借地の実家を相続して売ろうとしたら、地主が首を縦に振らない。ここで諦めてしまう人がいますが、借地借家法19条は「地主が承諾しないときは、裁判所が承諾に代わる許可を与えることができる」と定めています。売る道は残っています。
値段の出し方も決まっていて、更地の値段に借地権割合を掛けるだけです。世田谷区の住宅地なら更地が1㎡86万円台なので、割合が6割なら51万円台が目安になります。
この記事でわかること
- ✓ 地主が承諾しないときに、売る方法が法律のどこに書いてあるか
- ✓ 借地権がいくらになるか。計算に使う数字はどこで見るか
- ✓ 更新料や承諾料に、法律上の支払い義務はあるのか
- ✓ 自分の借地が旧法か新法か、どこで見分けるか
地主が承諾しなくても、裁判所が代わりに許可を出せます
まず条文をそのまま読みます。借地借家法19条1項です。
借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。
「借地権設定者」が地主、「借地権者」が借りている側です。地主が承諾しないというだけでは、売却は止まりません。裁判所に申し立てて、承諾に代わる許可をもらう道があります。借地非訟と呼ばれる手続きです。
読者
裁判というと、地主と争うことになりませんか。
条文は「地主に不利となるおそれがないにもかかわらず」承諾しないとき、と書いています。争うというより、不利ではないことを示す手続きです。
ただし同じ19条1項には、続きがあります。裁判所は当事者の利益の衡平を図るため、借地条件の変更を命じたり、許可を財産上の給付に係らしめることができる、と書かれています。平たく言えば、地主にいくら払うかを条件として付けられるということです。俗に承諾料と呼ばれるお金は、ここに根拠があります。

借地権の値段は「更地の値段 × 借地権割合」で決まります
次に値段です。国税庁のタックスアンサー4611は、こう書いています。
借地権の価額は、借地権の目的となっている宅地の自用地(他人の権利の目的となっていない場合の土地で、いわゆる更地をいいます。)としての価額に借地権割合を乗じて求めます。
必要なのは2つだけです。更地だったらいくらか、そして借地権割合が何%か。

