りない教科書だけ注文します
- いま使っている教科書の会社名と、どこまで進んだかを控える。国語なら習った漢字、算数なら目次のどこまで、で足ります
- 前の学校の教科書は捨てずに持っていく。同じ会社なら配られませんし、違っても進度の照合に使います
- 転校が決まった時点で、今の担任に日にちを伝える。ドリルやテストの発注が止まる可能性があるのはここだけです
- すでに発注済みだと言われたら、返品できるか業者に確認してもらえないか聞く
- 新しい学校には、来校の予約を取るときに、教科書と宿題を受け取りたいと伝えておく。取り寄せに1週間ほどかかります
引っ越し先がまだ決まっていない段階なら、先に学区と相場を見ておくほうが早く進みます。教科書は行き先が決まってからでも間に合いますが、住む場所は先に決まってしまうからです。
よくある質問
転校したら教科書は買い直しますか
買いません。国が購入して配ります。ただし配られるのは、二月末日までに転校し、かつ転校後の教科書が転校前と違うときです。同じ会社の教科書なら、今持っているものをそのまま使います。
同じ市内の引っ越しでも教科書は変わりますか
神戸市は市全体で1つの採択地区なので変わりません。全国で市の中が複数の地区に分かれているのは大阪市だけで、4地区24区に分かれています。それ以外の市町村では、市内の引っ越しで教科書が変わることはありません。
教科用図書給与証明書は何のための紙ですか
転校前にどの教科書を受け取っていたかを、新しい学校に伝えるための書類です。新しい学校はこれを見て、違う教科書だけを注文します。この紙が無いと、学校は教科書を申請できません。
転校のときに払わされる教材費は断れますか
法令に定めがないので、学校と教材業者の運用次第です。すでに届いて使い始めたテストは難しく、未着手の実習材料は返品できることがあります。転校の日にちを早く伝えるほど、発注前に止まる余地が残ります。
出典
- 義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律(昭和37年法律第60号)
- 義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律(昭和38年法律第182号)第5条
- 義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律施行規則(昭和39年文部省令第2号)第1条
- 文部科学省「教科書制度の概要」(令和8年4月)
- 文部科学省「採択地区一覧」(令和6年7月現在)
- 文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」
採択地区の集計は、文部科学省「採択地区一覧」47ページの構成市町村をこちらで数え直したものです(2026年9月5日取得)。地区数の合計581と、市区町村の合計1,741が公表値と一致することを確認しています。教科書費は「教科書制度の概要」表8(令和8年度用)、教材費は令和5年度子供の学習費調査の公立小学校・学校教育費によります。


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