借地権割合は、路線価図に載っています。道路に書かれた数字のうしろにアルファベットが付いていて、それが割合を表します。国税庁の説明はこうです。
記号に対する借地権割合の適合範囲は次のとおりです。A:90%、B:80%、C:70%、D:60%、E:50%、F:40%、G:30%
たとえば「215D」なら、1㎡あたりの路線価が215,000円で、借地権割合は60%という意味になります。路線価が付いていない地域は、市区町村ごとの評価倍率表を見ます。試しに令和8年分の芦屋市の評価倍率表を開いたところ、倍率地域の借地権割合は50%と書かれていました。
更地の値段は、実際に売れた金額で確かめられます
もう一方の数字、更地の値段です。国土交通省が公開している取引価格情報から、住宅地の「宅地(土地)」つまり更地の取引だけを抜き出して、1㎡あたりの中央値を出しました。借地権割合を6割・7割と置いたときの目安も並べます。
| 市区 | 更地の㎡単価 | 割合60%なら | 割合70%なら |
|---|---|---|---|
| 東京都世田谷区 | 861,905円 | 517,143円 | 603,334円 |
| 東京都杉並区 | 712,500円 | 427,500円 | 498,750円 |
| 東京都大田区 | 657,143円 | 394,286円 | 460,000円 |
| 東京都練馬区 | 495,974円 | 297,584円 | 347,182円 |
| 神戸市東灘区 | 416,026円 | 249,616円 | 291,218円 |
| 大阪市阿倍野区 | 414,216円 | 248,530円 | 289,951円 |
| 横浜市港北区 | 404,762円 | 242,857円 | 283,333円 |
| 京都市上京区 | 340,588円 | 204,353円 | 238,412円 |
| 神戸市兵庫区 | 225,175円 | 135,105円 | 157,623円 |
| 大阪市生野区 | 200,000円 | 120,000円 | 140,000円 |
100㎡の借地で、世田谷区、割合が6割だとすると5,100万円台という並びになります。桁を間違えていないかを確かめるには、じゅうぶんな精度です。
60%・70%は仮に置いた数字です。実際の割合は路線価図で確認してください。また相続税の評価額と、実際に買い手が付く金額は同じではありません。
更新料と承諾料は、法律に条文がありません
借地借家法の条文を最初から最後まで検索しました。「更新料」「承諾料」「名義書換料」は、1回も出てきません。
読者
では払わなくていいということですか。
そこは分けて考えます。法律が当然に義務づけてはいない、というだけです。
契約書に更新料の定めがあれば、その契約にしたがって支払う話になります。逆に契約書に何も書いていない場合、法律の条文を根拠に請求することはできません。だから最初に見るのは法律ではなく、手元の契約書です。
売却のときの承諾料は事情が違います。前に見たとおり、19条は裁判所が許可を財産上の給付に係らしめることができると定めています。法律に金額は書かれていませんが、金銭のやりとりが想定されていること自体は条文に書いてあります。
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1992年8月より前の借地は、更新しても旧法のままです
「旧法借地権」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。分かれ目は法律が変わった時点です。国土交通省の解説によれば、いまの借地借家法は平成3年10月に公布され、翌平成4年8月に施行されました。
そして借地借家法の附則6条には、こう書かれています。
この法律の施行前に設定された借地権に係る契約の更新に関しては、なお従前の例による。
ここを読み違えている人がいます。更新したからといって新法に切り替わるわけではありません。1992年8月より前に設定された借地権は、そのあと何度更新しても、更新のルールは旧法のままです。
- 契約書の日付が1992年7月以前 … 旧法の可能性が高い
- 契約書の日付が1992年9月以降 … 新法
- 1992年8月 … 施行日をまたぐので、契約書と登記で確かめる
私は、この附則6条が借地権の売買でいちばん誤解されている条文だと考えています。買う側にとっては、更新のルールがどちらかで手にする権利の重さが変わります。売る側が「うちは平成に更新したから新法です」と説明してしまうと、あとで話が食い違います。
新法で創設された定期借地権は、期間が終わると更新なしで土地を返す契約です。名前が似ていますが、ここまでの話とは別物です。
存続期間は30年。建物があるかどうかで話が変わります
借地借家法3条は「借地権の存続期間は、三十年とする」と定めています。期間が来たときにどうなるかは、5条1項に書かれています。更新を請求したときは建物がある場合に限り、従前と同じ条件で更新したものとみなす、という書き方です。
地主が更新を断るには、6条の「正当の事由」が必要です。条文は、双方が土地を使う必要性のほか、これまでの経過、土地の利用状況、そして地主が明渡しの条件として財産上の給付を申し出たかどうかを考慮する、と定めています。立退料の話が出てくるのはこの部分です。

借地の実家を売るときに、先に調べる4つ
読者
何から手をつければいいですか。
地主に話を持っていくのは、いちばん最後で大丈夫です。
- 契約書の日付。1992年8月より前かどうかで、更新のルールが変わります。更新料や承諾料の定めがあるかも、ここで確認します
- 路線価図の記号。国税庁のサイトで住所から開けます。道路の数字のうしろのアルファベットが借地権割合です。路線価が無い地域は評価倍率表を見ます
- 更地だったらいくらか。実際に売れた金額から調べておくと、1と2を掛け合わせて自分で目安が出せます
- 建物の登記。建物が自分の名義で登記されていれば、第三者に対しても借地権を主張できます。ここが未登記だと話がややこしくなります
この4つが手元にあれば、地主や買取業者と話すときに、相手の言い値を確かめる材料がそろいます。「借地だから安くしか売れない」と言われたときに、その安さが割合のぶんなのか、それ以上なのかを自分で判断できます。
この記事は2026年8月時点の法令で書いています。個別の可否は契約書と土地の状況で変わるので、進める前に専門家に確認してください。
出典
- 借地借家法(平成三年法律第九十号) — 3条・5条・6条・19条・附則6条(e-Gov法令検索)
- 国税庁 タックスアンサー No.4611 借地権の評価
- 国税庁 財産評価基準書「路線価図の説明」 — A〜Gの借地権割合、「215D」の読み方
- 国土交通省「定期借地権の解説」 — 公布と施行の時期
- 更地の㎡単価は、国土交通省 不動産情報ライブラリ 不動産取引価格情報のうち、2023年1〜3月期から2026年1〜3月期に公表された住宅地の「宅地(土地)」で、面積50〜400㎡・価格100万円〜5億円のものを当サイトで集計した中央値です。取引件数が30件に満たない区は載せていません。取引価格情報に借地権かどうかの区別は無いため、この表は更地の実勢から逆算した目安であり、借地権の成約価格そのものではありません


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